井上尚弥に比肩する才能。同じく父に指導される米国の超新星がインパクト抜群のTKO勝ち
必見の左クロス
13日(日本時間14日)米国テキサス州コーパスクリスティのアメリカンバンク・センターで大手プロモーション「トップランク」が開催したイベントに出場したライト級、アブドゥラー・メイソン(米)が8回戦でロネル・ロン(ベネズエラ)に4回1分2秒TKO勝ちを飾った。今月5日に20歳の誕生日を迎えたばかりのメイソンは13勝11KO無敗。ランキングはまだWBC30位だが、2021年10月にトップランクとサインを交わして翌月プロデビューした逸材はアマチュア時代からプロ関係者の目に留まっていた。
当時17歳。トップランクを率いるボブ・アラム・プロモーターは「アブドゥラー・メイソンはエキサイティングなヤングファイターの一人。プロフェッショナルでセンセーションを巻き起こす準備ができている。すでに世界のプロのベストな選手とスパーリングを重ねており、誰もが彼の才能と職業意識を大絶賛している。この子はスペシャルなタイプなんだ」と売り込んだ。期待に応えてメイソンはここまで順調なキャリアを送っている。
昨夜のロンとの一戦は中継したESPNがメインのヘビー級ダブルヘッダーの途中でハイライトの映像を流し、幾多のプロスペクトの中でもメイソンが飛び切りの新鋭であることを物語った。1ラウンド開始ゴングが鳴り、サウスポーのメイソンが放った左クロスをアゴに直撃されたロンがリング中央に尻もちをつく。このシーンだけピックアップしても試合を観る価値があったといえるだろう。
アブドゥラー・メイソンvs.ロネル・ロン
レフェリーがカウントを数えた後、20歳の俊英は元ベネズエラ・スーパーフェザー級王者ロン(26歳)が放つパンチをかわしてラウンド終了。2回、右ジャブを決めるメイソンは左アッパーカットを浴びせ、リードをキープ。ロンの攻撃をボディーワークでかわす攻守一体のボクシングを披露する。3回終盤、左ボディーブロー2発で再びロンを落下させたメイソンは続く4回、左ボディー打ちでダメージを与えた後、連打で猛然とチャージ。それまでと見たレフェリーがたまらずストップをかけた。
ファミリービジネス
「グレートなパフォーマンスを披露できたと思う。攻め焦らずにじっくり対処した。試合ごとにベターになっている。トップとやれる自信も湧いてきた。でもここで『誰と対戦したいか』名前を挙げることは避けたい。父といっしょに強くなって行く」
試合後インタビューでこう発言したメイソンはオハイオ州クリーブランドが地元。昨夜もチーフセコンドに就いた父バリアント・メイソンの手ほどきでグローブを握った。3人の兄アミール、アデル、アブドゥラーマン、弟のイブラヒムもボクサーというボクシング一家の出身。クリーブランドでは「ボクシングのジャクソン・ファイブ」とも呼ばれる。一家はメイソンのプロ転向を機会にラスベガスに移り、一段とボクシングにはまり込んでいる。
出世頭のアブドゥラーは2017年全米ジュニア・オリンピック優勝に続き、18年と19年にジュニア・オープン大会を制覇。そして21年には、これも全米規模のユース・タイトルを獲得。アマチュアレコードは65勝15敗。
性格も良好な努力型
父・井上真吾トレーナーのコーチで腕を磨き、アマチュアで実績を残したスーパーバンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)とメイソンは共通するものを持っている。井上とメイソンはオーソドックスとサウスポーの違いがあるが、そのスキルとパワーとスピード、さらにキラーインスティンクトに秀でたものが感じられる。アラム氏が強調するようにスペシャルなのだ。
中継したESPNも触れていたが、メイソンの長所は普段の立ち振る舞いにもある。物腰が柔らかく、インタビューにもていねいに答える。ジムでは父と兄弟たちと切磋琢磨し、常に努力を惜しまない。昨夜メインイベントに登場したヘビー級ホープ、ジャレッド・アンダーソン(米)、スポットでインタビューを受けた東京五輪ライト級銀メダリストで、プロでもランキング入りしているキーション・デービス(米)が昨年起こしたスキャンダルとは無縁の生活を送っている。
ラスベガスに移り住んだ後、メイソンは前ライト級4団体統一王者で現WBC世界スーパーライト級王者デビン・ヘイニー(米)、WBC世界ライト級王者シャクール・スティーブンソン(米)らともスパーリングをこなし、その才能が一目置かれている。早くもライト級周辺のチャンピオン、ランカーから脅威の存在と見られ始めている。
その一人がWBO世界スーパーライト級王者テオフィモ・ロペス(米)。「アブドゥラー・メイソンはトップランクとESPNの次なる宝石だ」とソーシャルメディアで発言。暗に「対戦は避けたい」と匂わせながら、メイソンの実力に魅了されている様子だ。
もっとも負けにくいヘイニーに勝てる?
ヘイニーが全ベルトを返上してスーパーライト級に進出したライト級はWBC王者スティーブンソン、WBA王者“タンク”ことジェルボンテ・デイビス(米)がそれぞれ7月に次戦を予定。IBFは5月12日、豪州でワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とジョージ・カンボソス(豪州)が王座決定戦を行う。そしてWBO王座は1週間後の5月18日、WBO世界スーパーフェザー級王者エマヌエル・ナバレッテ(メキシコ)とデニス・ベリンチク(ウクライナ)が王座決定戦に出場する。
メイソンの出番はまだ先で、彼が世界挑戦スタンバイ状態になった時、どんな状況になっているかは想像に任すしかない。他方でメイソンが世界に挑むなら、1クラス上のスーパーライト級が相応しいと記すメディアもある。そして今のメイソンでもヘイニーに勝てそうだという意見も聞かれる。
現在、全17階級でもっとも負けにくいスタイルを持っていると言われるヘイニーと正反対のスタイルで戦うのがメイソンだと(ボクシングニュース24ドットコム)。もちろんその指摘は「負けやすい」、「欠点が多い」という意味ではなく、どこまでもエキサイティングだという意味だ。それだけでも彼に肩入れする価値があると思う。