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【ローカル鉄道讃歌 4】いすみ鉄道新社長決定!? どうする? 地域住民との連携

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
駅構内の草むしり、花壇の手入れが一段落し、一息いれる地域住民の皆様方。

いすみ鉄道の新社長が決定し、来月初旬には取締役会、株主総会が開催されて就任の見通しとなりました。

私の退任後、千葉県がインチャージになって以来、この情報化の時代にほとんど会社からの公式な情報が出なくなっていますので、やきもきされていらっしゃる方も多いと思われますが、事実として今月中旬の段階で最終選考は終了し、新社長は内定しております。

内定と申し上げるのは、来月初旬に取締役会、株主総会を経て正式な社長に就任されるからですが、どのような方かは会社の発表を待つとして、新社長にとっての大きな課題は地域住民の皆様方とどのように係わっていくかということは間違いありません。

地域鉄道というのは、地域あっての鉄道です。そしてその地域の主役というのは地域の住民の皆様方であり、決して役場などの行政機関ではありません。まして、今の時代は地域の情報をどう発信して、地域がどのように注目され、地域にどれだけたくさんの人々にいらしていただくかが全国的課題ですから、地域住民の皆様方と一緒に地域を盛り上げていただいている「地域外の人々」も地域住民と同様、大切な地域の主役と言えましょう。

筆者が先週いすみ鉄道を訪ねた際に見た光景です。

ボランティアでホームの草むしりをする住民の方々。
ボランティアでホームの草むしりをする住民の方々。
作業の手を休めてちょっと一服。
作業の手を休めてちょっと一服。

国吉駅でホームの草むしり、花壇の手入れをする地域住民の皆様です。

2009年に筆者がいすみ鉄道社長に就任した時には、すでの皆様方がこのような活動をされていました。

筆者の顔を見て「あら、社長さん、お久しぶりですね。」とにっこり笑ってポーズをとってくれました。

すでに退任した筆者を今でも「社長さん」と呼んでくれるとはありがたいことですが、この国吉駅だけでなく、いすみ鉄道沿線各駅にはそれぞれこういう活動をしてくださっている地域住民の方々がいらっしゃるのです。

線路の草刈りも地域住民の仕事ですし、草刈りの後、菜の花の種を蒔いて肥料をあげるのも地域住民の皆様のお仕事です。

ではなぜ、地域住民がここまで熱心なのかというと、いすみ鉄道は国鉄の赤字ローカル線を引き継いだ第3セクター鉄道だからです。

国鉄ということは国ですね。国が、国鉄からJRになるときに、「鉄道を廃止してバスにしなさい。」と日本全国の田舎の地域を「指導」したわけですが、第3セクターとして鉄道を残した地域というのは、すなわち当時の国の「指導」に従わなかったところです。

最近では新幹線開業を契機として道府県や自治体が経営を代わる第3セクター鉄道が幾つもありますが、いすみ鉄道のような国鉄の特定地方交通線と呼ばれていた赤字路線をJRになるタイミングで引き継いだ第3セクター鉄道というのは、国の指導に従わなかったところですから、ひと言で申し上げるとすれば、「国には頼らず自分たちのことは自分たちでやる。」という気概のある地域というところだと筆者は考えます。だから、駅の掃除や線路の草刈りはもちろん、地域の小学生は車両の掃除、中学になると駅の美化活動、高校生になると、いすみ鉄道対策委員会という名のもとに、駅の清掃はもちろん、いろいろ地元の鉄道を盛り上げる活動をしてくれているという地域なのです。

おそろいのジャンバーを着た「いすみ鉄道対策委員会」の生徒さんたち。
おそろいのジャンバーを着た「いすみ鉄道対策委員会」の生徒さんたち。
高校生の駅の美化活動。
高校生の駅の美化活動。
マンドリンギター部の生徒さんたちによる音楽列車。
マンドリンギター部の生徒さんたちによる音楽列車。
地元小学生による車両清掃。
地元小学生による車両清掃。
中学生の駅清掃。
中学生の駅清掃。

