初の猫カフェが北欧フィンランドで開店した背景とは、動物福祉の考えが厳しい国で
私が住んでいるノルウェーでは、「猫カフェ」というものがない。
ペットショップで猫や犬を狭いケージに入れて販売なんて、ありえないことだ。何事も規制が厳しい国なので、不思議ではないのだが。
ほかの北欧の国でも似たようなものなのかと思っていたのだが、フィンランドには猫カフェがあるらしい。スウェーデンやデンマークでも、厳しい条例のなかでオープンしているとのこと。
私は猫が大好きで、北欧各国を出張するときは、Airbnbでも猫がいるお宅を選んでいる。今回は以前から気になっていた、首都ヘルシンキにあるという猫カフェを訪問してみた。
猫カフェ「ヘルカッティ」(Kissakahvila Helkatti)の店の窓側には、白い大きな猫が寝ていた。店の英語名は「CAT CAFE HELKATTI」(住所:Fredrikinkatu 55)。
訪問者は5ユーロの入場料を払い、ランチやコーヒーを追加注文するかは自由。
学校の夏休みやクリスマスなどの休暇の時期になると、子どもを連れた家族も増え、店は混雑するそうだ。週末や休暇に訪れるなら、予約したほうがよいとのこと。
スタッフはみんな猫好きで、自宅でも猫を飼っている人ばかり。猫に話しかけながら、楽しそうに働いていた。
初の猫カフェをオープンした2人の女性
店長のトゥーリ・フヴォネン(Tuuli Hyvonen)さんと、CEOのティーナ・アールトネン(Tiina Aaltonen)さん。彼女たちがフィンランド初となった「猫カフェ」をオープンしたのは2014年。
第一号店は別の街タンペレに、二店目は首都で2015年、三店目は今年の春にクオピオという街で開いたばかり。
保護や新しい家が必要な猫を
各店には10匹前後の猫がいて、元捨て猫など、保護が必要とされていた子ばかり。外見重視の血統書付きの猫を集めることに、店側は興味はない。
猫と相性がよく、その人が適任と感じれば、お客に猫を譲ることもあるという。猫を欲しがっている人がいれば、まずは保護施設にいる猫たちを紹介している。
国で初となり、今でも数少ない猫カフェを運営する彼女たちに、「北欧といえば動物愛護の精神が高くて、猫カフェの経営は厳しそうだが、オープン時はどうだった?」と聞いてみた。
「猫カフェ?なんだそれは」
「猫カフェ」というものがそもそも存在していなかったので、「なんだ、それは」というメディアの興味津々の反応、「オープンはさせないぞ」という行政からの監視の目があったと、ふたりは笑いながら振り返る。
「私たちは、ラッキーだったの。ちょうど2011年に、『店長が動物同伴を許可するなら、店内に動物がいてもいい』という条例が出たばかりだったから」と話すアールトネンさん。
フィンランドでは、それまではコーヒーを買うために、飼い主が犬を連れて店内にちょっと立ち寄ることさえも許されていなかった。
懐疑的だった行政関係者
動物同伴の入店がOKとなってから、猫カフェがオープン。しかし、行政関係者はとても懐疑的で、店に否定的だったそうだ。
この話を聞いた時、ノルウェーに住んでいた感覚で、「行政関係者は動物のことを心配して否定的だったのかな」と私は思い込んでいた。
しかし、話を聞くと、フィンランドの行政関係者が気にしていたのは、「猫のこと」ではなく、「猫と一緒の環境で、食事をする人間」のことだったという。
猫が生活する環境で、人間の食事を調理する。この問題は、「猫はキッチンに立ち入り禁止」=「キッチンにドアをつける」という簡単な工事で、さらりと解決してしまったそうだ。
「猫が安全に、ストレスなく暮らしているか」。猫のことを考えた検査はほぼないということに、私は驚いた。ノルウェーでは飲食店や動物がいる施設での抜き打ち検査が多いからだ。
首都の店舗では、行政関係者が猫のトイレ環境などをチェックしにきたのは、過去に1回だけだという。
猫を鑑賞物のようにすることに反対する人もいたのかなと思いきや、そうでもなかったようだ。「猫カフェって、そもそも何?」と、ニュースもポジティブな好奇心にあふれていたそうだ。
店内を訪れているのは、現地の人々や、猫好きの観光客。インスタグラムやフェイスブックをたまに更新しているだけで、店の宣伝はせずとも人は集まってきた。
スマホよりも猫に夢中に
「会う猫を全て救いたいとさえ思っていた」と語る店長のフヴォネンさん。
「この店がほかのカフェと大きく違うのは、お客さんがスマホを見て下を向いていないこと。猫が気になって、今という時間を生きている人ばかり」。
確かに、スマホよりも猫が気になる環境だ。スマホは猫を撮影するための道具でしかない。
猫と話す方法
店のメニューには、「猫と話す方法」というルールが書かれていた。
ここでは猫をなでるのは自由だが、抱っこはお断りしている。「あなたが猫だったら、どう思うか考えてみて。巨人があなたを急に抱っこしてきたら?」と。
「猫が寝ていたら、起こさないで」などの小さなお願いは、行政などに指導されたものではなく、店側が自主的に作成したもの。自治体からは、猫の生活環境に関する特別な指導はなかったそうだ。
猫のオーナー2人に、今後の大きな目標を聞いてみると、「北極圏のラップランドでも、いつか店をオープンしたい」とのこと。
「猫が大好きな私たちには、夢の職業」と、フヴォネンさんは微笑んだ。
ノルウェーにはなぜ猫カフェがない?
さて、私の住むノルウェーでは、「なぜ猫カフェがないのか」は、在住の日本人同士でたまに話題に上がることだ。
「そもそも、ノルウェーでは猫カフェの運営は不可能なのか。可能だが、誰もまだ挑戦していないだけなのか」
食品衛生・動物保護を管理するノルウェー政府機関Mattilsynetに問い合わせた。
「食品が安全に保たれていれば、飲食店での猫を禁止する条例はありません。食品が取り扱われる場所へ猫の出入りがなければ、という意味です」と同局の衛生担当者シッセル・ヴァクスヴィク氏は答えた。
どうやら、フィンランドのように、キッチンへ猫が入らなければ可能なようだ。
ノルウェーで初の猫カフェは、いつ誕生するだろう?