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あらためて「WBC優勝後」の代表戦報道を考える 3/24 日本代表vsウルグアイ代表@国立

宇都宮徹壱写真家・ノンフィクションライター
第2次森保政権の初陣、日本vsウルグアイの試合には6万1855人が集まった。

「WBCの侍ジャパンが、素晴らしい戦い方を見せてくれたと思います。野球とサッカーは違いますが、世界トップの個の力を持った選手が、日本のため、チームのため、仲間のために戦う犠牲心を教えてもらいました」

 3月24日、東京・国立競技場で開催されたキリンチャレンジカップ2023、日本vsウルグアイ。前日会見に臨んだ日本代表の森保一監督は、WBCで優勝した侍ジャパンの快挙を讃えつつ、自分たちも大いに刺激を受けたことを明かしている。

 WBCが行われるのは、シーズン開幕前の3月。決勝は春分の日あたりで、ちょうどFIFAマッチデーのタイミングと重なる。侍ジャパンが最初に優勝した2006年はキューバ戦の9日後に、連覇を果たした2009年は韓国戦の5日後に、それぞれサッカーの代表戦が行われている。

 2009年3月28日、日本vsバーレーンによるワールドカップ・アジア最終予選が埼玉スタジアムで行われた。当時のコラムを読み返すと、韓国を破ってWBC連覇を果たした余韻を、無理やりバーレーン戦まで引っ張ろうとする、当時のメディアへの違和感が書かれてあった。少し引用しよう。

 昨年以来これで5度目の対戦となるバーレーンを韓国に例えてみたり、あるいは中村俊輔の存在感をイチローと比べてみたり、その揚げ句に「サッカーも野球に続け」と言わんばかりの押し付けがましい論調。もしかして報道する側は、WBCを持ち出さないと注目されないくらい、日本代表のニュースバリューは低下していると考えているのであろうか。

 14年前のバーレーン戦は、公式戦だったにも関わらず、サッカーに対する国民の視線は非常に冷めていたと記憶する。それに比べて今回は、第2次森保体制の初陣であり、昨年のワールドカップの「凱旋試合」の意味合いもあった。間違いなく、今回の方が注目度は高いはずだ。

 そのウルグアイ戦が行われるのは、3回目となるWBC優勝の2日後。実に14年ぶりとなる、野球世界一の感動を上手く引き継ぎながら、新しい日本代表の歴史をスタートさせる。同じ「WBC優勝後」の代表戦でも、2009年と比べれば条件ははるかに良かった。

この日は全席での声出し応援が可能となり、ようやくコロナ以前の代表戦の風景が戻ってきたことを実感する。
この日は全席での声出し応援が可能となり、ようやくコロナ以前の代表戦の風景が戻ってきたことを実感する。

■「凱旋試合」で輝きを見せた選外の選手たち

 簡単に試合を振り返っておこう。日本代表のスターティングイレブン、および交代選手は以下の通り。

【GK】シュミット・ダニエル【DF】菅原由勢(89' 橋岡大樹)板倉滉 瀬古歩夢 伊藤洋輝【MF/FW】遠藤航(C)守田英正(74' 田中碧)堂安律(61' 伊東純也)三笘薫(89' 中村敬斗)鎌田大地(74' 西村拓真)浅野拓磨(61' 上田綺世)

 試合が動いたのは38分、フェデリコ・バルベルデが右足で放ったシュートは、いったんはポストに嫌われるも、すぐさまバルベルデが自ら頭で押し込み、ウルグアイが先制する。

 日本は65分、上田とのワンツーから抜け出した伊東がペナルティエリア内で倒され、PK獲得かと思われた。しかし、オンフィールドレビューで「ファウルなし」。

 日本の同点ゴールが生まれたのは75分。伊東の右からのクロスに、左足ダイレクトで反応したのは、途中出場の西村だった。交代から1分も経たないファーストタッチが、そのまま第2次森保体制のファーストゴールとなる。

 この日のウルグアイは、若手中心のメンバーで、指揮を執ったマルセロ・ブロリ監督は代行。準備期間が短かったにもかかわらず、効果的なプレッシングと高いディシプリンを見せて、たびたび日本を苦しめた。その意味では、申し分ないマッチメイクだったといえよう。

 一方の日本は、吉田麻也や長友佑都や酒井宏樹といったベテランの招集は見送られたものの、スタメン11人中9人はカタール大会のメンバーで占められていた。この「凱旋試合」で唯一のゴールを挙げたのが、選外で国内組(横浜F・マリノス)の西村だったのは興味深い。

 また、この日のディフェンスラインは、最多キャップ数が板倉の16。菅原は初スタメン、瀬古が初キャップということで、経験と練度の低さが懸念された。しかし蓋を開けてみれば、バルベルデのスーパーゴールを除いて、危なげない守備を披露。この試合、一番の収穫だったと言えるのかもしれない。

ウルグアイ戦前日会見での森保監督。「WBCの侍ジャパンが戦い方で素晴らしいものを見せてくれた」と発言。
ウルグアイ戦前日会見での森保監督。「WBCの侍ジャパンが戦い方で素晴らしいものを見せてくれた」と発言。

■2026年3月、日本代表は盛り上がっているか?

 ワールドカップ明けの初陣というものは、とかく新監督の一挙手一投足に注目が集まりがちである。しかし今回は「新監督」ではない。招集メンバーや新たなコーチ陣に注目は集まったものの、指揮官については多くを語るまでもなかった。

 そこでメディアが着目したのが、侍ジャパンを優勝に導いた栗山英樹監督。カリスマ性に頼らず、威圧的でもなく、選手と同じ目線に立ちながら対話を重視する。まさに「令和の時代に相応しい」指揮官のありように、森保監督と重ねて論じる記事をいくつか目にした。

 実際、栗山・森保両監督は交友があり、野球とサッカーという競技を超えて、互いリスペクトしているようだ。選手の向き合い方について、時代に合わせたやり方を取り入れているという意味においては、確かに共通点はある。ゆえに森保監督が、栗山監督の快挙について言及するのは、まったくもって自然だとは思う。

 ここで伝える側が自覚すべきは、WBCとワールドカップを同列に語るのには、いささか無理があることだ。WBCは2週間の短期決戦であるのに対し、日本代表がこれから戦うワールドカップ予選は2年間の長丁場。しかも今大会から、アジアの出場枠は最大9に増える。

 この「緩い予選」の中、日本代表のメディア価値をどう高めていけばよいのか。今後、伝える側は大いに頭を悩ませることになろう。そうして考えるなら、安易にWBCに乗っかりすぎた感のあるウルグアイ戦の報道には、少なからぬ当惑を禁じ得ない。

 次回のWBCは、2026年3月に開催されるらしい。ちょうどワールドカップ本大会に向けて、日本代表が親善試合を行うタイミングだ。果たしてその時、サッカー界はWBCの話題に頼らずとも、十分な盛り上がりを見せているだろうか。

<この稿、了。写真はすべて筆者撮影>

写真家・ノンフィクションライター

東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。『フットボールの犬』(同)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)で2016サッカー本大賞を受賞。2016年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(WM)を配信中。このほど新著『異端のチェアマン 村井満、Jリーグ再建の真実』(集英社インターナショナル)を上梓。お仕事の依頼はこちら。http://www.targma.jp/tetsumaga/work/

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