ジョン・アンダーソン、イエスの英国プログレッシヴ・ロック精神を受け継ぐ新作と「どんぐりころころ」
ジョン・アンダーソン&ザ・バンド・ギークスのアルバム『トゥルー』が2024年8月に発表された。
イギリスを代表するプログレッシヴ・ロック・グループ、イエスのシンガーとして1968年にデビューしたジョンは「ラウンドアバウト」「ロンリー・ハート」などのヒット曲、そして『こわれもの』(1971)『危機』(1972)などの名盤アルバムでその歌声を聴かせている。2008年にバンドを去った後も彼は歌い続け、2017年には“イエス・フィーチュアリング・ジョン・アンダーソン、トレヴァー・レイビン、リック・ウェイクマン”名義で来日、往年の名曲の数々を披露した。そんな彼の最新進化形がザ・バンド・ギークスとのコラボレーションである。
『トゥルー』で聴くことが出来るのは、イエスの伝統を継承するロック・サウンドだ。フックのあるメロディから16分半の大曲「ワンス・アポン・ア・ドリーム」まで、ファンの求めるものがここにある。1944年生まれの79歳というジョンだが、“天使”と例えられたヴォイスは健在だ。彼に現在の音楽活動について訊いてみたい。
<イエスのクラシックスに加えて大曲をプレイするライヴをやりたかった>
●既に開始している北米ツアーではイエスの名曲の数々と『トゥルー』からの新曲を披露していますが、観客からの反応はどのようなものですか?
最高だよ。元々はイエスの代表曲をプレイするショーを考えていたんだ。『トゥルー』はまだ発売になっていなかったけど、良い出来のアルバムだと信じていたし、ライヴの流れにぴったりだと思って3曲(「トゥルー・メッセンジャー」「シャイン・オン」「サンク・ゴッド」)を加えることにした。50年前からイエスの音楽を聴いているファンも、新しいリスナーも、熱狂的に迎えてくれたよ。バンドの演奏は素晴らしいし、私の声も絶好調だ。どのショーも誕生日パーティーのようで、ハッピーなマジックがみなぎっているんだ。
●これまであなたが発表してきたソロ・アルバムや他のミュージシャンとのコラボレーション作品ではあえてイエスと異なった音楽性を志向してきましたが、『トゥルー』はイエス外で最もイエスに近いのではないでしょうか?
そう、君は正しいよ。ずっとイエスのクラシックスに加えて大曲をプレイするライヴをやりたかったんだ。「悟りの境地 Awaken」「錯乱の扉 The Gates Of Delirium」「危機 Close To The Edge」のような曲も歌いたかった。でもそれらの曲をイエスと同じように演奏できるミュージシャンがいなかったんだ。そんなある日、友人でシリウスXMラジオのDJのジョン・エイミックが映像のリンクを送ってくれた。「燃える朝やけ Heart Of The Sunrise」を演奏しているバンドを見て、一緒にやりたいと考えた。彼らはクイーンなどのカヴァーもやっていたけど、イエスの音楽を愛していることが伝わってきたし、テクニックも申し分なかったからね。それでベーシストのリッチー・カステラーノと連絡を取ってツアーをやらないかと打診したんだ。「...本物のジョン・アンダーソンさんですか?」と最初は疑っていたけど、やっと信じてもらえたんだ(笑)。
●『トゥルー』は楽曲はもちろん、あなたの歌声も1970年代のイエスを思わせる艶とハリがありますね。あなたの声質をコピーしようとして、かなり再現度の高い若いシンガーも多くいますが、あなたの領域に達する人はいません。
私は恵まれているんだ。生まれ持った声があるし、歳を取ってもそれを維持し、さらに発展させていく意思を持っている。それに、私には歌って、曲を書くしかないんだ。音楽がなかったら、どうしたら良いか判らないよ。
●「ワンス・アポン・ア・ドリーム」の歌詞に“heart of the sunrise”という一節があるのは、オールド・ファンへのサービスでしょうか?
