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【最新研究】プロバイオティクスによる発毛促進・フケ予防効果に注目!複数の臨床試験で示唆される可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:アフロ)

プロバイオティクスとは、ヨーグルトや漬物などの発酵食品に含まれる有益な菌のことを指します。腸内環境を整えたり、免疫力を高めたりする効果があることはよく知られていますが、近年では毛髪の健康にも影響を与える可能性が示唆されており、脱毛やフケに悩む人々の注目を集めています。

今回は、最新の研究データを踏まえ、プロバイオティクスの発毛促進効果とフケ予防効果について、その可能性とメカニズムを探っていきます。現在のエビデンスを整理し、今後の展望について考察していきたいと思います。

【プロバイオティクスの発毛効果を示唆する臨床試験】

プロバイオティクスの発毛効果については、いくつかの臨床試験で興味深い結果が報告されています。

韓国で実施された無作為化比較試験では、男性型および女性型脱毛症の患者46名を対象に、プロバイオティクス(キムチと納豆由来の菌株を含む)またはプラセボを12週間摂取してもらいました。その結果、プロバイオティクス群では4ヶ月後の時点で有意な発毛効果が認められ、毛髪の密度と太さが改善したことが示されました[1]。

また、台湾の研究グループが行った二重盲検プラセボ対照試験では、脱毛に悩む26名の被験者にプロバイオティクスサプリメント(L. acidophilus, B. lactis, L. rhamnosus, L. paracaseiを含有)を12週間摂取してもらったところ、96.2%の参加者で毛髪の密度が改善し、抜け毛が減少したという結果が得られています。加えて、頭皮のかゆみの緩和や、皮脂量の減少、頭皮の保湿力の向上などの効果も認められました[2]。

これらの結果は、プロバイオティクスが発毛を促進する可能性を示唆するものですが、サンプルサイズが小さく、追試による再現性の確認が必要な段階です。また、研究によって用いられたプロバイオティクスの種類や株、摂取量が異なっており、至適条件の検討が求められます。

【フケの原因菌マラセチア属に対するプロバイオティクスの抑制効果】

フケの主な原因は、マラセチア属の真菌の過剰増殖であると考えられています。プロバイオティクスがマラセチア属の増殖を抑制し、フケの予防・改善に寄与する可能性を示唆する研究がいくつか報告されています。

L. paracasei NCC2461 ST11株を含む食品の摂取が、中等度から重度のフケの改善に有効であったとするランダム化プラセボ対照試験があります。58名の健康な成人男性を対象に4週間の介入を行ったところ、ST11株の摂取群でフケの重症度や頭皮の瘙痒感が有意に改善したことが示されました[3]。

In vitro(試験管での実験)の検討では、L. plantarum APsulloc 331261株および331266株の培養上清がマラセチア属をはじめとする皮膚常在菌の増殖を濃度依存的に抑制したことが明らかになっています[4]。プロバイオティクスが産生する抗菌物質が直接的にマラセチア属の増殖を阻害している可能性が考えられます。

ただし、ヒトを対象とした臨床試験のデータはまだ限られており、プロバイオティクスのフケに対する有効性を確定するには至っていません。用いる菌株や摂取方法など、さらなる検討が必要とされる段階です。

【プロバイオティクスがもたらす毛髪への効果のメカニズム】

それでは、プロバイオティクスはどのような作用機序を介して毛髪に影響を及ぼしているのでしょうか?現在考えられているメカニズムについて解説します。

1. 腸-脳-毛包軸を介した作用

近年、腸内細菌叢(腸内フローラ)と毛髪の健康状態との関連が注目されるようになってきました。腸は「第二の脳」とも呼ばれ、腸内フローラの乱れが全身の健康に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。プロバイオティクスは腸内フローラのバランスを整える働きがあり、それが脳を介して毛包の機能や毛周期に影響を与えているのではないかと推測されています。

