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安倍首相がシリア難民「留学生」で150人受け入れ 賛成それとも反対ですか

木村正人在英国際ジャーナリスト
ギリシャ最北端にあるイドメニ難民キャンプ(今年3月、筆者撮影)

日本のシリア難民受け入れは3人

安倍晋三首相は、内戦が続くシリア難民の中から留学生として来年以降5年間で最大150人を受け入れることを決め、20日に正式表明します。国際協力機構(JICA)の技術協力制度や文部科学省の国費外国人留学生制度を利用します。

26、27日に開かれる主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で難民対策が議論されるため、シリア難民を3人しか認定していない日本政府(人道的な配慮から一時的な在留を認められているのは38人)も他の枠組みを利用してシリア難民を受け入れる意思を示すのが狙いです。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、シリア難民の数は484万4111人です。

法務省によると、日本の難民認定申請者数は昨年、7586人で過去最多、うち3898人が処理され、難民認定者数は27人。人道上の配慮から在留を認めた者は79人でした。計106人がわが国での在留が認められました。処理件数に対する在留認定の割合は2.7%です。

昨年から難民危機に直面している欧州のG7諸国の在留認定率は以下の通りです。(昨年第4四半期、Eurostatより)

ドイツ72%

フランス28%

イタリア36%

英国37%

日本2.7%

欧州連合(EU)平均の認定率は59%で、最も低いポーランドの13%に比べても日本は低く、サミットでホスト役を務める安倍首相はシリア難民の受け入れに積極的なところを見せる必要に迫られていました。

一気に大量の難民を受け入れると文化や社会の摩擦が起きる恐れがまったくないとは言えません。がしかし、受け入れは人間としての義務であり、突然、難民という立場に置かれた人々の可能性に火を灯し、自分たちの社会の柔軟性、多様性を広げることでもあると思います。

「こそ泥」少年だったノーベル賞受賞者

カペッキ教授、ノーベル賞HPより
カペッキ教授、ノーベル賞HPより

一般相対性理論を発表したアルベルト・アインシュタインはユダヤ人で、ナチスの迫害から逃れて米国に渡った難民です。2007年に遺伝子レベルの疾患研究に欠かせない「ノックアウトマウス」の開発でノーベル医学・生理学賞を共同受賞者したマリオ・カペッキ米ユタ大学特別主幹教授もナチスの迫害を受け苦難の幼少期を送りました。

イタリア生まれのカペッキ教授は5歳の時、農家に預けられ、父親は戦死し、反ファシスト詩人の母親はドイツの収容所に送られます。孤児になったカペッキ少年は「こそ泥」をして飢えをしのぎます。終戦で米軍に救出され、生き別れになった母親と再会、2人は物理学の大学教授だった叔父を頼って渡米します。

産経新聞のロンドン特派員時代、カペッキ教授に電子メールを送り、日本の子供たちにメッセージをいただいたことがあります。カペッキ教授はこんなメッセージを送ってくれました。

「あのころは食べ物と雨露をしのぐ場所を求め、その日を生き延びるのに必死だった。夢はただ生きることでした」「すべての子供にとって母親はあなたを守ってくれる唯一の存在です」

「米国の叔父と叔母の所に身を寄せてからは勉学にいそしむのは困難ではなくなりました」「すべての子供に共通することなどなく、一人ひとりが自分自身の特別な興味と夢を見つけなければなりません」

「夢はただ生きること」

昨年と今年、約1カ月近くトルコやギリシャ、セルビア、ハンガリーを取材して、多くの難民の方々と出会いました。カペッキ教授と同じように彼らも「夢はただ生きること」と語りました。そして、崩壊した自分たちの国や故郷をいずれ再建したいという志を胸に異国で勉学に勤しむ若者も少なくありません。

ギリシャ最北端にあるイドメニ難民キャンプでパキスタン男性の脱出劇を簡易テントの中で聞いていた時です。「私の体験は何も特別なことではないのです。このキャンプにいる1人ひとりにそれぞれのストーリーがあるのですよ」と話しました。

「死にたくない」「安全な所で暮らしたい」「家族と新しい生活を切り開きたい」「いつか祖国を再建したい」。彼らの言葉は明日への希望に満ちていました。しかし、そのまま放置すると希望は絶望に変わります。そうならないように、しばらく助けがいるだけなのです。

難民を「難民」として受け入れよ

認定NPO法人「難民支援協会」は、今回の留学生受け入れについて「難民を『難民』として受け入れるという方針が今回示されなかったのは残念です。しかし、日本が、アジアでマレーシアに次いで2カ国目にシリア難民の継続的な受け入れを表明し、この人道危機に対する『責任の分担』への新たな一歩を踏み出そうとしていることを歓迎します」と発表しています。

出所:法務省データより筆者作成
出所:法務省データより筆者作成

日本は1978年からインドネシア難民を、2010年からミャンマー難民を「定住難民」(オレンジ色)として受け入れていますが、難民認定者(灰色)は13年に6人に留まるなど、本当に限定的にしか受け入れていません。これに対して難民申請者の数はどんどん増えています。

日本は難民政策を大転換しないといずれ破綻するのは目に見えています。国連の潘基文事務総長によると、グローバル移民2億2450万人、難民1950万人の時代を迎えています。難民問題に取り組むことは、民族が大移動する「大グローバル時代」への対応力を身につけることでもあるのです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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