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ノルウェーで「反移民・イスラム教徒」新党結成の動き

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
新党結成の目玉として報道されるイェッデ氏(進歩党) Photo: A Abumi

イスラム教徒、移民、難民の受け入れにさらに否定的な新党結成の動きが目立ち始めている。新党となるかもしれない「アリアンセン」(同盟党/Alliansen)の存在が、ノルウェーで報道されたのは9月。

8月24日に、新党結成について話し合う「秘密の会合」が現地で開催された。進歩党の国会議員であるクリスチャン・ティブリング・イェッデ氏と、同氏の妻で、石油・エネルギー省の秘書であるイングヴィル・ティブリング・イェッデ氏が、同席していたとされている。

ノルウェー国営放送局は、秘密とされていた会合の招待状を極秘に入手し、3日に大きく報道した。

主催者である投資家ミッケル・ドブラウグ氏からの招待状には、新党結成をほのめかす文章が明確に記載されている。

ノルウェーでは、右翼・左翼ともに、大政党の支持率が落ちはじめている。一方、支持率は低いながらも、大政党と合意体制を組むことで、発言力を増す小政党が増加中。現在のノルウェー政治の変化を受けて、移民政策に厳しい新たな党を結成することが、国を正しい政策へと導く近道になると、招待状には記載されている。

今のノルウェーでは、移民や難民申請者の受け入れに最も否定的で影響力があるのは、与党の進歩党である。だが、2013年の国政選挙で与党となって以降、首相率いる保守党やその他2政党との合意体制のため、進歩党が目指す反移民政策は、マイルドなものへと中和されている傾向がある。

これまで外国人に対して過激な発言を繰り返してきた政治家たちも、大臣などの重要職に就くと、発言が控えめになっていた。与党としてバランスを保つためだ。

進歩党の全国総会。全席は主要大臣たち Photo: Asaki Abumi
進歩党の全国総会。全席は主要大臣たち Photo: Asaki Abumi

筆者は進歩党をよく取材しているが、新党結成の動きがあることには、まったく驚かなかった。

メディアでは、財務大臣である進歩党党首イェンセン氏や、リストハウグ移民・社会統合大臣が目立ちやすい。だが、移民などにもっと否定的な発言をする政治家は、進歩党に数多くいる。クリスチャン・ティブリング・イェッデ氏は、間違いなくその一人であり、イスラム教徒には特に批判的だ。

イェッデ夫妻は、立場上、「新党の話をする集まりだとは知らなかった。その話がでた瞬間、すぐに席を離れた。進歩党に忠誠を誓っている」としていた。しかし、国営放送局の取材によると、現場にいた参加者は、イェッデ氏は積極的に会話をしており、新党のリーダー候補としてみられているようだったと話している。

進歩党党員のSNSなどでは、「今の進歩党は与党になってから、移民政策が甘くなってしまった」と、嘆く支持者からの投稿をよくみかける。

進歩党の目玉党員を集めて、新党が結成された場合、支持者が移動し、進歩党の支持率は下がる可能性がある。逆に、反移民を掲げる政党が増えれば、世論に新たな影響を及ぼす。新党が進歩党などと合意体制を組むことで、右翼陣営への後押しになる可能性もある。

2017年の次となる2021年の国政選挙で、新党が存在していても、あまり不思議ではない。

招待状には、新党アリアンセンの下準備はできており、資金と賛同する人々を集めるのみと記載されている。

Photo&Text: Asaki Abumi

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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