ははは、その通りだ。我々は誰もが“日の出の中心”へと到達することを願っている。50年以上前、「燃える朝やけ」を書いたとき、私は“愛”についての歌詞を書いたんだ。愛が訪れて、それに付いていけば、“日の出の中心”へと向かうことが出来るってね。「ワンス・アポン・ア・ドリーム」にも当時のフィーリングがあった。歌詞やメロディ、それに曲の構成...『海洋地形学の物語 Tales From Topographic Oceans』(1973)を作ったときを思い出したよ。20分の曲が4曲の2枚組アルバムという構想にみんな「ジョン、それはクレイジーだ。止めた方が良いよ」と言ったんだ。でも私の決心は揺るがなかった。当時シベリウスを愛聴していたんだ。彼の音楽は100年経っても色褪せることがない。モーツァルトだって200年を経ても聴き継がれている。だから私たちの音楽も、せめて50年は聴かれる作品を作りたかった。それが『海洋地形学の物語』だった。私の目論見は当たったんだ。今でもイエスの音楽を愛して、「錯乱の扉」のような難曲を演奏出来るミュージシャンがいる。そんな事実は、私の心を満たしてくれるよ。「ワンス・アポン・ア・ドリーム」はその延長線上にある16分半の大曲だし、これから50年聴いてもらえたら嬉しいね。『トゥルー』では「カウンティーズ・アンド・カントリーズ」も10分近くあるんだ。とても気に入っている曲だよ。
●「リアライゼーション・パート2」という曲がありますが、「パート1」はどの作品で聴くことが出来るのでしょうか?
ああ、あの曲は元々5年前に書いた曲を基にしてアレンジして、パーツを書き加えたんだ。元の曲を「パート1」とすると、今回のヴァージョンは「パート2」となる。だから「パート1は世に出ていないんだよ(笑)。
<日本でイエスのクラシックスや『トゥルー』の曲、「どんぐりころころ」を歌うのが楽しみ>
●ステージ上であなたは1970年代以来、白いゆったりとしたコスチューム、そしてハイトーン・ヴォイスのおかげもあって“天使”的なイメージがありましたが、それはどの程度意識していたのでしょうか?
決して意識はしていなかったけど、私たちは皆が天使なんだ。聖なるもの(divine)を探し求めるために旅を続けていることを意識して、白い服を着ていたのかも知れない。「ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス」「錯乱の扉」も崇高なるものへの旅路を描いている。「安心してくれ、きっとすべてがうまく行く」ってね。
●2017年の“イエス・フィーチュアリング・ジョン・アンダーソン、トレヴァー・レイビン、リック・ウェイクマン”名義での来日公演ではあなたを含むフロント3人が黒衣をまとっていて、暗黒面に堕ちたのかと思わせました。
うん、実際にダーク・サイドに堕ちていたのかも知れない。私とリック、トレヴァーの関係は音楽的にも人間的にも良好だったんだ。でもマネージメントとの行き違いで、誰もがハッピーではなくなってしまった。それであのバンドは終わることになったんだ。良くない空気があった。今ではバンド・ギークスの仲間たちと楽しくやっている。このままツアーを続けて、来年の夏に日本とハワイでショーをやるつもりなんだ。そのときはきっと白い服を着ているだろうね。
●久々の来日公演、楽しみにしています!
もう日本には何度か覚えていないぐらい行ったことがあるんだ。初めて日本を訪れたのは1970年代だった(1973年)。その当時、日本のファンは私たちの音楽に熱狂的に応えてくれたけど、言語の壁のせいでコミュニケーションを取ることが容易ではなかった。コンニチハ!とかは通じたけどね。それで私はステージ上で音楽で語りかけるようにしたんだ。“どんぐりころころ、どんぐりこ♪”や“ぞうさん、ぞうさん、お鼻が長いのね♪”という童謡はみんな喜んでくれたし、イングランド北部生まれの私にとっても不思議に懐かしさをかき立てるものだった。今のバンドとの活動はどのショーもスリルの連続だし、日本に行ってイエスのクラシックスや『トゥルー』の曲、そして「どんぐりころころ」を歌うのが楽しみだよ。
【新作アルバム】
ジョン・アンダーソン&ザ・バンド・ギークス
『トゥルー』
マーキー・インコーポレイティド株式会社 AVALONレーベル
現在発売中
https://www.marquee.co.jp/avalon_new/artist/jon-anderson-and-the-band-geeks/