中国漁船がガラパゴス周辺でフカヒレ乱獲――それをやめさせ「高く評価された」と宣伝する中国外交の神経
地球上で最も多くの動物種が生息する南米エクアドル領ガラパゴス諸島の周辺海域に、中国漁船が大挙して現れては海洋資源を荒らし、脆弱な生態系への脅威になっている。エクアドル政府が周辺国や米国を巻き込んで懸念を表明した結果、中国政府は自国船舶に3カ月間の操業禁止を命じた。この時、中国が強調したのは謝罪でも遺憾の意でもなく、「われわれは高く評価された」という自画自賛だった。
◇「生きた博物館」周辺の乱獲
ガラパゴス諸島はエクアドル本土の沖合約1000kmに位置する。19の主な島と小さな島や岩礁から構成され、固有種のカメやイグアナなどが数多く生息する。英国の自然科学者ダーウィンが著書「種の起源」を記すきっかけになった場所として知られる。1979年には国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界自然遺産に登録され、「生きた博物館」「進化のショーケース」と称されている。
現地報道によると、このガラパゴス諸島沖の公海で7月中旬、大型の中国漁船約260隻が操業しているのをエクアドル海軍が確認した。エクアドル側は中国漁船の動きに神経を使い、特にガラパゴス海洋保護区(絶滅が危惧されている海洋生物や、魚類の繁殖地などの地形の保全を目的に設けられた区域)といったデリケートな生態系に中国漁船が侵入しないようパトロールを強化した。
エクアドル海軍は2017年8月にも海洋保護区内で違法操業していた中国漁船を拿捕したことがあった。この時、船内から冷凍保存されたサメが約6600匹以上見つかり、中には絶滅が危惧されているシュモクザメも含まれていた。今回の操業でも、中華料理の高級食材であるフカヒレを得る目的でサメを密漁していたとみられる。
ガラパゴス諸島の周辺海域には30種類のサメが生息している。ただ近年、一部が絶滅の危機にさらされており、中国漁船が押し掛けることで、それに拍車をかけることが心配されている。ブルームバーグ通信(8月7日)によると、衛星利用測位システム(GPS)発信機が取り付けられていたメスのジンベイザメが、中国漁船近くで通信が途絶えるという出来事も起きたという。
◇近隣国と非難の声明
中国漁船が確認されたのは、ガラパゴス諸島とエクアドル本土のそれぞれの「排他的経済水域」(EEZ=沿岸から約370kmまで水域)に挟まれた公海上であり、法律上、国際漁業が可能だ。
ただ、2017年以後、中国漁船が存在感を増しており、今回の大規模な漁船の出現によってエクアドル国内で抗議の声が上がっていた。首都キトの元市長は英紙ガーディアンに「中国漁船は海洋保護区のすぐ外側で操業し、野放しにされている。ガラパゴスの海洋生物を保護するエクアドルの取り組みを台無しにしている」と述べ、怒りをあらわにした。
モレノ大統領は、エクアドル紙に対して「我々は計り知れない圧力を受けている」と語ったうえ、中国漁船を追い払う外交手段を模索していることを明らかにした。その後、同国は近隣のコロンビア、ペルーなどと連名で違法操業を非難する声明を出した。
この動きに、中国と激しく対立する米国も同調した。ポンペオ長官は8月2日、ツイッターで「中国は、持続不可能な漁業慣行、ルール無視、意図的な海洋環境破壊をやめよ。われわれはエクアドルを支持し、中国政府には違法で無断な乱獲をやめるよう求める」とコメントした。
◇「中国は責任ある漁業国」
エクアドルなどの懸念を受け、中国側も重い腰を上げた。
中国外務省の汪文斌副報道局長は8月6日の定例記者会見で「中国とエクアドルは友好的に意思疎通を図っている」と強調しながら、両国漁業当局間がこの日、テレビ会議を開いて「積極的な共通認識に達し、良好な結果を得た」と発表した。
この中で、中国漁業当局が今年9月から11月まで、ガラパゴス海洋保護区の西側公海上での漁を禁止すると決定した。
汪氏はこの際、「地域の漁業資源の保護に貢献する」「中国の立場は、エクアドルや他の関連国から高く評価されている」「中国は責任ある漁業国」「海洋環境と海洋資源の保護に重きを置いている」と自画自賛する言葉を並べた。
一方、米国についても言及し、「米国の一部政治家が最近、いろいろ取り上げ、中国を攻撃して恥をかかせ、中国とエクアドルの間の友好関係を引き離そうと扇動している」と非難した。そのうえでこう言い放った。
「こうした米国人に言いたいのは、米国はまだ国連海洋法条約に参加しておらず、他国の海洋問題について他国を批判する立場にはない」
ブルームバーグ通信によると、エクアドルのモレノ大統領は2018年以降、米国との関係を強化し、昨年は米主導の海軍演習にも参加した。ただ、エクアドルにとって中国は2番目に大きな輸出市場で、対中債務は53億ドル(約5656億円)に上り、関係断絶は困難とみられる。