北、自ら認めた「2021年最悪論」 韓国専門家も同じ見解 「90年代以降最大の経済危機」
23日朝、「NHK」が北朝鮮の「労働新聞」を引用し以下のようなニュースを報じた。
同紙が、今年1年を「建国(1948年9月)以来、最悪の試練」と認め、記したのだ。
これまでは、深刻な経済難から餓死者が多出した1997年ごろが最悪、という見方もあった。この時期は北朝鮮でも「苦難の行軍」と呼ばれているほどだ。
2021年はそれを上回るのだという。
確かに22日の紙面の”トップ記事”である
「主体革命の偉業は永遠に勝利の勢いのまま続く 敬愛する金正恩同志の領導に従い歴史を固く前進してきた聖なる10年の革命旅程に対し 謹んでこの文章を捧げる」
には、2度「最悪」という言葉が出てくる。
「10年の旅程の最後の年である2021年、この年は試練において建国以来最悪であり、人民のための献身においては10年の絶頂だといえる」
これまでで一番苦しい時期だからこそ「皆がお互いのために頑張るべき時」という内容だ。
もうひとつは文末に近いところで出てくる。
「試練は史上最悪(といえるほど)に重なったが、敬愛なる総秘書同志に対する信頼はより勢いを増し、人民の真心は朝鮮人民の忠実性の歴史において、我々の一心団結の歴史において輝けるページを刻んでいる」
こちらは「苦しいからこそ国家のリーダーを信じ頑張ろう」という内容。
記事では、具体的になぜ最悪なのか、という点への言及はなかった。
- 2年前には労働新聞が「例のない試練」と報じたことはあったが「最悪」は初めてだという。これを伝える「聯合ニュース」
韓国専門家の視点「注目すべきデータ」
折しも労働新聞がこの記事を掲載した22日、韓国メディアでも「北の2021年最悪論」が論じられていた。
「聯合ニュース」が「北韓、1990年代以降最大の経済危機…国際制裁にコロナが重なり」という記事を配信。韓国の北朝鮮専門家たちの見方を伝えた。
チョン・スンホ仁川大学東北アジア国際通商学部教授が22日に参加した「経済学者の視点でみる北朝鮮経済の現実と評価」というフォーラム(韓国経済学会主催)で、こういった発言を行った。
「(北朝鮮の2021年の年間)貿易額は、輸出入ともに過去最低額」
「特に鉱業と重化学工業生産は10年前の70%にまで下落している」
その背景は、こうだという。
「特に国連の経済制裁が2017年から強化されたなか、昨年からの新型コロナによる国境封鎖の影響も重なったためだという分析による」
制裁とコロナ。日本でも一般的に想像できるものではある。
これらによる経済難を克服するために、チョン教授は「対外関係を改善し、外部資本を入れることしかない」という。現状の核と経済の並行路線、自給自足に向かう方向性を「退行的」と指摘した。
いっぽう、このフォーラムで発表した韓国開発研究院北朝鮮経済研究室キム・ギュチョル副研究委員は、より細かく「史上最悪」といえる理由について報じた。
食糧問題だ。
「対北食糧支援が必要ないと主張する向きがある。北朝鮮の食糧価格が安定的だという点を根拠にしているが、これは間違った結論になりうる」
この事情を分析するにあたり、あるデータに注目すべきであるとする。
「北朝鮮は強力なコロナ防疫体制により最近は食糧の地域間の価格の差が大きくなっている。これにより食糧が尽きた世帯が増えるなど、食糧難が深刻化している」
「2010年前半以降、北朝鮮の穀物供給量に大きな変動はなかったが、コロナ時代に入り生産量が下落していると同時に輸入もほぼ中断している」
「これに加え、穀物の価格が激しく揺れ動いており、価格統制政策が実行されている事例が徐々に増えている」
キム副研究委員は「2014年から2019年までの北朝鮮でのコメの価格は安定していた」とし、北朝鮮の現状分析にはこの点がもっと必要だと強調した。
「穀物の市場価格が北朝鮮の食糧事情を表す指標であることの理解が、もっと進んでいく必要がある」
90年代よりも、いまが最も苦しい状態。昨今の北朝鮮関連ニュースを読み解くにあたり、視点のひとつとなるか。