機内食に見る航空会社のサービスの多様性
飛行機に乗る時の楽しみは機内食という方も多いのではないでしょうか。
特に国際線に乗る時は、どんな機内食が出るのかわくわくしますよね。
筆者はたいていはエコノミークラスですが、インターネットをよく探すとLCC(格安航空会社)じゃなくても、バリューフォーマネー(Value for Money)の航空会社や路線があるもので、そういう時には自腹を切ってビジネスクラスも利用します。
エコノミークラスの座席に座って、「ビジネスクラスやファーストクラスではどんなにおいしいお料理やお酒が出ているのかなあ。」とカーテンで仕切られた前方の空間に思いを馳せている方も多いと思いますが、会社の経費でご利用の方々は別として、筆者のように自腹でビジネスクラスに乗ってみると、バリューフォーマネー、つまり「お金を払う価値があるかどうか。」ということを考えるようになります。
昨年、香港航空のビジネスクラスを利用した時の写真です。
ビジネスクラスだから座席がゆったりしているのは当たり前ですが、よく見ると座席ポケットにミネラルウォーターが。
こういう心遣いも航空会社ならではですね。
飛行機の中に入ると、出発前からドリンクサービスです。
この便は朝の便でしたので、筆者はオレンジジュースをチョイス。
すると、機内食、機内サービスのメニューが配られます。
香港までは約5時間の旅。
これだけ飛行時間があると機内でもゆったりとくつろぐことができます。
お食事もまずはスターターから。
朝の便なのでフルーツです。
そしてメインコース。
朝食ですから筆者は和食の鯖をいただきました。
竹の皮に包んであるものは何かというと・・・
熱々の御飯。
これは日本の航空会社の得意技ですね。
こういう御飯が出てくるということは、香港航空が機内食を日本の航空会社に委託していることがわかります。
最後はコーヒーにデザート、アイスクリームが出されますが、筆者はデザート、アイスクリームはいただきませんでした。
朝の便でなければ、機内食が始まる前に食前酒とナッツ類が出されるのはだいたいどこの会社も一緒です。
特別サービスの機内食の話
さて、筆者が体験した香港航空の成田→香港のお話はここまでとして、本日のタイトルである「サービスの多様性」についてですが、航空会社が用意する特別機内食についてのお話です。
航空会社はいろいろな国のお客様にご利用いただきます。
特に国際線の場合は、お食事を提供するというサービスがありますから、国による食生活の違いなど、ご利用いただくお客様に合わせた各種サービスを取り揃えて対応する必要があります。
機内食については各社とも一生懸命工夫していて、いろいろなお客様のニーズに合うように考えられていますので、その一部をご紹介します。
1:宗教によるサービスの違い
日本人や中国人のように基本的に何でも食べることができるお客様であれば問題ないのですが、国によっては宗教上食べられる食材が制限されているところが多く存在します。日本人にはなかなか理解できないところですが、日本の航空会社もずいぶん細かく対応できるようになってきました。
代表的なところとして
MOML:モスレムミール。
航空会社はたいてい略号を使用しますが、このMOMLは「モスレムミール」のこと。
いわゆるイスラム教の国の人たちに対するお食事です。
豚肉が使用できません。
豚肉だけじゃなくて、例えばゼラチンなどもそうですし、揚げ物の油なども動物性のものはダメですね。
お酒はもちろん出ませんが、調味料にアルコール系のものを使用することもできませんから、みりんなども使えません。
いわゆる「ハラール」に認定された食材や調味料を使用しなければなりません。
HNML:ヒンドゥー教のお食事。
牛と豚は使えませんが、鶏肉はOK、魚類や羊もOKです。
KSML:コーシャーミールと呼ばれるユダヤ教食。
これがなかなか大変で、何が大変かというと、作るシェフはユダヤ教の人じゃなければなりません。
調理に使用する包丁やまな板も専用のものを使います。
調理後、機内食は基本的には冷凍保管するのですが、機内食の入った箱は封印されていて、お客様の目の前で封印された状態の箱を、お客様ご自身で開封していただく「儀式」が必要です。
筆者が航空会社に勤務していた時に旅客サービスで一番気を使っていたのがKSML。
日本人の感覚で言うと、子供のころ「えんがちょ」という遊びを経験した人も多いと思いますが、あの感覚。つまり「不浄のものを排除する。」穢れの思想という意味合いだと思います。
自分たちと同じ宗教のシェフが、自分たちのしきたりに合わせて作ったお料理を、誰の手も触れていない状態(封印した状態)でお客様のお座席へお持ちするわけです。
