消える小田急ロマンスカーらしさ 「カフェ」も閉店へ ただの有料特急でいいのか?
小田急電鉄の新宿駅改札内には、「ロマンスカーカフェ」という名のカフェがある。ロマンスカー乗客向けの店で、ホームに入る車両を見ながらゆったりとした時間を過ごせる。ロマンスカーにちなんだ商品も提供されている。
私鉄有料特急の中でも、小田急ロマンスカーは特別な体験が味わえる存在として鉄道ファンに支持されてきた。列車を模した容器に入った特別な弁当など充実した車内販売サービスがあり、小田急百貨店の地下で弁当を買って乗り込むことも可能だった。もちろんロマンスシートや、展望席といった車両自体の華やかさもある。
ただの私鉄有料特急ではない高い質感が、ロマンスカーの魅力だった。
魅力にあふれていたロマンスカー
近年、そんなロマンスカーに変容がみられる。2018年に登場したGSE(70000形)は、これまでの展望車つきロマンスカーの伝統を破って、連接台車ではなくボギー台車を採用した。それ自体は、コスト削減やメンテナンスのしやすさといった点から考えると、しかたがないことではある。
ロマンスカーのアイデンティティの一つである展望席を守るために、見えない箇所を犠牲にするという判断を下したのだろう。
長期的に見て、各駅にホームドアを設置するために、1両20メートルの車両にしなくてはならないという事情もあった。例えば連接台車方式を採用するVSE(50000形)では、1両の車両の長さが14メートルでホームドアが導入しにくい。
以前、通勤客向けの座席指定特急を中心として運用するために、展望席をなくし着席数を多くするために導入されたEXE(30000形)や、地下鉄直通のために先頭に非常口を設けなくてはならないMSE(60000形)という例外はあるものの、ロマンスカーは基本的には展望席を備え、運転席は2階にあるというのが基本であり、その姿の優雅さが多くの人を惹きつけてきた。
EXE以降に登場したVSEでは、展望席が復活し、白い車体の美しさと合わせて多くのファンを歓喜させた。
GSEの登場は、老朽化したLSE(7000形)の置き換えのためであり、やむを得ないことであった。また、LSEののちに登場したHiSE(10000形)は、ハイデッカー構造があだとなりバリアフリー対応ができずすでに引退していた。
そんな中で、ひさびさに華のあるロマンスカーとしてGSEは登場した。
美しい車体、車内販売のおいしい飲み物、小田急百貨店か車内販売で購入したお弁当。これらが一体となって、ロマンスカー「らしさ」を作り出していた。
そんな中で新宿駅には2006年、「ロマンスカーカフェ」が開店。小田急は看板列車としてのロマンスカーを強く推し、多くの人がロマンスカーを利用していた。
しかし、コロナ禍がそんなロマンスカー「らしさ」を壊した。
失われるロマンスカー「らしさ」
昭和から平成初期にかけて「走る喫茶室」と言われたころから、上質な車内サービスはロマンスカーの魅力だった。車両のプレミア感と合わせて、ほかの私鉄有料特急にはないアピールポイントがロマンスカーにはあった。
しかし2020年にコロナ禍が始まってから利用者が急激に減少、ロマンスカーの車内販売は2021年1月にサービスを一時中止、そのまま3月に終了した。
これで、ロマンスカーのプレミア感を一気に低下させることになってしまった。
すでにロマンスカーは通勤客の利用が増え、車内販売の売り上げも減っていたところに、コロナ禍での利用者減が響いた。
2022年3月には、展望席つき車両のVSEも定期運行を終了した。連接台車ゆえのメンテナンスのしにくさ、部品の確保の困難さという事情があり、2005年デビューという車両ながらも、運行を終えるしかなかった。
これで展望車があるロマンスカーは、GSEだけとなった。
VSEよりも古くから走っているEXEはいまでも使用されており、リニューアルも進んでいるのとは対照的だ。
加えて、小田急ロマンスカーにとってつらいのは、小田急百貨店の一時的な移転である。
小田急新宿駅上にある小田急百貨店の建物をいったん取り壊し、新宿駅の改良工事を行うために閉店するという。また、小田急百貨店も、閉店し一部のお店を小田急ハルクに移転して営業している。小田急新宿駅からはちょっと距離がある。
この移転により食べ物を系列百貨店で買うのが面倒になり、隣接する京王百貨店で買うほうが楽になってしまった。なお、京王百貨店も再開発にともなう建て替えの可能性が大きい。
その状況での「ロマンスカーカフェ」閉店である。今年2月25日をもって営業を終了することが発表された。
このままだと普通の有料特急列車、ただの便利な座席指定列車になってしまうのではないか? という状況にある。
さまざまな事情があるとはいえ、プレミアム感というロマンスカーの魅力が減じられる状況を改善する必要はあるのではないだろうか。