反乱から半世紀 LGBTQ月間、闘いは続く
6月はLGBTQの権利擁護や地位向上を啓発する「プライド月間」、今年はその活動のきっかけとなったニューヨークでの暴動「ストーンウォールの反乱」から50年の特別な年。30日には市内で盛大にパレードが行われ、フィナーレを迎える。象徴とされるレインボーカラーで街は彩られ、企業も行政もこぞってLGBTQに敬意を表し、祝賀ムードに包まれる。しかしいまだ偏見や差別は残る。闘いは終わらない。
50th Anniversary
1960年代のニューヨーク市は、「ゲイ」に酒を提供する店を警察がたびたび捜査し、同性愛者に対する差別が横行していた。ちょうど50年前の6月28日、同性愛者らが集うバー「ストーンウォール・イン」に家宅捜索として踏み込み、客や店外に集まった活動家ら数百人と衝突、近くの通りで投石による負傷者が出るなど、両者の対立が数日間続いた。
この暴動がきっかけとなり、同性愛者らがPride(誇り)を持って権利擁護を訴える活動が全米、そして世界へと広まった。現在の「プライド月間」の始まりである。
それから半世紀の今年6月6日、ニューヨーク市警のオニール本部長は初めて公式に謝罪、「当時の行為は差別的で抑圧的だった」と話したという。今や、市警の車両もレインボーカラーに彩られ、街はLGBTQに対する敬意と祝意に溢れる。
6月中、ストーンウォール・インとその目の前にあるストーンウォール国立記念碑には多くの人が足を運んだ。筆者が訪れると、どこからともなく流れてきた、同性愛者らの間で好まれる歌手グロリア・ゲイナーの"I Will Survive"。曲に合わせて一心不乱に踊る人の姿も見掛けた。
企業も積極関与、意識広く浸透
歴史的節目の今年は例年にも増して、ストーンウォール・インや街中の店舗、公共機関がLGBTQ関連の取り組みに熱を入れているようだ。数十メートル歩くごとに、場所によっては1区画全てのお店が、プライド月間の趣旨に賛同してレインボーフラッグを掲げたり、記念した商品やサービスを提供したりしている。公共機関も市警の車両のほか、地下鉄の一部列車や公式ショップでもレインボーカラーの装飾が施されている。ニューヨーク公共図書館では、歴史を振り返る特別展「ラブ&レジスタンス:ストーンウォール50」を開催している。
積極姿勢は企業でも目立つ。スーパー大手のターゲットや生活用品のベッド・バス・アンド・ビヨンドは、レインボー柄のシャツやタオルなどを特別に用意。スウェーデン家具大手イケアの米法人は、通常はブランドカラーの青と黄のバッグを、レインボーカラーの仕様にして限定販売し、収益は米国の人権団体に寄付する。他にも、「ユニクロ」のファーストリテイリングやリーバイス、ギャップ、コンバース、ロクシタン、JPモルガン・チェースにシティバンクと、枚挙にいとまがない。積極的に関与しない、あるいは賛意を示さない大手企業を探す方が難しいほどだ。
プライド月間におけるLGBTQへの関わり方如何で、各社は襟度(きんど)が問われるとも言える。協賛していればすなわち多様性を是認していると受け止められ、世界的に浸透しつつある国連の「持続可能な開発目標(SDGs; Sustainable Development Goals) に取り組んでいる証しにもなる。SDGsのゴール5は「ジェンダーの平等達成」を謳(うた)っている。ネット通販大手アマゾンの実店舗やスターバックスコーヒーなどのトイレの性別表示に見られる「ジェンダーニュートラル」などもLGBTQへの理解の表れと取れる。
LGBTQに対する社会の理解が深まるにつれ、関連の市場は広がっている。様々な調査結果があるが、米国だけで数十兆円の市場規模があるとされる。また電通ダイバーシティ・ラボが2015年に行った調査によれば、日本国内にも5.9兆円の市場がある。
しかし日本ではLGBTQへの無理解や配慮の欠如に起因する言動が問題となるケースが後を絶たない。19年5月には関西のテレビ局が放送した、一般人の胸を触り性別を確かめるといった内容の番組に批判が殺到。同局は「人権上著しく不適切な取材を行い、その内容を放送した」として謝罪した。
闘いは終わらない
「日本にも同性婚のような制度はあるよね。渋谷だっけ?」
マンハッタンにあるLGBTコミュニティーセンター(The Lesbian, Gay, Bisexual & Transgender Community Center)。その2階にある書店で週1回程度働いているというスタッフは、筆者が日本から来たというとすぐにそう言い当てた。恐らく、同性カップルを結婚相当の関係として認め、証明書を発行する「パートナーシップ」制度のことを指していた。日本がどういう取り組みをしているか、LGBTQの人たちが住みやすいのかについて、詳しいことに驚いた。
店内はLGBTQに関する書籍がずらり。スタッフがフィクション、ノンフィクション、マガジンなどと一通り書棚のジャンルを教えてくれた後、「この本なんかはオススメだよ」と「DADDY, PAPA, and ME」を推薦した。男性同士のカップルを両親に持つ子どもの日常を描いた絵本だ。
書店を訪れた翌週、日本で都道府県としては初めて茨城県が、同性カップルに証明書を出す「パートナーシップ宣誓制度」を7月に始めると発表。今後はその本に描かれているような家庭が増えてくるかもしれない。
性に関し、日本よりオープンなニューヨークとあって、LGBTQの人が気軽にファッションを楽しめる専門店もある。18年にマンハッタンにできた「THE phluid PROJECT」で、世界初の「ジェンダーフリー」ショップを自認する。FILAやChampionなど常時15ブランドほどのLGBTQ仕様商品のほか、自社のオリジナルブランドも展開する。
「これは今年のプライド月間の限定品ね」と店員が紹介したシャツ。真ん中には「50YEARS AND STILL FIGHTING」と書かれ、今もなお、LGBTQの権利獲得、地位向上の闘いが続いているとアピールしていた。
プライド月間に限らず、常時LGBTQのニーズに応じた商品を多く取り揃えている。当然、男性用、女性用といった区分けなく売られ、試着室も男女の別なく誰もが使える。マネキンは男性とも女性とも判別できぬようにしてある特注品だ。
「日本への出店も探っているよ」。phluidの創業者、ロブ・スミスCEOは19年2月に取材した際、そう微笑んでいた。日本でもこうしたLGBTQフレンドリーなお店が、街並みの一風景として違和感なく溶け込む未来を期待したい。
(表記のない写真は筆者撮影)