「あのサイトがなくなって電子書籍の売り上げが増えた」の心理学:漫画村の「タダ」は「無料」ではなかった
<ユーザーはなぜ漫画村を許していたのか。そして行動経済学では「0円」の力は絶大だとされているのに、なぜ漫画村閉鎖のあと、正規電子書籍の売り上げが伸びたのか。>
■漫画村閉鎖後
特定のサイトにアクセスできなくすることには、賛否両論ありました。また、その後どうなるかも、未知数の部分もありました。実際はもう少し時間をかけて調べなければ、本当に売り上げが伸びたと結論づけられないとは思いますが、「正規の電子書籍の売り上げが伸びた」と感じている人は、複数いるようです。
■違法サイトをユーザーはなぜ許したのか
ネット上には、ルールに厳しい人がたくさんいます。誰かのルール違反を厳しく指摘します。違法アップロードサイトも、みんなが白い目で見て誰も使わなければ、自然消滅していたでしょう。もちろん批判していた人は多くいたし、多くの人は正規のサイトを利用していたと思いますが、一定数のユーザーがいたからこそ、社会問題化したわけです。
ネットは、「バーチャル」であるために、現実世界の法律などが適用されないのではないかと「感じる」人がいます。違法なコピペサイトはたくさんありますし、またリアル世界では決してしないようなことをネットではしてしまう人は、後を絶ちません。
ネットで悪事を働くのは、リアル世界で行うよりも、手軽だという面もあるでしょう。違法に漫画を印刷製本して販売するより、ネットの方がずっと簡単に儲けられそうです。買う方も、違法印刷漫画を買うのは罪悪感があるでしょう。
また、リアル世界の書店やブックオフなどの古本屋で、何時間もいすわって何冊も漫画を立ち読みしてきた人もいるでしょう。漫画を勝手に持ってきてしまうのは違法な窃盗ですが、立ち読みを黙認している店もあります。その感覚で、ネットで無料で漫画を読むことに対し、理屈では違法だと知っていても、それほど罪悪感を感じない人もいたのでしょう。
■「無料」が終わるとき:行動経済学から:無料の力とタダ見の違い
行動経済学の研究によれば、無料「0円」の力は絶大です。無料の名の下に、長時間行列を作る人たちもいます。そして人は、いったん無料に慣れてしまうと、なかなかお金を払ってくれなくなります。
無料、0円だったものが100円になると、人はとたんに利用しなくなってしまいます。ネット上の多くの有料サイトが苦戦しているのも、このためでしょう。最初100円だったものが200円に値上げした場合も、0から100円の変化と同じ100円増額なのですが、この場合は0円が100円になったほどの利用者減はないと言われています。0円の力は偉大なのです。
漫画村がなくなるときも、「タダで見られなくなったら読まなくなるだろう」という意見もあったようです。行動経済学の研究を知らなくても、直感的に想像できますね。
ではなぜ、今回漫画村がなくなって正規の電子書籍の売り上げが伸びたとされるのでしょうか。
おそらく、漫画村の「タダ」は「無料」ではなかったのだと思います。
もちろん、どちらも「0円」であることは同じです。しかし、漫画村の「タダ」は違法な0円です。たとえば、「入場無料」は係りの人の目を盗んで「タダ見」することではありません。主催者が、今回は入場無料にすると決めたので、希望者は0円で入場できるわけです。
無料の「0円」が突然有料になれば、利用者はガクンと減るのでしょう。しかし違法なタダ見の「0円」がなくなっても、読みたい人はお金を払うのでしょう。どちらも同じ0円ですが、心理的な意味は違うのだと思います。
ネット世界の自由さは失って欲しくないものです。けれども、違法な好き勝手によって文化が破壊されたり、クリエイターが生活できなくなるようなことは、避けたいものですね。