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「日韓の懸案」では扱い易い尹錫悦政権 あれもこれも押せば必ず折れる

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
岸田文雄首相と尹錫悦大統領(岸田首相と尹大統領のHPから筆者キャプチャー)

 韓国は年2回、竹島(韓国名:独島)で「独島防御訓練」(別称:「東海(日本海)領土守護訓練)を実施している。全斗煥(チョン・ドゥファン)軍事政権下の1986年から始まった韓国の「独島防御訓練」は9年前からは毎年2回、上・下半期に分けて行われている。

 上半期は6月頃、下半期は12月頃に実施される。昨年の上半期の訓練は6月15日に実施されていた。後8日で6月が終わるが、今年は訓練に関する国防部の発表も関連報道もない。

 文在寅(ムン・ジェイン)政権下の昨年12月の下半期の訓練は事前予告せず非公開で行われていた。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権も日本を不必要に刺激するのは得策ではないと判断して秘密裏に行った可能性も考えられなくもない。仮に公開すれば、日本の猛反発を買うのを必死で、現に昨年上半期の訓練は公になったため実務レベルで詰めていたG7での日韓首脳会談が流れてしまった経緯がある。

 しかし、仮に非公開であっても日本がこの問題で寛大であるはずはない。厳に日本は昨年の下半期の訓練では韓国に対して「(竹島防衛訓練を)到底受け入れることができず、非常に遺憾である」と強く抗議していた。

 尹政権は発足(5月10日)以来、日本との関係改善に意欲を示している。文前政権下で悪化の一途を辿っていた日韓関係を修復するにはシャトル外交を復元させることだとして今月29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に出席した折に岸田文雄首相との首脳会談を熱望している。従って、首脳会談に向けての環境つくりのため軍事訓練を中止した可能性も考えられる。

 実際に文前大統領も3年前の上半期の訓練を大阪での「G20サミット」(6月28日)出席のため中止したことがあった。安倍晋三首相(当時)との首脳会談を目指していたからだ。しかし、文前政権は首脳会談が不発に終わり、日本政府が輸出厳格化措置に続いて韓国をホワイト国から除外したことに反発し、2か月遅れの8月に訓練を強行していた。

 尹政権の内外政策は一言で言えば、前政権ができなかったこと、やらなかったこと、あるいは逆のことをやることをモットとしている。換言するならば、対日政策では文前政権が強硬ならば、尹政権は融和で、文大統領が「反日」ならば、「親日」で対応することにしていると言っても過言ではない。

 現に竹島周辺の日本の排他的経済水域(EEZ)内での韓国国立海洋調査院の調査船による海洋調査は日本政府が猛烈に抗議し、即時中止を求めると、韓国外交部は最初こそ「我々の経済水域における正当な活動への日本側の問題提起は受け入れられない」と拒絶反応を見せていたものの結局は6月18日までの調査日程を繰り上げ、自主的に中断している。尹政権は文前政権下で始まった韓国国立海洋調査院の海洋調査を強行することで日本との関係を不必要に荒立てたくないとの判断が働いているようだ。

 日韓関係を著しく悪化させた元徴用工問題では尹政権は文前政権同様に日本政府が納得いく解決策を示していないものの韓国の裁判所が認めた日本企業の資産現金化については好ましくないとの認識の下、行政府が介入し、阻止する構えのようだ。それもこれも日本が「現金化すれば、日韓関係は後戻りできない」「現金化すれば、ルビコンの河を渡ることになる」「現金化はレッドラインである」と何度も何度も釘を刺していることに尽きる。尹政権は近々、元徴用工問題に関する官民合同の協議体を発足させ、どうやらそこで現金化手続きを防ぐための作業を検討するようだ。

 元徴用工問題と同様に日韓のトゲとなっている元慰安婦問題でもこの問題のシンボル的存在でもある李容洙(イ・ヨンス)元慰安婦が慰安婦問題を国連拷問防止委員会(CAT)で取り上げるよう再三にわたって要請しているが、応じる考えはないようだ。次期駐日大使に内定している尹徳敏(ユン・ドクミン)元韓国国立外交院長が21日に李容洙さんと面会したが、CATへの付託を約束することはなかった。国連拷問防止委員会(CAT)への付託も、国際司法裁判所(ICJ)への付託も日本との対立を助長するだけで問題の解決策とはならないと判断しているからに他ならない。

 尹政権は元慰安婦問題では2015年の朴槿恵(パク・クネ)政権下の日韓合意を遵守、履行すべきとの立場に立っている。それもこれも岸田首相が「国と国との約束を守ることが国家間の関係の基本だ」と日韓関係改善の条件としているからだ。

 結局、文前政権とは異なり、日本にラブコールを送っている尹政権は日本が「お見合い」の障害を取り除くよう強く要求すれば否が応でも折れざるを得ない状況あるようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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