ソニーの新デバイス「Project Q」2023年発売 ”携帯ゲーム機”の不利をカバー
ソニーの新デバイス「Project Q」が25日、動画配信番組「PlayStation Showcase」で発表されました。8インチのディスプレーがあるように携帯ゲーム機のように見え、「PS5のゲームが遠隔でプレーできる」という触れ込みです。判明している範囲で考察します。
◇新デバイス? 携帯ゲーム機?
「Project Q」について
・商品名は仮称
・2023年発売予定(発売日と価格は未発表)
・PS5本体とネット環境(最低5Mbps、推奨15Mbps)が必須
・PS5のコントローラーと同じ機能を備える
ポイントは「携帯ゲーム機」のようなデザインですが、「新デバイス」とある通り、PS5のコントローラーの延長線上にあることです。もちろんコントローラーにはディスプレーがあり、PS5のゲームが遠隔でプレーできるので、感覚的には(制限はあるものの)携帯ゲーム機のように使える設計にしてあるのは明白です。
ただしPS5本体とネット環境が必須なので、厳然と違うのも確かです。
となると……「Project Q」の価格だけでなく、PS5本体の価格が必要になるのです。PS5を持たないユーザーからすれば、従来の携帯ゲーム機のようにお手軽に購入……とはいきません。
それでも同機は、「携帯ゲーム機」の持つビジネス上のリスクを抑え込んでいます。
◇携帯ゲーム機 出荷数は激減
まず、近年のゲーム機市場で、携帯ゲーム機は、主戦場である欧米で売れません。日本では人気があるので、なかなかピンとこないところなのですが……。
例えば、任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」は国内で2500万台以上売れたものの、世界では約7500万台で、前世代機「ニンテンドーDS」と比べて半減しました。
ソニーの携帯ゲーム機「PS Vita」は出荷数が非開示で、第三者の調査機関によると、前世代機「PSP」と比べて出荷数は3分の1から4分の1になっていると推測されます。ソフトメーカーの担当者らも「欧米で携帯ゲーム機のソフトは売れない」と口をそろえる状況です。
ニンテンドースイッチは、家庭用ゲーム機と携帯ゲーム機の機能を統合し、ラインナップの一つとして「ニンテンドースイッチライト」を販売しています。この手法で、携帯ゲーム機を希望するユーザーにも商品を届けつつ、携帯ゲーム機を単独で販売するリスクを抑えているわけです。
◇巧みなブランディング
今回の「Project Q」も、大人気のPS5の「周辺機器」という位置づけにすることで、「携帯ゲーム機」のような機能を持たせながら、ビジネスのリスクを可能な限り排除するという考えは似ています。さらに言えば、この手のツールを真っ先に購入するコアユーザーは、金額をさほど気にしません。
これが携帯ゲーム機であれば最優先は普及なので、商品の利益をなるべく削って価格を抑えることが要求されます。しかしゲーム機でない以上、利益の取れる価格設定を選べるのは、ビジネス上の利点と言えます。もちろん、売れるに越したことはないですが、売れずとも業績にダメージが出るとは考えづらいところです。
顧客単価がアップし、出先でもPS5のゲームを遊んでもらえ、サービスの稼働率が上がります。それはプレイステーション・ブランドへのロイヤリティー(忠誠心)につながり、「少数派」の携帯ゲーム機の登場を望むファンへの商品提案にもなっています。出先でPS5のソフトを遊ぶことでの「宣伝効果」も少なからずあるでしょう。
むしろ購入希望者が気にするのは、価格ではなく機器の性能と使い勝手で「外出先などで、どれだけ快適にゲームがプレーできるか」でしょう。これはゲームの技術以上に、ネット環境の影響が大きく個人差がありそうです。とはいえ、次第に解消されていく流れにあると考えられます。いずれにしてもゲームを遊ぶ時の「選択肢」がまた一つ増えるというのは、大小の差はあれ歓迎されそうです。
ともあれ、本質的には画面のあるコントローラー……端末なのですが、「携帯ゲーム機」の不利をカバーしつつ、あたかも「携帯ゲーム機」のようにイメージさせるのは、ブランディング的にも巧みといえそうです。
仮にうまくいかずとも、ゲーム機の失敗時のようなダメージを気にする必要もなく、(ゲーム機ではないので)累計出荷数を問われづらく、メディアからゲーム機と同列にして「失敗」と言われづらいのもポイントでしょうか。そう考えると、したたかな戦略と言えそうです。