そしてお客様の目の前で封印を開けて、お召し上がりいただく。これがKSML(コーシャミール)です。
2:お客様の主義主張によるサービスの違い
ちょっと良い言い回しの言葉が見つかりませんが、つまりその人のポリシーによる食生活の違いに対応する機内食です。
VGML:ヴィーガンと呼ばれる菜食主義の方へお出しする機内食です。
肉、魚、卵、乳製品、蜂蜜など動物に由来する食材は使用できません。
VLML:ベジタリアンラクトと呼ばれる菜食主義者向け機内食ですが、ヴィーガンと違うのは肉、魚は使いませんが、卵や乳製品はOKという内容です。
AVML:アジアンべジと呼ばれるもので、肉、魚はダメですが、乳製品はOK。味付けはスパイシーでカレー味だったりします。
VOML(オリエンタルべジ)という会社もあるようです。この辺りのべジタリアン食は宗教色のHNMLなどと共用することもできるようです。
RVML:ローベジと呼ばれる生の食材だけを使ったベジタリアン。肉、魚は使用できないのはもちろんですが、調理してある野菜もダメ。生野菜やフルーツ中心です。
3:健康上の理由による食事制限のお客様向け機内食
3番目は健康上の理由により食事制限があるお客様向け機内食です。
健康上の食事制限とは、ますアレルギーのある方。7品目(エビ、カニ、小麦、そば、卵、乳製品、落花生)に対応しているほか、会社によっては27品目のアレルギー物質に対応しているところもあります。
また、成人病などへの食事制限に対応しています。
LSML:ローソルト。低塩分食です。
DBML:ダイアベティック、糖尿病の方向けのお食事です。
LCML:ローカロリー、低カロリー食。
LFML:ローファット、低脂肪食。
GFML:グルテンフリー食。小麦、ライ麦、スターチやナッツに含まれるグルテンアレルギーの方向け。
NLML:ノーラクト。牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品なし。
4:上記以外の特別機内食
SFML:シーフードミール。肉は使わず、魚をメインに野菜などを使用した機内食。
FPML:フルーツプレートと呼ばれる果物食。
CHML:チャイルドミール。子供が食べたくなるハンバーグやパスタなどで構成されています。
BBML:ベビーミール。赤ちゃん用の食事です。たいていは瓶に入った機内備え付けのものです。お子さんに与えるお食事はメーカーなどにこだわる方がいらっしゃると思いますので、そういう方はいつも赤ちゃんに与えているものをご持参されるほうが良いでしょう。
このように、航空会社ではお客様に合わせて様々な機内食を準備してサービスを提供しています。
今回はトルコ航空のホームページにとてもわかりやすい写真がありましたので、それを使用してご紹介いたしましたが、これが世の中の多様性にマッチする航空会社のサービスということですね。
でも、考え方として大切なのは、お客様の好みや好き嫌いといった要望をお聞きするのではなくて、あくまでも宗教上であったり、健康上であったりというある意味のっぴきならない事情を抱えたお客様に対応するということです。機内食によっては内容的に兼ねられるものもありますから、例えばNLMLとVGMLとして提供することも可能です。そのあたりはベテランのクルーになると、機内で突然のリクエストでも上手に対応していただける場合もあるようです。
添乗員で世界各国を旅している友人が「スペミル(Special Meal:特別機内食の略)っておいしくないですよね。」と言っていたことを思い出しますが、国民性や食習慣の違いに合わせたものですから、日本人の口には合わないものも多くあります。
ということは、あまりお勧めできないということになりますね。
少なくとも筆者はお勧めいたしません。(笑)
でも、どうしても食べてみたいという方は、VLML(ベジタリアンラクト)かSFML(シーフードミール)ぐらいでしょうか。
なお、この特別機内食はあくまでも事前予約が必要です。
航空会社によって予約方法や締め切り時間が異なりますので、ホームページでお調べください。
また、特別機内食は一般の機内食とはサービス時間が異なる場合があります。
先に持ってこられたり、あとから持ってこられたりと、隣席の友人と違うタイミングになることが多いですので、そのあたりもご了承ください。たぶんクレームとして受け付けてもらえません。
あくまでも、のっぴきならない事情をお持ちのお客様へのサービスでありますからね。
えっ? 私ですか?
やっぱりおいしいものをいただきたいですから、SPMLは最初から頼みませんよ。
成田を離陸してロンドンへ向かうBAのクラブワールドのスターター。
優雅でしょう。
次回はもう少し詳しくお話しさせていただきます。
※本文中、注釈のない写真はすべて筆者撮影です。