お父さん、お母さん、おじいさん、おばあさんが長年にわたって鉄道を守る活動をしている地域に育った子供たちは、自然と鉄道に係わる活動をするようになる。これが、おそらく全国共通で特定地方交通線を引き継いだ第3セクター鉄道沿線で見られる地域住民の皆様方の取り組みではないでしょうか。

「い鉄君」と呼ぶオリジナルのかぶり物をして車内で駅弁を売る応援団長の掛須さん。地元の旅館のご主人です。
「い鉄君」と呼ぶオリジナルのかぶり物をして車内で駅弁を売る応援団長の掛須さん。地元の旅館のご主人です。

黄色い「い鉄君」という名前のかぶり物を着て列車に乗り込んで駅弁を売る応援団長の掛須保之さん(56)。

56才にもなって恥ずかしい顔を見せずにこんな芸を披露する応援団長の姿に、車内のお客様は大喜びです。

地域の大人が、こうやって一生懸命鉄道を盛り上げる活動をしていると、当然子供たちも影響されるのだと思います。

そして、子供のころから公共的な活動をしてきた人たちが、やがてこの国を支えていくことになる。こういうサイクルが第3セクターのローカル線沿線には確かに存在しています。

掛須団長(左)と高橋博貴くん(15) 中学3年生の高橋君も応援団の仲間入り。
掛須団長(左)と高橋博貴くん(15) 中学3年生の高橋君も応援団の仲間入り。
オリジナルのメッセージボードを作って列車のお見送りをする高橋君。
オリジナルのメッセージボードを作って列車のお見送りをする高橋君。

最近応援団に仲間入りしたのが地元の中学校に通う高橋博貴くん、15歳。

自分も何か活動したいと、手作りのメッセージボードを持って、土日に時間があるときに駅にやって来ては観光客の皆様方に手を振ってくれています。

掛須団長も新しい仲間ができて大喜びです。

遠方から毎週のように駆けつけてくれる応援団の皆様方も立派な地域の一員です。
遠方から毎週のように駆けつけてくれる応援団の皆様方も立派な地域の一員です。

ローカル鉄道というのはその多くが戦前にできたところです。つまり、建設当初の役割はすでに終了しているところがほとんどです。でも、建設当初の役割は終了しているから廃止という話になれば、シャッター街と化した田舎の町自体が役割を終わっているから要りませんという話になります。赤字だから廃止にしろという議論をするのであれば、田舎は全部赤字ですから田舎そのものが要らないという話になって行きます。そして、そういう議論を国鉄の末期ごろから長年やって来て日本の田舎はどうなりましたか。みんなダメになって来ているわけです。

でも、よく見てみると日本の田舎にはこうして頑張っている皆様方がたくさんいらっしゃって、笑顔がたくさんあふれているのです。

そう考えると、田舎というところは可能性に満ちていると言えるのではないでしょうか。

なにしろ、ローカル線が走る田舎の景色は、都会人があこがれる対象で、たくさんの観光客がシーズンオフのこの時期にもいらしていただいているのですから、地域住民の皆様方と一体になってローカル線をどのように使って地域がどう浮上していくか。おそらく、今が地域に与えられた最後のチャンスだと思います。

新しく就任される社長さんには、地域住民の皆様方を大切にしていただき、一体となった活動をしていただきたいと切に願っております。

新社長様、どうぞよろしくお願いいたします。

そして、読者の皆様方も引き続きいすみ鉄道にご声援をいただきますようよろしくお願い申し上げます。

お天気が悪い中でも駅はたくさんのお客様、地域住民の皆様方で賑わっていました。これがローカル鉄道ならではの光景でしょう。
お天気が悪い中でも駅はたくさんのお客様、地域住民の皆様方で賑わっていました。これがローカル鉄道ならではの光景でしょう。

※注 写真はすべて筆者撮影。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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