iPad miniは「つまらない」のか?
iPad miniが登場して、ひとしきり興奮の中で、「面白みがない」「驚きがない」「かつてのAppleはどうしたのか?」といった意見も聞かれます。しかしこれらの意見は、iPad miniに対する正当な評価ではありません。
iPad miniで最も注目すべきと私が考えていた点は、「価格」と「デザイン」です。しかし、ネットでiPad miniについて、「イマイチ」と指摘している人にとっては、特にデザインへの驚きの少なさがネガティブに映っているようです。性能は高速な動作とバッテリライフが十分であれば問題ないと私は考えていますが、性能に対してもiPod touchと同じ、あるいはiPad 2と同じじゃないか、という指摘があります。
これらの評価をしているのは、Appleの製品をいち早く買ってきた、筆者も含むガジェットが好きな人たちです。しかし、彼らにネガティブに映ると言うことは、Appleにとって、最先端の性能とデザインを求める人々がターゲットではない製品だ、と見ることができます。
iPad miniは、これまでiPadを使っていなかったユーザー、初めてタブレットを購入するユーザーがターゲット。だとすれば、常に持ち歩けるコンパクトさと軽さ、バッテリライフがあり、ウェブの閲覧が十分に快適で、既に275000本のアプリが使える状態になっていて、かつこれまでよりも価格が安いという条件で紹介することが重要であり、iPad miniを手にしたユーザーは十分にタブレット体験を得ることができると考えられます。
iPod touchやiPad 2と中身が同じという指摘は、実は非常に鋭いポイントです。その指摘の多くはネガティブですが、「タブレットを一般の人に紹介する」という点ではポジティブに受け止めることができます。Appleはスマートフォン市場でも群を抜いて高い利益率を誇る企業として知られていますが、パーツのコストを安く調達できる理由は、輝かしいiPhoneの販売台数の影に隠れているiPod touchの存在を忘れてはなりません。
例えば、最新のiPhone 5には4インチの新しいRetinaディスプレイが搭載されていますが、これはiPod touchにもすぐに搭載されて発売となりました。これによって、時には生産が追いつかない場面も見られるかも知れませんが、結果として、iPhone 5もiPod touchも、価格の大幅な上昇を抑えることにつながっています。
iPad miniに話を戻しますが、iPad miniにはA5チップが使われており、これはiPod touch、iPad 2と同じものと見られています。また、500万画素のiSightカメラ、内側のFaceTimeカメラなども同じスペックのものを利用しており、共通の部品と見ることができるでしょう。
これについては、発売後、Apple製品を分解して修理のしやすさなどを検証するiFixitによって詳しい情報が明らかになるはずです。
Jobs亡き後、だからこそ怖い?
また、Steve Jobs氏がなくなってから1年が過ぎ、今回も発表の壇上に立ったTim Cook氏がCEOとして率いる体制に変わりましたが、Jobs氏が自慢げに新製品を「今日から買える」と発表できていたのは、緻密なサプライチェーンのマネジメントを汲み上げてきた、紛れもないTim Cook氏の功績に支えられているのです。
今回のプレゼンテーションは、Jobs氏のエモーショナルなアピールではありませんでしたが、ゆったりとした、しかし思いがつまった静かな炎を燃やすような語り口のCook氏が印象的でした。Jobs氏は7インチのタブレットを批判していましたが、正にその批判の矛先にあった製品をApple自らが登場させるという出来事が起きました。
これまでも、そうした話は幾度となくありましたが、ジョブズ氏の亡き今、Cook氏が冷静に競合の追随を許さない舵取りをするとすれば、他社からはより恐れられる存在になるのかも知れません。