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テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』絶好調の要因をプロデューサーが語った

篠田博之月刊『創』編集長
好調!テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』(テレ朝提供)

 『フラッシュ』2月25日号が、テレビ朝日『羽鳥慎一モーニングショー』の視聴率トップ祝賀を兼ねた新年会の話を報じていた。

 朝8時からの情報番組『羽鳥慎一モーニングショー』が好調だ。日本テレビの『スッキリ』もこのところ視聴率を伸ばし、僅差でフジテレビの『とくダネ!』を抜いたと言われるが、その両者に『モーニングショー』は水を開ける形で3年連続同時間帯トップを走っている。

 何が番組好調をもたらしているのか。月刊『創』1月号特集「テレビ局の徹底研究」から、同番組プロデューサーの話を紹介しよう。また危機感を抱いたフジテレビ『とくダネ!』が昨年秋改編で番組をリニューアルして追撃策を講じているのだが、こちらもプロデューサーに聞いた話を紹介しよう。

メインキャスターが自分でパネルをはがす 

 『モーニングショー』の視聴率は2018年が平均9・1%だったが2019年は約9・4%。2位の『スッキリ』が6%台と言われるから明らかに水があいている。ちなみに昨年の目標は8・5%だったから、目標をクリアしながら伸びているわけだ。

 スタジオの大きなボードにたくさんのパネルが貼られ、メインキャスターの羽鳥さんが解説しながらそれをめくっていく。その手法が好評を博しているらしい。

「他の番組だと、パネルをはがしていくのはメインキャスターとは別の人なんです。パネルをはがして解説する人にキャスターが質問をして突っ込むというパターンが多いんですが、『モーニングショー』は羽鳥さんが自分でパネルをはがすんですね。だから羽鳥さんは自分でも相当勉強しないといけないし、準備が本当に大変なんです」

 そう語るのは情報番組センターの小寺敦『羽鳥慎一モーニングショー』チーフプロデューサーだ。そもそも今のそのスタイルを考え出したのは小寺さんらしい。

 「私は朝の情報番組を二度立ち上げているんです。もともとこの時間帯は『モーニングバード!』という名称で2011年4月に始まり、2015年9月28日に『モーニングショー』に変わるのです。それまでは赤江珠緒さんと2人でメインキャスターをしていたのですが、その時から羽鳥さんが前面に出ることになった。以前のVTR中心でリポートする形を改め、スタジオで討論し考えるというスタイルにしたのです。その時、羽鳥さんがパネルを使って説明するというのが良いんじゃないか、となって今のスタイルに変えたのです。当勉強しないといけないし、準備が本当に大変なんです」

 でもその前に、その前の早朝の『グッド!モーニング』をチーフプロデューサーとして立ち上げました。この番組は2013年にスタートするのですが、私は『報道ステーション』からその前身である『やじうまテレビ』に異動し、それを『グッド!モーニング』に変えたのです」

『グッド!モーニング』と視聴者の生理が違う 

 小寺敦『羽鳥慎一モーニングショー』チーフプロデューサーの話を続けよう。

「『グッド!モーニング』と『モーニングショー』は、実は視聴者の生理が違います。『グッド!モーニング』は出勤前のサラリーマンが多いので、細かいニュースが見たいんですね。1本のニュースを短い時間で数多く取り上げていくんです。

 それに対して『モーニングショー』は、夫を送りだした後に妻が見ているとかなので、もう少しニュースを深掘りして見たいという時間なんですね。パネルをめくりながら羽鳥さんを中心に問題を掘り下げていくのですが、玉川徹のようにそれを無視して先に行ってしまう出演者もいます(笑)。

 今は羽鳥さんとゲスト出演者がスタジオで丁々発止渡りあうという番組にしたので、ネタの選び方も変わってきました。昔はいうなれば発生主義で、何か事件が発生したらそれを追いかけるというやり方でしたが、今はむしろ身近にあるけれど議論を呼ぶような、そういうネタをあげようということになっています」

 その議論の中で、敢えて異論を提示したり、そもそも論を提起するというのが、玉川さんが心がけている役割のようなのだが、それゆえにネットで物議をかもすことも多い。そもそもテレビ朝日の社員であり、『モーニングショー』にはスタッフとして出ているのだが、他の番組にはない独特のポジションを占めていると言えるかもしれない。

「玉川は元々、『スーパーモーニング』の頃から、『ちょっと待った総研』という独自のコーナーを持っていたのですが、今も『そもそも総研』というコーナーを毎週木曜日にやっています。

 このコーナーは、私たちも内容は確認しますが、基本的に玉川の興味あるものを取り上げます。玉川はスタッフだけれど毎日出る出演者だし、スタジオでのコメントも時には打ち合わせしていたのと違う話になってしまうこともあります。このところ発言がネットで話題になることも多いので、かなり独特の立ち位置ですね」(小寺プロデューサー)

 羽鳥さんがスタッフルームに入るのは朝5時半。5時50分からパネルの打ち合わせが始まり、1時間半くらいかかるという。

「パネルの打ち合わせは念入りにやります。羽鳥さんは『毎日受験勉強しているような感じだ』と言ってます」(同)

