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世界でのメダル獲得へ 萩野公介の決断

田坂友暁スポーツライター・エディター

3年前のロンドン五輪、高校生でマイケル・フェルプスを破って銅メダルを獲得して以降、急成長を続けてきた。2013年のスペイン・バルセロナ世界水泳選手権での多種目メダル獲得、2014年のアジア大会MVP獲得。一歩ずつ階段を上り、そしてリオデジャネイロ五輪を翌年に控えた2015年、萩野公介(東洋大学)はいよいよ世界での金メダル穫りに乗り出した。

4月7日から6日間の日程で行われる、第91回日本選手権水泳競技大会。2013年、2014年と萩野は6種目に出場してきたが、今年は200m、400mの自由形と個人メドレーの4種目。あきらかに世界での『金メダル』を意識した選択である。

背泳ぎを削り、個人メドレーの記録を削る

出場していないのは、100m、200mの背泳ぎ2種目。2013年、2014年ともに、国際大会においてこの種目で入賞を果たしており、トレーニング次第ではロシア・カザン世界水泳選手権でもメダル獲得のチャンスは十分にある。しかし、萩野は背泳ぎに出場しない選択をした。

萩野が2013年以降、国際大会に出場した種目のうち、世界と名のつく大会でメダルを獲得していないのは、この背泳ぎのみ。五輪を控えた大切な今シーズン、良い色のメダル獲得を目標とするなら、優先順位から言っても背泳ぎを削るのは妥当と言える。

だが、背泳ぎに出場しない本当の理由は別にあるとも考えられる。

萩野を指導する平井伯昌コーチが、以前こんなことを話していた。

「個人種目としての背泳ぎが良いときは、個人メドレーでの背泳ぎがうまくいかない。逆に個人メドレーでの背泳ぎがうまく泳げているときには、個人種目の背泳ぎが悪いときがある」

個人メドレーは、4種目をつなげて泳ぐ種目であり、最初のバタフライと最後の自由形の間に挟まっている背泳ぎと平泳ぎは“つなぎ”の意味合いが強い。特に400m個人メドレーの場合、ハイペースを持続させながらもいかに体力を残し、最後の自由形につなげられるかどうかがポイントになる。

そのため、個人メドレーにおける背泳ぎと平泳ぎは、スピードを出すことよりも、少ないエネルギーで泳ぎのリズムを崩さないことのほうが大切。

この“つなぎ”としての背泳ぎのリズムと、個人種目として泳ぐ背泳ぎのリズムに、萩野と平井コーチは微妙なズレが生じていたことを感じていたのではないだろうか。そして、このズレが個人メドレーに与える影響が少なくない、とも。

競泳選手にとって、泳ぎのリズムは非常に重要だ。よく平泳ぎは繊細な泳ぎで、小さなズレが大きくタイムを左右してしまうと言われる。本当は、平泳ぎに限らず、自由形、バタフライ、背泳ぎすべてにおいて言えることであり、ただ平泳ぎがほかの種目に比べてリズムが崩れたときの泳ぎの変化が顕著なだけである。

「カザン世界水泳選手権では、良い記録を出したいと思っていますけど、今シーズンは、勝つ、ということが非常に重要になってくると思いますから、(世界水泳選手権では)勝ちたいですね」

2014年の12月、カタール・ドーハ世界短水路選手権後にこう話しており、萩野は2015年の大きな目標に『勝利』を掲げている。

例年、五輪を翌年に控えたシーズンは世界のレベルが跳ね上がる。2013年に瀬戸大也(JSS毛呂山)が400m個人メドレーで優勝したタイムは4分08秒69だったが、カザン世界水泳選手権の優勝タイムは、マイケル・フェルプス(アメリカ)が持つ大会記録、4分06秒22付近の争いになるだろう。

萩野の自己ベストは、2013年の4分07秒61。2014年アジア大会でも4分07秒75で泳いでいるが、目標とする金メダル獲得を確実なものにするには、あと1〜2秒削る必要がある。そのための方法のひとつとして選んだのが、個人種目の背泳ぎ欠場だった。

翌年のリオデジャネイロ五輪を見据えたとき、五輪出場内定を手にできる今年のカザン世界水泳選手権で『金メダル』を獲得する意味は、果てしなく大きい。複数種目で「メダルを獲得」するよりも、「金メダルを獲得」するための道を選ぶのは、至極当然である。

背泳ぎを捨てて、『世界での金メダル獲得』に対して本気になった萩野と平井コーチが下した決断の結果は、日本選手権最終日、4月12日(日)に明らかになる。

スポーツライター・エディター

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かして、水泳を中心に健康や栄養などの身体をテーマに、幅広く取材・執筆を行っている。

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