今年の宝塚記念も牝馬の逆転はあるか?! 4年前の覇者マリアライトに学ぶ勝因
この時期、特有の馬場状態
今週末は阪神競馬場で宝塚記念(G1、芝2200メートル)が行われる。昨年の皐月賞馬サートゥルナーリア(牡4歳、栗東・角居勝彦厩舎)が1番人気に推されそうだが、逆転候補と目され上位人気の予想されるのがラッキーライラック(牝5歳、栗東・松永幹夫厩舎)やクロノジェネシス(牝4歳、栗東・斉藤崇史厩舎)といった牝馬勢だ。昨年も牝馬のリスグラシューが勝っているが、今回は4年前、やはり牝馬ながら人気勢を破って優勝したマリアライト(当時5歳、美浦・久保田貴士厩舎)の話を記そう。
「良馬場がダメというわけではないけど、年齢的に少しシブい面も出て来たのである程度時計がかかる馬場状態になったのは良いと感じました」
当時、そう語ったのはマリアライトを管理した調教師の久保田貴士だった。2016年の宝塚記念は6月26日に行われた。前日が雨だった事もあり、晴れ間ののぞいた当日も馬場状態は重馬場で開始された。手綱を取ったのは名手・蛯名正義。前年のエリザベス女王杯(G1)でもマリアライトを先頭でゴールに導いたベテランは言った。
「体の小さな牝馬にしては道悪を苦にしませんでした。いや、むしろ上手でした。ただ、あまりにひどい馬場にはなって欲しくないという気持ちはありました」
そんな思いが通じたか、午後になると少し回復。宝塚記念は稍重で行われた。「馬場状態を考慮するとかえって好材料と思った」と蛯名の語る枠順は17頭立ての16番だった。
レース当日の状態とは……
「当日の雰囲気は良かったです」と語る久保田は、この牝馬が関西圏で良績を残している事も当然、把握していた。
「前日には現地入りするのが向いたのかもしれません。牝馬だけど、関西遠征だからといって大幅に体重を減らす事もありませんでしたから……」
この日のマリアライトの体重は438キロ。東京で走った前走の目黒記念と同じ数字だった。
1番人気はドゥラメンテ。前年は皐月賞(G1)と日本ダービー(G1)の二冠。その後、怪我で長期休養を余儀なくされたが復帰したこの年の春には中山記念(G2)を勝つと海の向こうで走ったドバイシーマクラシック(G1)でも2着と好走。遠征帰りではあったが単勝1・9倍と圧倒的な支持を得ていた。2番人気がキタサンブラック。前年の菊花賞(G1)馬で直前には天皇賞(春)(G1)を優勝していた。
一方、マリアライトは単勝25・1倍の8番人気。先述した通り前年にはエリザベス女王杯(G1)を勝っていたが、ダークホースの1頭に過ぎなかった。これはそのエリザベス女王杯の後、有馬記念(G1)で4着に敗れると、日経賞(G2)が3着、目黒記念(G2)も2着に敗れていたからだった。しかし、レース前、同馬に跨った蛯名は次のように感じていた。
「ここ何戦かでは最も落ち着いている。前走の目黒記念は完調手前という感じだったけど、今度はしっかり仕上がっている」
ベテランの読みと手綱捌き
さすがは経験豊富なベテランである。その思いに誤りはなかった。そして、その手綱捌きもまたトップジョッキーらしいそれだった。ゲートが開いた後「ノメり気味になって進んで行こうとしなかった」(蛯名)という鞍下のパートナーを、ならば、と「少しでも馬場の良いところを走らせる」(蛯名)ことによって諦めさせなかった。阪神競馬場の内回りコースの形態を考慮し、徐々に前との差を詰めると、3コーナー過ぎでは大外をマクりながら追い上げ出した。
「速い脚を使える馬ではないので早目に動かしました」と鞍上が言えば「あそこで行ったのが素晴らしかったね」と久保田も後に笑みを見せて語る事になった。
ゴール前の直線では先行したキタサンブラックを捉え、追い上げて来たドゥラメンテの追撃を封じた。
「(キタサンブラックを)捉えられると思ってからなかなかかわせなかったけど、何とか捉えてくれました。その後、ドゥラメンテとは分からなかったけど、何かが外から来たのは分かりました。一瞬『ヤバいかな?!』と思ったけど、次の瞬間、マリアライトがもう1度グンと伸びてくれました」
こうして牡馬の人気勢を破り、牝馬ながら春のグランプリの座を射止めてみせた。蛯名は言った。
「道中キックバックの芝をだいぶ浴びていたけど、そういうので怯む馬ではないんですよね。こういった強さがあるから勝てたのだと思います」
春最後のG1は馬場状態が悪くなる時期でもあり、精神的なタフさも求められるのだろう。そして、そういう時、モノを言うのが牝馬特有のメンタル面での強さなのかもしれない。果たして今週末のラッキーライラックとクロノジェネシスは並み居る牡馬勢を負かせるだろうか? 注目したい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)