【花火と温泉を愛でる旅】長岡、大曲、片貝、熱海、下呂でおすすめの<花火を愉しめる秘湯・名湯の宿>
コロナで夏祭りの中止のニュースが流れる一方で、今年は例年以上にSNSで「花火」という文字を見かけた。開催された花火大会の様子が週末の度に話題になった。
私のふるさと新潟県長岡市も「長岡まつり大花火大会」を開催し、先週末は「全国花火競技大会『大曲の花火』」も3年ぶりに行われ、それぞれに観覧者は熱狂した。
コロナにより延期が繰り返された分、一層、花火を求める声が大きかったように見受ける。そう、花火は日本人にとって、なくてはならない夏の風物詩なのだ。
開催のために蜜を避ける
3年ぶりに花火打ち上げを決めた理由を長岡花火財団の事務局長・戸田幸正さんに尋ねると、「来場されるお客様、そして長岡市民の皆様のご理解とご協力のもと、全席有料席にすることで、誰がどこで観覧をしているかを把握できるようにして、開催を決めました」と言う。
これまで2日間で11万人収容だった有料観覧席を、今年は16万人に増やした。どうしても密になりがちな無料観覧席を、今年は全て有料にしたことによる変化だった。
「全国花火競技大会『大曲の花火』」では混みあうことを避けるために、大規模な交通規制がなされたことも話題になった。
ご存知だろうか、
「花火と温泉を目的に旅することは、日本の技と心に触れること」を――。
花火には、日本特有の技が含まれる。もちろん海外でも花火は作られているし、オリンピックなどの国際大会の開会式などでよく見かけるが、それは地上に仕掛けを作って、様々な 形や文字が現れるようにした「仕掛け花火」が主流だ。
日本の花火大会で最もよく見かける、花火玉を打ち上げて、夜空に丸く開く花火――。
これは日本独自の技術なのである。
拙著『白菊 -shiragiku- 伝説の花火師・嘉瀬誠次が捧げた鎮魂の花』の取材で、2013年にシベリアで聞き取りをした。それは1990年に長岡の花火師がハバロフスクで打ち上げられた花火を、ハバロフスク市民がどう見たのかに関する取材だったが、多くの市民が20年以上も前の花火を「空に丸く開く花火を初めてみた」と目を丸くして語っていた。
温泉もしかりだ。
温泉を取材して20年以上が経ち、この間、32か国の世界の温泉を巡ってきた。世界の温泉地を訪ねると、特にアジアでは顕著だが「日本の温泉ジャーナリスト!それなら日本の温泉について語って欲しい」「日本の温泉施設のようなものを作りたい。アドバイスが欲しい」と方々から言われた。
温泉が湧く地に、温泉街を築き、旅館を建て、そこには女将がいる。お湯にそこまで「情緒」という付加価値を付けたのは、世界でも類を見ない。日本の温泉文化はまさしく日本特有なのである。
花火と温泉を愛することは、日本の技と心を旅することに他ならない。
花火と温泉を旅するなら
どの花火大会も、基本的には混みあう。近隣の温泉地の旅館ホテルは1年以上前から開催日前後は満室という話をよく聞く。だから少し離れた所に宿を取る。それが名湯ならこの上ない。
長岡花火で立ち寄って欲しい「寺泊温泉北新館」
長岡の花火会場から車で40分程の寺泊の山間に「北新館」がある。
全国的に知られた温泉地ではないが、強食塩温泉と塩化物・炭酸水素冷鉱泉の2つの自家源泉を有し、自噴している。
魚のアメ横・寺泊で知られる地ゆえに、魚の美味しさは群を抜いている。名物は「蛸しゃぶしゃぶ」だ。
大曲の花火で立ち寄って欲しい「乳頭温泉郷」
大曲の花火は全国の選りすぐりの花火師が腕を競う競技会だから、練り上げられた技術の技が披露される。日本のお家芸である見事にまん丸な花火を観ることができる。
同じ秋田でもやや離れているが、日本の心を感じるには乳頭温泉郷を訪ねて欲しい。
十和田・八幡平国立公園の乳頭山麓に点在する乳頭温泉郷は、温泉好きなら一度は訪ねたい憧れの秘湯。
江戸時代より続く「鶴の湯」、女性に人気のモダンな「妙乃湯」、湯治の里「黒湯温泉」、渓谷の露天風呂が魅力の「蟹場温泉」、薬湯と名高い「孫六温泉」、かつての木造校舎を活用した「大釜温泉」、ブナ林に建つ「休暇村 乳頭温泉郷」とあるが、それぞれ自家源泉を持ち、泉質も様々。「湯めぐり号」のバスで立ち寄り湯をすれば、いくつもの異なる泉質を味わえる。
数年前に、乳頭温泉郷「鶴の湯」をここまで育てた佐藤和志さんと大曲の花火を見上げたことがある。「創造花火がいいんだよ」と佐藤さんがおっしゃったが、その創造花火とはミュージックスターマインのことだ。花火のテーマにあった音楽の選曲、打ち上げられる花火の構成等、様々な点で評価されるのだが、ひとつとして同じスターマインはない。それぞれに物語があり、私が観た年は、雪や流星群をモチーフにした花火が印象的だった。花火に託す想いを感じ取れたし、曲にのって軽やかに自由に表現された花火に感銘を受けた。
現在の秘湯の人気の礎を築いたといっても過言ではない、あの鶴の湯を作ったクリエイティブな才のある佐藤さん。創作花火と相性が良いのは当然かもしれない。
これから「花火と温泉」を旅するなら
9月9日、10日に開催される新潟県「浅原神社秋季例大祭奉納大煙火(片貝まつり)」。三尺玉発祥の地として誉れ高い、浅原神社への奉納煙火。四尺玉を打上げるのは世界でも片貝のみ。近隣には日帰り入浴施設「湯どころ ちぢみの里」がある。
9月19、10月15、11月5、12月4、18、24に開催される「熱海海上花火大会」。熱海温泉では旅館の客室や露天風呂から花火が眺められる。
この他、岐阜県下呂温泉は毎年12月に「下呂温泉花火ミュージカル」としてクリスマスに花火を打ち上げる。2020年と2021年は中止だったが、今年は開催を期待しよう。下呂温泉街の高台に位置する名旅館「今宵天空に遊ぶ しょうげつ」の全客室からは、見下ろすように花火が眺められるそうだ。一度その光景を目にしたいと思っている。