水の色に染まった鮎。「鴨川あゆ」京都の初夏を、生姜の清涼感を閉じ込めた求肥で味わう
初夏の和菓子といいますと、葛や寒天を使用したものが増えてきますが、もうひとつ欠かせないものが鮎菓子。
薄いカステラ生地で求肥を撒いた調布スタイルの鮎が一般的ですが、「俵屋吉富」さんの鮎菓子はなかなか珍しくどこかファンタジックな装い。
今回は「鴨川あゆ」をご紹介。
もち米の香ばしさと軽やかさ、求肥の甘味といったもち米の長所を様々なアプローチで味わえるお菓子。生姜のさらりとした爽やかな風味を纏った求肥は、ガツンとした辛みやパンチをきかせるのではなく、ほんのわずかにピリッとした刺激を残して引いていきます。上品、その言葉がしっくりくる良い塩梅のさじ加減です。
水色の薄種がなんとも儚げな佇まい。薄種と申しますのは、もち粉を溶かした生地を薄い丸型に焼き上げたもの。味わいや食感といたしましては、最中を想像していただけると分かりやすいかもしれません。
その薄種に求肥をのせ、蒸気をあてながら丁寧に折り曲げて求肥を鮎の体の中に閉じ込めていきます。速すぎると割れてしまったり、遅すぎると歪んでしまったりなど、職人さんの技量が求められる工程です。
一匹ずつ描かれたお顔の愛嬌の良さに、どこか妖精のような雰囲気を感じるような気がします。もしくは、おとぎ話の中のおさかなのような。
温かいお茶だけではなく、アイスティーや冷たい緑茶といった冷たい飲み物にも相性抜群であろうこちらのお菓子は、季節のお手土産にも相応しいのではないでしょうか。「鮎をお持ちしました。」と言いながら差し出したら、言葉のギャップと見た目の意外性に、思わず笑みがこぼれてしまうのでは。お茶の席の話題にもなりそうですね。
鴨川の水に足を浸す人間と、若々しい肢体を清流に躍らせながら戯れる鮎の光景が思い浮かぶような気がします。
ひとつの和菓子から思い浮かぶ、その季節ならではの情景。その場におらずともそれぞれの景色と共に過ごす豊かな時間。
敢えていうならば、情緒、でしょうか。