最終局面。ワールドカップ日本代表メンバー選考を分析する。【ラグビー旬な一問一答】
東京・秩父宮ラグビー場は8月5日、最後のオーディション会場という側面を帯びる。
日本代表が、ワールドカップフランス大会での登録選手を発表する前に最後の実戦をおこなうのだ。ワールドカップは9月に開幕する。
今回のゲームは「リポビタンDチャレンジカップ2023パシフィックネーションズシリーズ」(PNS)のフィジー代表戦。当日に出るメンバーは3日にリリースされた。以下の通り。
1,稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…186・116・1990/6/2・47
2,坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…180・104・1993/6/21・35
3,ヴァル アサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…187・115・1989/5/7・24
4,ジェームス・ムーア(浦安D-Rocks)…195・110・1993/6/11・15
5,アマト・ファカタヴァ(リコーブラックラムズ東京)…195・118・1994/12/7・2
6,ジャック・コーネルセン(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…195・110・1994/10/13・14
7,ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)…189・106・1989/1/11・15 ※1
8,姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)…187・108・1994/7/27・27 ◎
9,齋藤直人(東京サントリーサンゴリアス)…165・73・1997/8/26・13
10,松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…181・92・1994/5/3・31
11,ジョネ・ナイカブラ(東芝ブレイブルーパス東京)…177・95・1994/4/12・2
12,長田智希(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…179・90・1999/11/25・2
13,ディラン・ライリー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…187・102・1997/5/2・12
14,セミシ・マシレワ(花園近鉄ライナーズ)…181・93・1992/6/9・3
15,松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)…178・88・1993/2/26・49
16,堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…180・104・1986/1/21・70
17,クレイグ・ミラー(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…186・116・1990/10/29・11
18,具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)…183・117・1994/7/20・23
19,下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)…188・105・1999/1/17・1 ※2
20,ベン・ガンター(埼玉パナソニックワイルドナイツ)…195・120・1997/10/24・6 ※3
21,流大(東京サントリーサンゴリアス)…166・75・1992/9/4・32 ◎
22,李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)…176・85・2001/1/13・8
23,中村亮土(東京サントリーサンゴリアス)…182・92・1991/6/3・33
数字:身長・体重・生年月日・キャップ数
◎:キャプテン
※1:日本代表候補として7月9日の宮崎合宿より合流。
※2:日本代表候補として6月12日の浦安合宿より参加。
※3:日本代表候補として6月25日の浦安合宿より合流。
起用の意図とメンバー選考への思いは。この日、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチがオンラインで会見した。
以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。
——チーム作りへの手応えはいかがですか。
「これまでワールドカップに向けて7週半、準備してきました。最初の2試合はすごく難しい部分がありました。その後のサモア代表戦は、勝つべき試合。レッドカード(前半30分にリーチ マイケルが退場)でプレッシャーがかかったなか勝てるところまで行けた(22-24と惜敗)のは、よかったと思っています。次のトンガ代表戦ではベストラグビーができた。
そのなかでの改善点はメンタル。ところどころ、スイッチオフするところがあった。
チームとしてはいい形ができあがっている。暑い気候のもと、少しずつチームを作り上げていけている感覚がある。フィジー代表戦はタフな試合になるでしょうが、いい結果が出せるよう頑張っていきたいです」
——宮崎合宿で得られた成果は何でしょうか。
「長いことここで合宿しています。フィジカルの部分はできてきている。ワールドカップまでその領域を作り上げていきたい。ここからは試合中のメンタルの足りない部分をなくしていくことが重要になりますが、選手も経験を積めてきています。今週もいい試合がしたいです」
チームは6月中旬から浦安合宿を始め、宮崎に拠点を移した7月から試合期に突入している。
8、15日の対オールブラックス・フィフティーン2連戦(非テストマッチ)、さらには22日のサモア代表とのPNS初戦を落としたが、29日のPNS・2戦目ではトンガ代表から今季初勝利を挙げた。
その間、初戦こそ5名のノンキャップ勢、昨年まで控えもしくは選外だった選手らを起用した。
しかしそれ以降は人員の絞り込み、本番を想定したコンビネーションの組み替えに注力してきたか。
そして今回は、長引く故障から復帰のピーター・ラブスカフニがオープンサイドフランカーで先発する。
こちらも怪我に泣いていたロックのワーナー・ディアンズは、かねてスターターに入るのが期待されたが、2日の練習で故障した。本来フランカーで日本代表候補の下川甲嗣がリザーブに入った。