2. 免疫調節作用と炎症制御

プロバイオティクスには免疫調節作用があることが知られています。毛包では、炎症性サイトカイン(IL-1、TNF-αなど)の過剰産生が毛髪の成長を阻害する要因となりますが、プロバイオティクスがこれらの産生を抑制することで、毛包の炎症を鎮静化し、健やかな髪の成長を促進するのではないかと考えられています。

3. 成長因子の発現促進

毛包の成長には、VEGF(血管内皮増殖因子)やIGF-1(インスリン様成長因子1)などの成長因子が重要な役割を果たしていることが知られています。プロバイオティクスの摂取がこれらの成長因子の発現を高め、毛包の成長期(アナゲン期)を延長させることで発毛効果を発揮する可能性が指摘されています。

4. 抗酸化・抗糖化作用

活性酸素種(ROS)は毛包のダメージや老化を引き起こす要因の一つです。プロバイオティクスの中には、抗酸化物質を産生するものがあり、ROSによる毛包へのダメージを軽減する可能性が考えられます。また、プロバイオティクスの発酵代謝物である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)には抗糖化作用があることが報告されており[5]、毛包の老化予防に寄与するのではないかと推測されています。

以上のように、プロバイオティクスは腸内環境の改善、免疫調節、炎症制御、成長因子の発現促進、抗酸化・抗糖化作用など、多岐にわたる機序を介して毛髪の健康に影響を与えている可能性があります。ただし、これらの作用機序に関する知見の多くは動物実験レベルの段階であり、ヒトでの検証はこれからという状況です。

【プロバイオティクスの毛髪への効果に関する研究の課題と今後の展望】

現在のところ、プロバイオティクスの毛髪への効果を示唆する研究結果は得られつつありますが、エビデンスレベルとしてはまだ不十分な段階にあります。今後の研究においては以下のような課題に取り組む必要があります。

・大規模かつ長期的な臨床試験の実施

現状、ヒトを対象とした臨床試験のデータは限られており、小規模な研究が中心となっています。より確実なエビデンスを得るためには、サンプルサイズを十分に確保した大規模な臨床試験を実施し、プロバイオティクスの有効性を検証する必要があります。また、長期的な効果や安全性についても評価していく必要があるでしょう。

・プロバイオティクスの至適条件の検討

プロバイオティクスの効果は、菌株や摂取量、摂取期間などによって異なる可能性があります。どのような種類・菌株のプロバイオティクスをどの程度の量・期間摂取するのが最も効果的なのか、至適条件の検討が求められます。

・作用メカニズムの更なる解明

プロバイオティクスが毛髪に及ぼす影響のメカニズムについては、まだ推測の域を出ない部分が多く残されています。動物モデルやin vitroの評価系を活用しながら、分子レベルでの作用機序の解明を進めていく必要があります。

プロバイオティクスによる発毛促進効果やフケ予防効果は、薄毛やフケに悩む多くの人にとって朗報となる可能性を秘めています。しかし、現時点では研究の蓄積がまだ十分とは言えず、安易に利用を推奨するのは時期尚早でしょう。今後の研究の進展に期待するとともに、腸内フローラを整える生活習慣を心がけることが、皮膚や毛髪の健康維持につながるのではないかと考えます。

薄毛やフケは、ストレスや睡眠不足、ホルモンバランスの乱れなど、様々な要因が絡み合って起こる多因子性の問題です。プロバイオティクスは、そのうちの一つの要因に働きかける可能性のある手段ではありますが、万能薬ではありません。生活習慣の改善など、基本的なケアを怠らないことが何より大切だと言えるでしょう。

【参考文献】

[1] Park DW et al., World J Mens Health. 2020, 38(1):95-102.

[2] Yu P et al., FFHD. 2022, 12(7):394-409.

[3] Reygagne P et al., Benef Microbes. 2017, 8(5):671-680.

[4] Chae M et al., Front Biosci (Elite Ed). 2021, 13(1):237-248.

[5] Tsai WH et al., Int J Med Sci. 2021, 18(5):1114-1120.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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