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「ローソン」人気スイーツの工場に潜入!新感覚の洋風どら焼きは、こう作られる

笹木理恵フードライター
ローソン「どらもっち」の製造風景

「バスチー」をはじめ、オリジナルスイーツが絶好調のローソン。幅広い世代に愛されるスイーツは、どのように作られているのだろうか。今回は特別に、「バスチー」と並んでヒット商品に成長している「どらもっち」の工場を取材。徹底した衛生管理や、素材や製法にこだわった製造現場を見せていただいた。

市場リサーチを重ねて誕生した、新感覚の洋風どら焼き

ローソンの「どらもっち」(税込180円)。定番の「あんこ&ホイップ」(写真)と、抹茶やチョコなどの季節限定フレーバー1品の計2品が販売されている。
ローソンの「どらもっち」(税込180円)。定番の「あんこ&ホイップ」(写真)と、抹茶やチョコなどの季節限定フレーバー1品の計2品が販売されている。

「どらもっち」とは、2019年5月の発売以来、シリーズ累計700万個を売り上げているローソンの人気スイーツ。8月には新フレーバーの「チョコチップ&ホイップ」も発売され、今後も新たな看板スイーツとして育てていく方針だ。

「どらもっち」の開発を手掛けたのは、前回のインタビューでもおなじみのスイーツ担当・平原さん。「どら焼きは、どこのコンビニにもあるアイテムで、和スイーツの中ではとくにニーズが高い商品です。今回、そのどら焼きをブラッシュアップしようというところから開発がスタートしました」(平原さん)。

(画像提供/ローソン)もちもちとした薄皮生地に、あんことクリームがたっぷり。
(画像提供/ローソン)もちもちとした薄皮生地に、あんことクリームがたっぷり。

常温、チルド問わず全国のいろいろなタイプのどら焼きをリサーチしたところ、パンケーキのようなふわふわ生地の洋風どら焼きが多いことが判明。そこで、あえてそこにはいかず、多くの日本人が好きなもちもちとした生地にこだわり、従来にないどら焼きを目指すことにした。「ひとつ前のどら焼きは、あんことホイップが混ざった状態のクリームになっていましたが、昨今はあんことホイップが別々なのが主流。仕立てに関しては、オープンタイプで中身を見せるどら焼きが多かったのですが、お客様が食べにくいのではと考え、耳をとじた現在の形を提案しました」(平原さん)。

「どらもっち」は現在、全国3ヵ所の工場で製造されており、今回はそのうち茨城・坂東市にある工場へお邪魔させていただいた。

徹底した衛生管理のもと、工夫を凝らした機械で製造

工場を訪れてまず感心したのは、しっかりと衛生管理が徹底されていることだ。スイーツの場合、生クリームや卵といった菌が繁殖しやすい素材を扱うこともあって、衛生管理の重要性は大きい。 同工場では菌管理を徹底しており、また、従業員の服装も徹底していて、工場に入る前には異物混入などのリスクを防ぐ入室手順を行っている。

生地には、「ながいも」と「米ペースト」を加え、独特のもちもち食感に。
生地には、「ながいも」と「米ペースト」を加え、独特のもちもち食感に。

さて、いよいよ「どらもっち」の製造現場へ。最初の工程は、「生地づくり」。小麦粉、卵、砂糖などの材料を業務用ミキサーで撹拌し、生地を作る。特徴的なのは、「ながいも」と「米ペースト」が入っていることで、これにより時間が経っても、もちもち、しっとりとした食感をキープできるという。

生地は、銅板の上に流して焼く。生地自体の重みで、きれいな円盤状に広がる。
生地は、銅板の上に流して焼く。生地自体の重みで、きれいな円盤状に広がる。

次に、出来上がった生地を、熱伝導性のよい銅板の上に流して焼く。極薄の生地ゆえ、すぐに火が通ってしまうため、焼き時間や温度などを何度も調整したというのが第一のこだわり。さらに、生地は丸い型に流すのではなく、充填機で銅板の上に落とし、生地自体の重みによって自然に丸く広がるようにしているため、ちょうどよい大きさの円に広がるような生地の固さに調整するのにも苦労したという。

上火を当てるのは、ごく一瞬。
上火を当てるのは、ごく一瞬。

生地を焼成したのち、長いコンベア上に流して生地の粗熱をとり、次の工程へ。ちなみに生地の焼き色の基準も設けられており、焼きムラがあるものははじかれる。

写真中央の生地4枚が、ひっくり返ってふたたびレーンの上に着地する。
写真中央の生地4枚が、ひっくり返ってふたたびレーンの上に着地する。

粗熱がとれた生地は、いよいよあんこやクリームとドッキングさせる。ここでユニークなのが、生地が流れるレーンの中央に設置されたジャンプ台。焼き色のついた面を外側にしてあんとクリームをはさむため、上にくる生地の表裏がここで反転するのだ。動画でお見せできないのが残念だが、ぴょんっと宙を舞い、くるっとひっくり返って着地する様は、まるでスキージャンプのように華麗で鮮やかだ。