 朝の情報番組の視聴率が高いことは、全日の視聴率を底上げすることにもなっており、『グッド!モーニング』もこのところ好調というから、タテの流れも良くなっている。テレビ朝日の好調を支えているのは、夜のドラマのヒットだけでなく、朝の情報番組、それに夜の帯のニュース番組『報道ステーション』が好調であることに支えられているのだろう。

『報道ステーション』も視聴率をあげている 

 2019年10月改編でテレビ朝日が取り組んだのは金曜夜のゴールデンタイム改革だった。19時台の『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』の人気アニメが土曜夕方へ移行し、21時台だった『ザワつく!金曜日』を19時に移行、水曜23時台だった『マツコ&有吉 かりそめ天国』を20時に移行、20時台だった『ミュージックステーション』は21時台になった。その改編の意図を総合編成局の榊原誠志総合編成部長に話を聞いた。

「改編の狙いは、金曜夜のタテの流れをよくすることでした。ファミリーターゲットから若年層へと時間帯に合わせて広がる視聴者層に支持されるよう番組改編しました。その結果、『ザワつく!金曜日』は10月クール平均13・4%と良いスタートをきることができました」

 その後9時54分から始まる平日のニュース番組『報道ステーション』もこのところ視聴率が上がっているという。この10月期の平均視聴率は11・8%(11月15日時点)というが、前年同クールが10・4%だったというから1年で1ポイント上昇したことになる。周知のように『報道ステーション』は一昨年秋に大幅リニューアルを行った。メインニュースを伝え終えた番組の中盤にパネルを使ってそのほかのニュースを短くわかりやすく伝えるコーナーを設けたのだった。視聴率だけ見ると、そうしたリニューアルが功を奏したのかもしれない。

フジテレビ『とくダネ!』テコ入れで強化を図る 

さて2019年7月から朝の情報番組をめぐってフジテレビはてこ入れを行った。早朝5時台から始まる『めざましテレビ』を好調に導いた渡邊貴チーフプロデューサーを8時台の『とくダネ!』に異動させ、10月に同番組を大幅リニューアルしたのだ。

 それまで小倉智昭キャスター、伊藤利尋アナ、山崎夕貴アナの3MCと古市憲寿さんらコメンテイターという位置づけだったが、古市さんや新たに番組に加わったカズレーザーさんらを曜日ごとのスぺシャルキャスターと位置付け、自分のコーナーを持つようにして、そのほかのコメンテイターと区別するようにした。

 朝の情報番組は、5時台から8時までは『めざましテレビ』が好調で同時間帯首位を走っているのだが、8時を過ぎるとテレビ朝日の『モーニングショー』が首位を独走、そして日本テレビの『スッキリ』が昨年以降好調で、フジテレビの『とくダネ!』は3位になっている。まだ僅差なので、ここで何とか挽回したいということのようだ。

 情報番組を統括しているニュース総局情報制作局情報制作センターの濱潤室長に話を聞いた。

「『めざましテレビ』はこの1年半以上、同時間帯で17カ月連続首位を保っています。好調の要因は、ニュースに重きを置いて、情報量を増やしたことだと思います。

 元々はエンタメや企画コーナーに特色があったのですが、その個性を活かしつつ、ニュースを増やしていきました。事件・事故、災害などはもちろんですが、そのほかに独自の発掘ニュースとして、例えばネットで話題になっている動画に着目し、当事者に取材するといったことをやっています。

 ネットも社会を構成しているひとつで、そこで話題になっていることもニュースだという考え方です。今『めざましテレビ』2部の平均視聴率は10%近くになっています。

 渡邊プロデューサーは『とくダネ!』に移りましたが、両番組を統括するという立場も兼ねています。何をやっているかというと、ひとつはタテの流れを意識することで、例えば番組冒頭で『めざましテレビ』と同じニュースはやらない、あるいはこれまで9時半頃のお天気コーナーの後はクイズコーナーだったのを、そこも最新のニュースを扱って番組最後まで情報を積むようにしたことなどです。

『とくダネ!』は番組開始時に、情報番組にひとつの革命を起こしました。それまでワイドショーと言われていたスタイルから、政治・経済を含めたニュースを取り上げる番組にしたのですね。今やっているのは、その原点である『ニュースを大切にする姿勢』に立ち戻ろうということです」

 報道番組のブランドを「ライブ」に変えたように、フジテレビは生番組を強化していこうという意向があるようだ。バラエティ『バイキング』から、情報番組『直撃LIVEグッディ!』への午後の生番組も流れが良くなって視聴率を上げている。『グッディ!』は「大ネタ主義」を方針として一つのニュースを長く扱うスタイルで、大きなニュースがあると首位の『ミヤネ屋』を抜くこともあるという。

 情報制作局には他にも、日曜14時台の『ザ・ノンフィクション』や22時台の『Mr.サンデー』もある。『Mr.サンデー』はいまや長寿番組といえる情報番組だが、このところ視聴率が2桁を超える回も多く安定している。

 フジテレビの場合、夕方のニュースや週末のゴールデンなど強化すべき時間帯があるが、朝と午後の情報番組が比較的好調であることや象徴的番組「月9」が上向いていることなど明るい要因もある。新社長のもとフジテレビの踏ん張りどころはこれからだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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