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大阪桐蔭高校、花園初優勝。怪物・奥井章仁の成長と未来。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
スタジアム改築後初の全国大会だった。(写真:アフロ)

【タイトル】

 今季の全国高校ラグビー大会で初めて日本一となった大阪桐蔭高校ラグビー部に、2年生の大器がいる。

 奥井章仁(おくい・あきと)。身長178センチ、体重107キロという堂々たる体格で、おもにフォワード第3列のフランカーに入る。

 守っては接点で相手ボールをもぎ取り、攻めては果敢にパスをもらって突進。ここからが重要なのだが、ランナーとして相手防御を巻き込みながら前方へ倒れると、持っているボールを向こうの選手の立ち位置から遠ざけるように置く。激しいだけでなく、丁寧であろうとしている。

大会期間中の奥井
大会期間中の奥井

持ち味発揮

 2019年1月7日、大阪・東大阪市花園ラグビー場。「桐蔭対決」とも言われた神奈川・桐蔭学園高校との決勝戦に、背番号6をつけて先発した。

 19―17とわずか2点リードで迎えた後半17分、敵陣中盤右のラインアウト(タッチライン際の空中戦)から出たボールをもらうと、タックラーを蹴散らしながら前進。まもなくアウトサイドセンターの松山千大キャプテンが防御を突き破り、敵陣22メートルエリアで奥井らフォワード陣がモール(立ったボール保持者を軸にした塊)を一気に押し込む。26―17。

 最後は26-24と迫られたが、奥井は随所に持ち味のランを披露。見事、甲子園で春夏連覇を果たした野球部とのアベック優勝を果たした。大会期間中のこの宣言通りに、暴れ回った。

「60分間、100パーセントのボールキャリー(ボールを持っての突破)というのが、まだまだできていない。花園が終わるまでにはやりたい。大阪桐蔭はまだ日本一にはなっていない。自分が入って日本一になりたいと思います」

昨季から「怪物ルーキー」として話題に

 元ラガーマンの父の影響で、小学1年時から地元の枚方ラグビースクールで楕円球を追う。楠葉中学校を経て入った大阪桐蔭高校では、1年時から花園を経験。準優勝を飾るチームでレギュラーを獲り、「怪物ルーキー」として話題をさらった。

「ラグビーは全てが楽しい。この身体があるのでハードコンタクトは持ち味にしています。(将来は)日本代表、トップリーグ、スーパーラグビーでやっていけるようになりたいです。自分のいちばん好きなことをして生活するのが、自分の夢なので」

 国内最高峰のトップリーグや世界的プロリーグのスーパーラグビーでのプレーも夢見る青年は、今季、幹部候補生と目された。その期待値の現れは、花園期間中のナンバーエイト起用だった。

 もともとミーティングや試合中の円陣で「去年の経験を、まだ経験していない人たちに伝えられたらチームのレベルはもっと上がる」と、積極的に発言するほうだった奥井。フランカーと同じフォワード第3列でもグラウンド中央に位置するナンバーエイトでは、フォワード全体への目配りがより求められたようだ。

「ナンバーエイトは全体をまとめないといけない。自分はまだまだその器ではない」と再認識した。実際はよく味方に声をかけていたが、そこで人を引っ張る難しさを知れたとしたらそれはそれで収穫と言えそうだ。

「フォワードの先頭に立ってボールキャリーをすることが、まだまだできていなかった。もっと、自分の身体を活かしてプレーできれば」

 どっしりとした体格ゆえにスクラム最前列のプロップ、フッカーでの適性もありそうだが、本人はいまの働き場で力をつけたいと話す。

「第3列はフォワードのなかで一番、運動量の求められるポジション。スタミナも(プレー選択の)判断もまだまだ。その両方を上げていきたいと思います」

「余裕」の真意

 さかのぼって2018年4月3日。埼玉・熊谷ラグビー場での全国選抜大会・予選プール3戦目で、日本航空石川高校に62―14と勝利。帰り支度を済ませた奥井が、親族もしくは知人と思しき観戦者と目を合わせる。挨拶をかわす。

 話し相手は「向こうには外国人もいたけど、大丈夫だったか」。この日の対戦校に留学生がいたことから、身体的な負荷を心配していた様子。当の本人はこうだ。

「…余裕や」

 もちろん、相手への敬意を欠いていたわけでは決してない。真意を本人に聞けば、すぐにそうわかる。

「口だけです。(自分を)大きく見せているだけです。外国人選手は強いのですけど、そこで引いてしまったら弱い自分になってしまうので。将来を考えたら、外国人選手と当たることの方が多くなる。そこで引かず、強い自分になりたい」

 いずれは世界を舞台に活躍するのだから、いまのうちから海外出身者との試合でもたじろぎたくない。顔見知りに対しても、なりたい自分とリンクした態度を示したい。奥井の「余裕」の背景には、こんな気持ちがあるのだろう。

「泥臭く、ハードワークを貫いていければと思っています」

 真の強さを追い求める過程にあって、存分に強さを発揮している。将来が嘱望されるのも当然だった。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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