あんこ、クリームの順で中身を絞る。薄い生地に対して、かなりの量のクリームが入っていることがわかる。
あんこ、クリームの順で中身を絞る。薄い生地に対して、かなりの量のクリームが入っていることがわかる。

裏と表、4枚ずつの生地が1セットで流れていき、ついにあんことクリームの充填工程へ。先にあんこが絞り出され、続いてクリームが絞られる。極薄の生地に対して、あんとクリームの量の多いこと!ムニュー、ムニュー、と絞られていく姿がなんともかわいらしく、延々と見ていられそうなくらい飽きない。

どらもっち専用に開発した「耳締め機」。生地をつぶさず、クリームがはみ出さないよう、絶妙な力加減で耳をとじる。
どらもっち専用に開発した「耳締め機」。生地をつぶさず、クリームがはみ出さないよう、絶妙な力加減で耳をとじる。

そして、「どらもっち」の製造においてもっとも特徴的なのが、最後の「耳締め」と呼ばれる工程。 「どらもっち」は生地の縁をきれいにとじることで、中のあんとクリームがこぼれないようにするとともに、ぽってりとしたかわいらしいフォルムを実現させている。まさに「どらもっち」をヒットに導いた大事な工程であるわけだが、開発工程でもっとも苦労を要したのもこの耳締めの工程だったという。

あんことクリームが充填された後、上に生地が重ねられて耳締め器があるところまでコンベアで流れる。その後、耳締め器の下部分のみが上に向かって動き、生地の縁のみがほどよい力でプレスされてとじられる。ポイントは上下の生地がずれないようにすること。中身がたっぷりと入っているので、上下の生地が少しでもずれるとクリームが出てしまう。クリームが出ず、かつ形状を維持したまま理想の形に包むのに苦労したそうだ。

生地がやわらかいため、カップにのせる工程は人の手で行われる。
生地がやわらかいため、カップにのせる工程は人の手で行われる。

完成した「どらもっち」は、つぶれないようにカップにのせられ、自動包装機で包装される。通常は、冷蔵状態で各地の配送センターに納品されたのち、店舗へ運ばれる。消費期限は、製造から6日間。フードロス問題の観点から、スイーツの消費期限をできるだけ長く設定する努力も、ここではいち早く行われている。

出来立てはもちろん、時間が経っても美味しい

できたての「どらもっち」。手に持つと、あんとクリームの重量感が伝わってくる。
できたての「どらもっち」。手に持つと、あんとクリームの重量感が伝わってくる。

見学後、できたての「どらもっち」を別室にて試食させていただいた。封を開けた瞬間、先ほどまでいた工場と同じ香ばしい香りが漂ってくる。指に吸い付くようなしっとり、もっちりとした触感。できたてで食べているせいか、あんこの香りもいつもより濃厚に感じられた。

そして、生地やあんこの美味しさを引き立てる、すっきりした味わいのクリーム。クリームそのものを味わうのではなく、あくまで副素材の味を引き立てるクリームとして開発したもので、別名「あなた色に染まりますクリーム」。現場のノウハウが詰まった自信作だ。「どらもっちは、出来たても美味しいですが、少し時間をおくと生地とクリームやあんがなじんできます。やっぱり、しっかり冷やして食べるのがおいしいですね」と工場担当者。消費者の手元に渡ったときに美味しく味わえるような商品設計も、コンビニスイーツにおいては重要なポイントとなる。

こだわりの「あなた色に染まりますクリーム」。ブランデーを隠し味に加え、後味をスッキリさせている。
こだわりの「あなた色に染まりますクリーム」。ブランデーを隠し味に加え、後味をスッキリさせている。

また、「どらもっち」は、工場で製造されているとは言え、その工場を、機械を操るのは技術者たちだ。同じレシピで一年中作っていても、気温や湿度、季節の影響を受けるし、原材料もずっと同じ状態のものが手に入るわけではない。とりわけ夏は、卵の質が変わったり、高温で生地がだれたりしやすいため、レシピの微調整が不可欠だという。

「どらもっち」はこれまで3種類のフレーバーが販売されたが、今後はどんな味の組合せが登場するのかも、楽しみだ。

※クレジットのない画像は、すべて筆者撮影

フードライター

飲食業界専門誌の編集を経て、2007年にフードライターとして独立。専門誌編集で培った経験を活かし、和・洋・中・スイーツ・パン・ラーメンなど業種業態を問わず、食のプロたちを取材し続けています。共著に「まんぷく横浜」(メディアファクトリー)。

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