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にゃんともかわいい「ネコハラ」という社会現象 動物行動学から考察

石井万寿美まねき猫ホスピタル院長 獣医師
ゆーこ@920_famさんのXより

ネコハラ、正式には「猫ハラスメント」という言葉をご存じでしょうか?

パワハラ(パワーハラスメント)やセクハラ(セクシャルハラスメント)などの言葉が社会に広く浸透している中で、ネコハラもまた、現代社会の中で注目される現象の一つとなっています。今日は、動物行動学の視点も入れてネコハラをみていきましょう。

ネコハラとは?

ネコハラは、文字通り猫が飼い主に対して行うハラスメント行為を指します。ネコハラという言葉は、ユーモラスな響きを持ちながらも、実際には飼い主と猫の関係における重要な問題を示しています。

行動学の観点から見ると、猫は元来狩りをする動物です。

自然界では、一日に何度も小さな獲物を捕まえることで食事をしています。この狩猟本能は、室内飼いの猫にも強く残っており、遊びの中で表現されることが多いです。猫は動くものに敏感で、追いかけたり、捕まえたりすることが大好きです。

この猫の行動を理解していると、以下のようなことが起こるのは理解できると思います。

例えば、飼い主が作業をしている際にキーボードの上に座り込む、夜中に突然鳴いて飼い主の睡眠を妨げる、ドアを引っ掻いて開けさせようとするなど、その行動はさまざまです。

これらの行動は、一見して愛らしく、飼い主にとっては微笑ましいことも多いのですが、度が過ぎるとストレスや困惑を引き起こすことがあります。

なぜネコハラが増えたか?

昔から猫はペットとして飼われていました。それなのに、なぜネコハラという言葉ができたのでしょうか。

1、ハラスメントの定義が一般的になった

「ハラスメント(harassment)」は、嫌がらせ、いじめ、苦しめる、悩ませる、迷惑、困却などの意味を持つ英語の名詞ですが、現在の日本では一般的な用語として、多くの人に使われています。

「ハラスメント」という一般用語として定着してきています。ハラスメントの中でもなんといっても早くから出てきた言葉として「セクシャル・ハラスメント」(セクハラ)があります。

性的な嫌がらせを意味する「セクシャル・ハラスメント」は、1980年代から一般的にも社会問題として取り上げられるようになりました。さらに1989年(平成元年)に日本で初めて職場でのセクハラを問う裁判が起こされ、さらには同年の新語・流行語大賞を受賞しています。

ハラスメントの中にはそれ以外に「パワハラ」「モラハラ」「マタハラ」などがあります。

2、猫の飼育頭数が増えた

「一般社団法人ペットフード協会2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査 結果」 より
「一般社団法人ペットフード協会2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査 結果」 より

令和4年の猫の飼育頭数は約883万7千頭、犬の飼育頭数は約705万3千頭です。つまり上のグラフからもわかるように、猫の飼育頭数は犬の飼育頭数より約178万匹多いのです。

2014年から犬より猫の飼育頭数が多くなっています。

この理由は、犬より猫の方が飼いやすいためです。犬は散歩がいるけれど猫はいらない、猫は犬よりフード代が安いなどがあります。

そのような理由から、ペットとしての猫の数は増えています。

3、猫の完全室内飼い

以前は、猫は外に出て行く飼い方が多かったです。

しかし、最近では室内飼いの子が増えています。つまり24時間家にいるので、猫の方でもコミュニケーションの相手に飼い主を選ぶようになるので、このようなネコハラが生まれるのです。

外に出ていると、他の猫に追われたり、小動物をハンティングしたり、猫同士の喧嘩があったりなどエネルギーを消耗することが多いです。そんな猫は、飼い主にちょっかいを出せず疲れて眠っています。

完全室内飼いのため、それほど疲れることもないので、飼い主にネコハラをすることになる子もいるのです。

イヌハラはないのか?

犬は猫のように高いところに登れないので、ネコハラほど深刻ではありません。それでネコハラよりイヌハラは少ないのです。

イヌの場合は、飼い主がトイレや風呂場に行くとそこで、待っていることがあります。しかし、犬は、部屋で飼い主がパソコンをしていると机に上ってパソコンのキーボードを占領することはなかなかできません。

犬は猫のように上下運動ができないので、イヌハラはそれほど深刻にはならないのです。

ネコハラの対処方法

ゆーこ@920_famさんのXより
ゆーこ@920_famさんのXより

では、ネコハラにどう対処すれば良いのでしょうか?

まず、猫の行動を理解することが重要です。

多くの場合、猫がハラスメントと見なされる行動を取るのは以下の理由です。

・ストレスや不満

・単に遊びたいという欲求

例えば、夜中に鳴く猫は、日中に十分な運動や刺激を得られていない可能性があります。この場合、日中にたくさん遊ばせたり、新しいおもちゃを提供したりすることで解決できるかもしれません。

また、猫の居住空間を見直すことも重要です。

猫がリラックスできる静かな場所を提供することで、過剰なストレスを軽減できます。さらに、猫とのコミュニケーションを深めるために、定期的にスキンシップを取ることも有効です。

しかし、ネコハラの対処において最も重要なのは、飼い主自身がストレスを感じすぎないようにすることです。ネコハラが続くと、飼い主が疲弊し、猫との関係が悪化することもあります。

このような場合は、専門家の助言を求めることも一つの方法です。獣医師や猫の行動学の専門家は、具体的な解決策を提供してくれるでしょう。

まとめ

イメージ写真
イメージ写真写真:イメージマート

ネコハラの背景には、猫の習性や性格が関係しています。

猫は非常に独立心が強い動物ですが、同時に飼い主との絆を深めようとする傾向もあります。そのため、自分の欲求が満たされないと感じると、注意を引くためにさまざまな行動を取ることがあります。

最近では、飼い主とのコミュニケーションを楽しむ猫も増えてきました。これは、猫が単に独立した存在ではなく、飼い主と社会的なつながりを求めるようになってきたことを示しています。

飼い主と一緒に遊ぶことで、猫は精神的な刺激を得るとともに、ストレスを軽減することができます。このような行動を理解し、適切に対応することで、ネコハラを防ぎ、猫との絆を深めることができるでしょう。

猫のストレスを上手に管理し、愛情と理解を持って接することで、より豊かな関係をきずけるでしょう。

まねき猫ホスピタル院長 獣医師

大阪市生まれ。まねき猫ホスピタル院長、獣医師・作家。酪農学園大学大学院獣医研究科修了。大阪府守口市で開業。専門は食事療法をしながらがんの治療。その一方、新聞、雑誌で作家として活動。「動物のお医者さんになりたい(コスモヒルズ)」シリーズ「ますみ先生のにゃるほどジャーナル 動物のお医者さんの365日(青土社)」など著書多数。シニア犬と暮らしていた。

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