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不屈の鬼軍曹・永瀬拓矢王座(29)4期ぶり棋王挑戦権獲得 元棋王・郷田真隆九段(50)に快勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月21日。東京・将棋会館において第47期棋王戦挑戦者決定二番勝負第1局▲郷田真隆九段(50歳)-△永瀬拓矢王座(29歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時57分に終局。結果は114手で永瀬王座の勝ちとなりました。勝者組から挑決に進んだ永瀬王座は二番勝負を制し、渡辺明棋王(37歳)への挑戦権を獲得しました。

 五番勝負第1局は2月6日、静岡県焼津市・焼津グランドホテルでおこなわれます。

永瀬王座、充実の勝利

 将棋界の歳時記では、棋王戦の挑戦者決定戦は年の瀬の時節におこなわれ、年が明けると王将戦七番勝負、次いで棋王戦五番勝負が始まります。

 棋王戦はベスト4以上は2敗失格となる独自の方式。挑決二番勝負では、勝者組から進んだ永瀬王座は1勝、敗者復活組から進んだ郷田九段は2連勝で挑戦権獲得となります。

 両者のここまでの対戦成績は永瀬5勝、郷田4勝。非公式戦では2012年、新人王戦記念対局で永瀬新人王-郷田棋王(肩書はいずれも当時)という対戦があり、そのときは郷田棋王が貫禄を示しています。

 対局開始に先立つ振り駒の結果、表の「歩」が2枚、裏の「と」が3枚出て先手は郷田九段と決まりました。

 定刻10時。

「それでは時間になりましたので、郷田先生の先手番でお願いします」

 特別対局室に記録係の声が響いて、両対局者は一礼。持ち時間4時間の対局が始まりました。

 郷田九段は矢倉志向。対して永瀬王座は現代調で、急戦をにおわせる立ち上がりです。

 永瀬王座は中央5筋に玉を据える中住居(なかずまい)。対して郷田九段は金矢倉から金銀4枚が集結する穴熊へと組み替えました。

永瀬「先手はたぶん堅さが主張かなとは思ったんですけど。後手としてはバランスという感じで。こちらがかなり薄い形なので、かなり神経を使う将棋なのかな、と思っていました」

郷田「序盤があまり経験のない形で。ちょっと対応がうまくできなかったですかね。玉は堅いんですけれど、駒が下がっちゃってる将棋なんで。ちょっと序盤でうまくいかなかったなという気がします」

 永瀬王座は3筋で歩を交換し、駒台に歩を乗せたあと、その歩を再び元あった位置へと打ちます。本格的に駒がぶつかる前に、なんとも繊細な動きが続きました。

永瀬「(58手目、△3四歩と打ったところは)こちらとしても先手の囲いが堅すぎるので、かなり気を使うところが多いのかな、とは思っていました」

 永瀬王座は相手の穴熊玉上部の端を攻め、銀桂交換の戦果を得ます。そして得した銀を相手陣に打ち込んでペースをつかみました。

永瀬「(68手目)△7五歩と△5七銀はかなり迷ったんですけど、第一感が△5七銀だったのでそちらを指しました」

 永瀬王座はうまい手順で打った銀を使い、相手穴熊の要である金を1枚はがします。さらには角を切り捨てて2枚目の金まではがし、相手玉攻略が見込める形となりました。

永瀬「(103手目)▲4四歩△同金で、こちらの攻めが△7八金がかなり厳しければ、勝ちになっているんじゃないかな、とは思いました」

 中央の永瀬玉は薄いものの逃げ場所が多くつかまらない形。一方、堅かった郷田玉は駒をはがされてみると隅で逃げ場所がありません。

 最後、郷田九段は永瀬玉に迫って形を作ります。永瀬王座は慎重に時間を使い、郷田玉を詰ませたところで終幕。永瀬王座が快勝で大きな一番を制しました。

 両対局者は今期トーナメントを次のように振り返っています。

永瀬「そうですね、一局一局、とても大変だったんですけど、自分なりの課題を克服できればと思いながら指してはいました」

郷田「苦しい将棋もあったり、快勝譜もあったりといったところでしたけど、最後がいちばん内容がまずくて(苦笑)。まあでも仕方ないですね」

 永瀬王座は2017年度以来、4期ぶりの五番勝負登場となります。

永瀬「挑戦者になることができてよかったと思います。そのときはかなり実力差があるというふうに感じましたので、少しでも差を縮められるようがんばっていきたいと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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