ANA発で生まれた「アバター」。臨時休業中の二子玉川蔦屋家電でコンシェルジュと一緒に遠隔で本選び
新型コロナウイルスの感染拡大により、人と人が直接会ってコミュニケーションが取れないことはもちろん、旅行に出かけたり、ショッピングも食料品や医薬品などに限られるなど、「Stay Home」のゴールデンウィークとなっている。
このような状況のなか、遠隔でのコミュニケーション需要が急速に高まっているが、ビデオ通話システムよりも更に上をいく、人と人が直接コミュニケーションを取っているのに近い機能を兼ね備えている「アバター(avater)」が今、注目を集めている。
遠隔操作で離れている場所でも動かせる次世代モビリティ
アバターとは、遠隔地に置かれたロボットに意識・技能・存在感を伝送させ、人類の移動の限界及び身体的な限界を超えた「次世代モビリティ×人間拡張テクノロジー」だ。将来的には、人間の手や足の動きをそのままアバターロボットが遠隔地で動かせる可能性を秘めており、実用化へ向けた社会実験が行われてきたが、新型コロナウイルス発生により、様々な場面でアバターを活用することで、人と人が対面しているのと同様のコミュニケーションが取れるのだ。
ANAホールディングス初のスタートアップ企業としてアバター会社が発足
今、アバターに取り組んでいるベンチャー企業が「avatarin(アバターイン)株式会社」だ。航空会社からスタートアップした企業である。ANAホールディングスのデジタル・デザイン・ラボという部署で「すべての人を距離や身体的な制約から解放し、人々が支え合う社会を実現する」ことを基本理念にアバターの社会インフラ化を目指した取り組みがスタートした。
2018年に社内で正式に「アバタープロジェクト」が立ち上がり、2019年4月にANAホールディングス内にアバター準備室が開設され、新会社設立の準備が進み、今年4月1日に事業会社となるavatarin株式会社を設立した。ANAホールディングスからの初めてのスタートアップ会社であり、航空会社から生まれたベンチャー企業となった。
1体100万円以下のアバター。現在はレンタルで提供
今回、avatarin社が昨年開発したのが普及型コミュニケーションアバター「newme」だ。現在はレンタル利用のみとなっているが、購入する場合の想定も1体100万円以下ということで、アバターとしては比較的割安である。この「newme」は、パソコンからログイン(newmeではログインすることを「アバターイン」と呼ぶ)すると、事前に登録してあるnewmeに接続され、newmeの液晶画面を通じて双方向のコミュニケーションが可能となる。
ビデオ通話との違いは、パソコン側から十字キーの操作だけで動かすことが可能であり、大きな段差がなければ、自由に移動したり、左右に向きを変えたりできるので、会話したい人の場所に移動することやお目当ての場所に自由に動くことができるのだ。
二子玉川の蔦屋家電でコンシェルジュがおすすめの本をアバターを通じて選んでくれた
ゴールデンウィーク中の5月3日、店舗は臨時休業している東京・二子玉川にある「二子玉川 蔦屋家電」のブックコーナーで本の豊富な知識を持つコンシェルジュと一緒に相談しながら、自宅から本を選ぶことができる「avatarin store meets 二子玉川 蔦屋家電-Book Selection-」を1日限定でオープンした。
事前に応募したお客様が指定された時間にアバターインをすると、本のコンシェルジュと画面上で会話することが可能となる。そこで「コロナが収束したら沖縄の離島に行きたいのですが、オススメのガイドブックがありますか?」とか「テレワークが増えてきたなかで、専門知識を勉強したいのですが役立つ本はありますか?」とか「SNSを活かしたマーケティングを仕事でするのにあたり、わかりやすい本はありますか?」など、具体的な本が決まっているのではなく、相談しながら選びたい時にアバターが活躍する。相談を受けたコンシェルジュは自ら本を選び、その本がある書棚へ案内してくれた。その際、自宅にいるお客様のパソコンでアバターを操作し、コンシェルジュの後を追って移動した。
実際に本の中身も画面を通じて確認できる
コンシェルジュおすすめの本は、表紙だけでなくコンシェルジュが本を開くことで本の中身も画面を通じて見ることができるようになっている。書籍のネット販売では一部ページが掲載されていることはあるが、ここでは好きなページをコンシェルジュにお願いすることで見ることが可能だ。加えて、同じ書棚で気になった本があれば、その場で声がけすることで、他の本も見ることができるなど、実際に書店で立ち読みしながら本を選ぶのに近い環境となっている。
現状では、TSUTAYAの書籍販売のホームページからの購入になるが、将来的には画面上でネット決済して、そのまま自宅などに送ってもらう仕組みも検討中だ。
専門知識があるコンシェルジュの存在が大きかった
今回取材をしていて感じたことは、2011年12月に東京・代官山に「代官山 蔦屋書店」がオープンした際に、これまでの一般的な書店にはなかった「コンシェルジュ」制度を採用したことが活かされていることだ。各ジャンルの専門知識と経験を持ったスペシャリストを外部から積極的に採用し、店頭に用意する本の選書はもちろんであるが、相談しながら本を探したり、注目の本に手書きでオススメする理由を記したメモがあるなど、今までにないスタイルを確立したことで、人気書店としてリピーターが多い。
今回の二子玉川の蔦屋家電も同様であり、書籍+家電の販売スタイルで代官山同様に専門のコンシェルジュを置いていることで、今回のアバターを使った書籍販売が可能となり、まさしく自宅にいながら希望の本を選べることで、アバターの利点と蔦屋の強みが活かされた形となった。
当日、実際に利用した人からの反応もよく、今回は1日限りとなったが、是非本格的な導入を期待したい。