——出場選手について。まずラブスカフニ選手。期待する点を教えてください。
「経験豊富。前回のワールドカップでは(ゲーム主将を担うなど)チームをリードしてくれました。ただ彼は(所属する)スピアーズのシーズン中に手術をしてから、なかなか試合に出られず準備できなかった。いまは順調。ワールドカップに向けて価値のある選手なので、起用しています」
——下川選手については。候補からワールドカップ選考の俎上に上がったとみてよいのですか。
「ワーナーやウヴェがいないなか(後述)、ジャックが(試合展開によって)ロックをカバー。そして(リザーブには)ベン(・ガンター)と甲嗣という2人のルースフォワード(フォワード第3列)を入れました。甲嗣はいい練習をしている。そして甲嗣がロックをカバーすることもできます。
ファウルア・マキシ選手は8番(ナンバーエイト)で、姫野はスタートでフル出場するプランで考えている。そんななか。甲嗣の強さは評価している」
——次はジャック・コーネルセン選手。代表では昨季までロックを務めることが多かったですが、今年はフランカーでプレーしています。
「ジャックはフロントロー以外すべてカバーできるので、我々にアドバンテージを与えます。強く、ワークレートが高く、スマート。ラインアウトのコーラーもできます。もちろんリーチがレッドカードにより出場停止にされているなか、様々なオプションが試せると思っています。怪我や病気を考えると、色々なポジションで準備することが大事です」
——バックスリーのコンビネーションについてはいかがですか。
「2人のフィジアン(セミシ・マシレワ、ジョネ・ナイカブラの両ウイング)は活躍しています。一緒にプレーさせることでスキル、ワークレートで素晴らしいものが出る。ジョネはいいディフェンスをしてくれて、トライも獲ってくれる。セミシはチームのために色んなスペースを作ってくれる。このまま継続して頑張ってほしい。今週はフィジー代表戦。彼らにとっては特別な相手。そこで、彼らをともに起用する判断をしています。
松島はサモア代表戦でそこまでベストではなかったと思い、トンガ代表戦ではリザーブ。山中亮平が先発していました。
ワールドカップではイングランド代表、アルゼンチン代表(いずれも日本代表と予選同組)がたくさんキックをしてくる。フルバックにはハイボールの捕球、ボールを大きく蹴り出してクリアする能力が必要。松島も山中もそれができると思っています。セレクションは、これから難しくなる」
——選手のコンディションについて。復帰が期待されたディアンズ選手、トンガ代表戦で戦列に戻りたてだったテビタ・タタフ選手が3日の練習では不在でした。その他の事象を含め、確認をさせてください。
「ワーナーは練習中に足首をひねった。残念に思います。復帰までは2~3週間だと思っています。ウヴェ ヘルは肩を痛め、練習に出ていない。(フランカーで先発の)ジャック・コーネルセンがロックをカバーできる、ということになります。
テビタは手を負傷し、いまは練習していません。
福井翔大(フランカーで試合期序盤に活躍)はサモア代表戦で頬の骨にひびを入れた。リスクを取りたくないので、1~2週間、休んでいます」
ここからは、もっとも注目されるワールドカップの大会登録メンバー選びについて深掘りする。
——トンガ代表戦前の会見では「基本的には(大会登録メンバーの)80パーセントほどは決めている」との発言がありました。それ以降、選考は進んだのでしょうか。また、今後は何を焦点にセレクションを進めますか。
「自分が80パーセントと答えたのは…。まず、あるグループ、つまりスペシャルなポジションは簡単に選べた。
それはどういうことか。スペシャルポジション(専門職)のことです。
(登録上限が33名という)ワールドカップのルールのなか、フロントローの9人(左右のプロップと中央のフッカーで計3名ずつ)は自分のなかで考えています。コロナの可能性のことを考えると(1試合に2名ずつ必要なため)ここで9人が必要なのは決まっている。
そして(接点で球をさばく)スクラムハーフも3人が必要。これで12人が決まります。
それ以外のところ(21人)では、難しい判断をしなければいけない」
——ディアンズ選手、シオサイア・フィフィタ選手ら、昨年まで常時試合に出ていながら今年は怪我で出番を得られないメンバーがいます。当該の選手は、セレクション上どう評価されますか。今年から出番を得て好調な選手との兼ね合いなどで、考えを聞かせてください。
「その2人は浦安合宿で怪我をしてからなかなか調子は上がってきていません。
特にワーナー(・ディアンズ)については…。(同じロックで)アマト・ファカタヴァがベストなルーキーと言える素晴らしいパフォーマンスをしています。最初の試合では苦労するところもありましたが(終盤にミスが増えた)、サモア代表戦、トンガ代表戦では素晴らしい戦いをしていました。
フィフィタはいまコンディションが戻っている状況です。彼のポジションではマシレワ、ジョネが安定していい動きを見せています。それもあり、彼がなかなか(試合のメンバーに)入ることができない。それがラグビーだと思っています」
今回の話とその背景を整理すると、下記のような現実が浮かび上がる。
・ジョセフは33人のうち「80パーセント」つまり26名程度には心のなかで当確ランプをともしている。
・専門職の両プロップ、フッカー、スクラムハーフは3名ずつ計12名の選出を決定済み。浦安合宿前に発表された正規の日本代表のリストでは、そのポジションの選手は3名ずつ選出されている。
・怪我で試合に出られなかった昨季までのレギュラーは、今季その位置で代役を務めた選手の活躍もあり戦列に戻れずにいる。裏を返せば、ロックのワーナー・ディアンズの不在時に成長したアマト・ファカタヴァ、シオサイア・フィフィタが抜けている間にウイングを担ったジョネ・ナイカブラ、セミシ・マシレワの働きを評価している。合宿時の取材によると、マシレワは次戦でタッチキックやキックオフを任されるという。
・ただしトンガ代表戦時のベン・ガンター、テビタ・タタフ、今回のピーター・ラブスカフニのように復帰後即メンバー入りの選手はいる。ジョセフはガンター、タタフについて「ワールドカップでフィジカルが求められるなか、テビタ、ガンターを起用。いい兆しが見えた」と、ラブスカフニについては「ワールドカップに向けて価値のある選手」と言及している。
・大会へ連れて行ける人数に限りがあるため、複数のポジションでスタンバイできる選手の存在を重宝する。その筆頭格はジャック・コーネルセンで、代表候補という扱いの下川もそれに該当する。
大会登録メンバーの発表は8月15日。上記を前提に、指揮官が現状での最適解を示す。