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『不思議の国のアリス』は、原作者の体験に基づく物語?

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(提供:イメージマート)

童話から名付けられた症候群はさまざまあり、『ラプンツェル症候群』というものもあります[1]。

今回はその中から、小児科でまれに経験する『不思議の国のアリス症候群』という病気をご紹介してみようと思います。

不思議の国のアリス症候群とは

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不思議の国のアリス症候群は、1955年にイギリスの精神科医トッド医師によって提唱された症候群です[2]。この変わった病気の名前は、やはりイギリス出身の童話作家、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』にちなんで命名されました。

童話『不思議の国のアリス』は、皆さんもよくご存知かもしれません。

うさぎを追いかけて穴に落ちた少女アリスが、自分の体が、大きくなったり、小さくなったりする、そういったストーリーが描かれます[3]。

不思議の国のアリス症候群も、自分の体の一部が大きく感じたり、小さく感じたり、もしくは時間が実際よりも早く過ぎ去っているような、そんな体験をするような症候群とされています[4]。

頻度は正確に分かっていませんが、稀なようです[5]。

しかし、『昔、そんな体験をしたことがある』と聞くこともあり、もしかすると結構多いのかもしれません。

EBウイルス感染症という、多くのひとが罹る感染症が原因になることがある

写真:イメージマート

原因としては、EBウイルスというウイルスの感染症、この感染症は伝染性単核球症という名前で知られており、原因になるのではと考えられています[6]。

EBウイルス感染症は、多くの人が一度はかかる、特に子どもの時にかかることが多い感染症です。

大多数は風邪症状だけで済むことが多いのですが、場合によっては発熱が長引いたり、喉が腫れたり、もしくは首の周りのリンパ節や肝臓などが強く腫れたりといった症状を起こすことがあります[7][8]。

最終的には、多くの方が自然に良くなる疾患ですが、そのEBウイルスに感染したときに不思議の国のアリス症候群が発症する方がいるのですね。

片頭痛やてんかんの一種が発症の原因になることもある

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また、脳幹性の片頭痛や側頭葉てんかんというてんかんの一種が原因として起こりうるとされています[9][10]。

『脳幹性の片頭痛』とはどんな頭痛でしょうか。

脳幹というのは、脳の幹(みき)と書かれるように、中枢神経でも重要な部位が集まる器官です。その脳幹に関連した片頭痛です。

脳幹性の片頭痛は、例えば会話ができているけれど、ろれつが回っていないとか、ぐるぐる回るような回転性のめまいであるとか、耳鳴りであるとか、そういった症状を起こします。

ある報告では、片頭痛のあるひとの15%程度が経験しているという報告もあります[5]。こういった場合は片頭痛の治療が必要ということになるでしょう。

おわりに

さて、この病気の由来となった不思議の国のアリスは、ルイス・キャロルによって描かれました。

この病気を提唱したトッド医師はルイス・キャロルが片頭痛を患っていたのではないかと考えていたそうです。ただ、この片頭痛説には反対説もあって、キャロルが側頭葉てんかんをもともと持っていたのではと考えている方もいるようです[11]。

なお、童話が実際の病気をもとにしているのではないかという話は結構多く、『眠れる森の美女』は、原虫であるトリパノソーマの感染により睡眠病にかかっていた可能性があるという説もあります[12]。

この不思議な物語が、原作者の体験に基づいたものかもしれないと想像してみると少し興味が湧いてくるかもしれませんね。

今回の記事は、2022年1月3日に音声メディアVoicyで放送した内容を、文字起こし・追記・改変して作成しました。

不思議の国のアリス症候群とは【キャロルの体験に基づく話かも】

2022/12/19 AM6時

『不思議の国のアリス症候群』は、原作者の体験に基づく物語?

から、『不思議の国のアリス』は、原作者の体験に基づく物語?

に題名を変更しました。

参考文献

[1]Case Rep Med 2010; 2010:841028.

[2]Canadian Medical Association Journal 1955; 73:701.

[3]不思議の国のアリス(Wikipedia)

2022年12月18日アクセス

[4]Pediatric neurology 2017; 77:5-11.

[5]Neurol Clin Pract 2016; 6:259-70.

[6]Pediatric neurology 1991; 7:464-6.

[7]Jama 2016; 315:1502-9.

[8]小児科臨床 68(12): 2547-2553, 2015.

[9]Childs Nerv Syst 2019; 35:1435-7.

[10]Brain Imaging Behav 2015; 9:910-2.

[11]Epilepsy 2(1): 71-74, 2008.

[12]Journal of Paediatrics and Child Health 2019; 55:1295-8.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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