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おじさんも、おばさんも、50歳過ぎたら消える社会

河合薫健康社会学者(Ph.D)
(提供:イメージマート)

世界経済フォーラム(WEF)が男女の格差を分析した報告書、「ジェンダーギャップ指数2022」で、日本は主要7カ国(G7)の最下位、アジア・太平洋地域でも最下位、世界146カ国中116位と、またもや惨憺たる結果だった。

しかも、あれだけ「女性活躍だ!」「女性を輝かせろ!」と言っていたのに、「経済活動への参加と機会」のスコアが16年水準まで低下したとは、かなり衝撃的。

報告書では、「女性の労働参加率の減少が著しかったこと」に加え、「女性管理職の割合が減ったこと」が主たる原因と指摘している。

「男女の賃金格差」も世界からおいてけぼりだ。

経済協力開発機構(OECD)の2020年時点調査によると、日本は男性賃金の中央値を100とした場合、女性は77.5。OECDの平均88.4を大きく下回っている。

正社員の男性の平均年収は550万円なのに対し、女性は384万円と約200万円も低い(国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」)。

あれだけ2020東京五輪・パラリンピック開催前に、「女性の会議は長い」発言や、女性タレントの容姿を揶揄するような発言に対し、世界中から「ニッポン、信じられな~い!」と大バッシングを受け、「変わろうぜ、ニッポン!変わらなきゃ、ニッポン!」という空気が広がったのに・・・。

つまるところ、「変わりたくない」が本音なのだ。

「結局、私たちは永遠にベンチを温めるだけの存在なんです」ーー。

こう嘆くのは今年役職定年を迎える、50代の課長職の女性だ。

女性は入社当時から、同期の男性より“先“を走っていたという。ところが、30代後半の人事で「あれよあれよ」と男性たちに追い越された。

納得がいかず、上司に理由を聞くも完全にスルー。その後も、「これでもか!」というほど“結果“を出し続けるも、一向に辞令は下らなかった。

そんな中、数年前にやっと課長に昇進。

政府が「女性活躍」を看板政策の“目玉“に掲げ、「指導的地位に占める女性の割合を30%程度に上昇させる」との目標を示したことが、追い風となった。

ところが、再び彼女の前に“大きな壁“が立ちはだかったという。

コロナ禍でリモート勤務ができるようになり、社内ではより一層、女性の働きやすい職場づくりが進められています。やる気ある若い女性たちが活躍できる時代になるのは、本当にうれしい。男性の育児休暇も以前より取りやすくなっているので、感慨深いというかなんといいますか。

ただ、自分の今の立場を考えると・・・もやもやしています。またか、って情けないのです。

私は今年、役職定年です。

なんで、昇進は男性優先なのに、役職定年は一律なのか、最初は納得できませんでした。でも、それは仕方がないと自分に言い聞かせました。

曲がりなりにも、課長というリーダー的立場を経験させてもらったことは、会社に感謝しています。課長になって、部下を持つこともできました。マンネン課長で、横滑り人事ばかりでしたが、仕事を辞めたいと思ったことは一度もありません。

なので、役職定年後は、後進育成に精を出すつもりでしたので、2年前からキャリアカウンセラーの勉強を始めました。自分の経験知だけではなく、専門的な視点で後進育成に関わることができた方がいいし、ゆくゆくは資格も取りたいと考えていました。

ところが、先日、上司と面談があって「役職定年になったら、次は希望退職か」って言われてしまったんです。

突然のことで、何を言われているのか理解できず、「定年まで後進を育成するなどして力になりたいし、会社に恩義もあるので雇用延長を考えている」と伝えました。が、上司のリアクションはなかった。

その代わりに、「ご苦労さま」って言われました。それでやっと理解できたんです。肩たたきです。もう会社にとって、私はいらないのです。邪魔なのでしょう。

そう考えたら、情けなくて。そんなとき、ちょうど国際女性デーの新聞広告が目に入って。それを見て、確信したんです。

結局、私たちは永遠に、ベンチを温めるだけの存在なんだなぁ、と。

女性と話したのは、今年3月。そう、3月8日の国際女性デーの直後だった。

今年は多くのメディアが“国際女性デー“を取り上げ、新聞には一面広告も載った。

「初の女性大臣が誕生」「日本の女性管理職50%超えへ」という大きな見出しがあり、「共働き夫婦の平日・育児時間が男女同等に」「生理用品に軽減税率適用」「男性の育休取得率8割超え」「選択的夫婦別姓が実現へ」「ノーベル物理学賞 日本人女性 初の受賞」などという文字が並んでいる。

どれもこれも「ああ、こんな時代になれるといいね」と、素直にうなずけるものばかりだ。

だが、「国際女性デーは、すべての女性の自由と権利が守られる平等な社会を目指し、共に考える日」とされているのに、そこに「50代の私」は含まれていないように見える。

一言でも「定年まで勤め上げた女性 50%超えへ」とか、「リカレント教育を受ける役職定年女性 8割越え」とか、あるいは「非正規女性の賃金 正社員の賃金超え」とか、「更年期障害休業法成立」とかが、紙面の片隅にでもあればよかった。

そうすれば、「私たちは永遠に、ベンチを温めるだけの存在」という忸怩たる思いにはならなかった。男社会から排除され、今度は女性社会からも……。あまりにも、あまりも、自分が情けなくなる。

念のために書くが、これは紙面の文言への批判ではない。

しかし一方で、総務省の「労働力調査」によれば、働く女性のうち45歳以上の割合は54%で、正規雇用に限っても約4割が45歳以上という現実がある。

2人に1人が、45歳以上。半分が45歳を過ぎた女性だ

国や会社が描く、多様性やD&Iが実現した輝く社会の対象に「50歳以上の男性」が含まれていないのと同じように、「50歳以上の女性」も、何ひとつ期待されていない。

せめて副業を認めれてくれれば、彼ら彼女らもやる気を失うことなく、最後まで頑張れると思う。これまで何人もの50代女性から、「資格を取ったのですが、副業禁止なので」と、手づくりの名刺を渡された。

以前、インタビューした女性が、こう話してくれたことがある。

おばさんが数人なら『女性を長期雇用するいい会社』というイメージアップになるかもしれませんが、おばさんだらけになったら『なんだよ、ババアかよ。こないだの若い人の方がいいな』と、お客さんに言われてしまうのがオチ。会社は、できることなら、おばさんは奥に押し込めておきたいというのがホンネだと思います。

どんなに寿命が伸びようとも、「年寄りは嫌われる」。

働く人の6割が40代以上なのに、「50歳以上は用無し」とばかりに、企業は希望退職を拡大し続けている。

男性には「働かないおじさん」というレッテルを貼り、あたかも働く側に問題があるようにしているけど、経営側は「超高齢社会」という現実に即した経営をしてきたのだろうか。

私には・・・「してこなかったツケ」を、シニア社員にさせてるだけ、のように見える。

そして、今度は「50歳以上の女性」を、男女平等という言葉を都合よく使い、切り捨てご免!するのだろうか。

おばさんも、おじさんも、50歳を超えた途端、消える社会。

どちらも働く人の半数以上を占めている。本当に、誰が会社を支えるのか?

ちなみにこの12年間で60歳以上の従業員は2倍に増え、65歳以上は3.2倍と爆増。年齢全体では1.2倍なのに、65歳以上は320%増だ。

この現実に危機感を持たずに、50歳を、いや45歳以上の社員に肩たたきをしたり、閑職へ追いやったりする企業に未来はない。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

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