「風呂に父親が入ってくるのが、すごくつらい…」困窮する女性の支援 何が足りないのか
緊急事態宣言で予約件数が3倍以上 支援現場のいま
「10~20代の女性の予約は、緊急事態宣言が出てから3倍以上に増えています。LINEの相談の件数もどんどん増えていて、本当に、追い詰められている人が増えてきていると強く感じます。」
JR秋葉原駅から徒歩10分ほど。千代田区外神田にある「まちなか保健室」。生活や心に悩みを抱える10~20代の女性が「気楽に相談できる場所」を提供しています。
スタッフのひとり、看護師の谷口知加さんのもとには、1月に緊急事態宣言が出てから、深刻な悩みを抱える少女からの訴えが相次いで寄せられるようになりました。
(谷口さん)『お風呂に入っていると、父親が入ってくる。それがすごく辛い…』という女性がいらっしゃったときのことが、心に残っています。家を出たいけれど、自分の力で生活することは出来ない。いまは我慢するしかないのかなとおっしゃっていました。
緊急事態宣言で、家がすごく辛い場所なのに、そこに居続けることしかできない。息抜きできる場所がないんです。こういう、もともとつらい事情を抱える人たちが、緊急事態宣言の影響を一番受けていると感じます。
まちなか保健室 スタッフ谷口さんインタビュー 筆者撮影
まちなか保健室は、少女や若い女性を支援する団体「若草プロジェクト」により去年7月にオープンしました。中はカフェのようになっており、お茶や軽食などが無料で提供されます。
日曜・水曜日以外は祝日も14時~18時までスタッフが常駐しており、冒頭の例のように虐待が疑われるなど深刻なケースは、弁護士による介入や、専門の相談員と連携した対応を行っています。
感染対策のため、利用は予約制になっていますが、カウンセリングや、女性医師によるからだの相談など様々なプログラムを実施しています。
安心できる環境でゆったり過ごすことだけを目的に来ている女性もいます。
緊急事態宣言を受けて大学の講義が全てオンラインになったり、予備校の自習室が閉鎖されたりして、家の「外」で自然と息抜きができる場所が奪われた人が少なくありません。
もともと若い世代の女性は、宿泊業や飲食店などで非正規で働いているケースが多く、アルバイトのシフトが減ったりして経済的な打撃を受け、不安感や孤立感を高めているケースもあります。
谷口さんは、週に1回、希望する女性にアロママッサージを無料で施術しています。看護師として働きながら学んだマッサージは大人気で、1日5名の枠が、すぐに埋まってしまうのだそうです。
「(谷口さん)少しでもいいから、やさしく触ってほしいって言います。児童養護施設を出てから1人暮らし、みたいな子はやっぱり孤独みたいで。少しでも手を撫でてあげたり、タッチセラピーみたいな形で関わることも多いです。コロナだけど(笑)そこらへんは、感染症対策を徹底して、やっています。」
深刻化する「若い女性」をとりまく現状
1月22日、警察庁と厚生労働省は、2020年の自殺者数は前の年と比べて750人増え、20,919人(速報値)だったと発表しました。これまで年間の自殺者数は減り続けていたのですが、リーマンショック後の09年以来11年ぶりに増加に転じました。
性別ごとに見ると、男性は去年から135人減っている一方で、女性は885人増えています。
年代別に見ると、去年と比べて最も増えていたのは20代(17%)増でした。また19歳以下の未成年も、去年と比べ14%増えていました。小中高生の自殺者は68人増の440人で、同様の統計のある1980年以降で最多でした※。
上記のデータからは、新型コロナの感染が拡大した2020年、10~20代の若い女性の自殺者が増えていることが推察されます。
もちろん自死は、様々な要因によって起きるもので、「○○が××の影響だ」と軽々にいうことは出来ません。しかし少なくともその一因に、長引く新型コロナの影響があること。それが、ただでさえ弱い立場にある人を直撃していることは想像に難くありません。
※年代別データは2020年11月時点
悩みを口に出せない女性 大事なのは「直接」声を届けること
「(谷口さん)今日は少ないですね。やっぱり緊急事態宣言の影響かな。。。ふだんはこの道に、ずらっと立っているんですけれどね。お客さんも少ないですしね」
気温2度近くまで冷え込んだ1月29日(金)の夜。緊急事態宣言のさなか、谷口さんたち「まちなか保健室」のスタッフは、秋葉原の駅前通りに向かいました。街を歩く女性や、お客の呼び込みのため街頭に立つメイド姿の女性などに声をかけていきます。
「寒いでしょう?良かったらこれどうぞ」
かじかんだ手をこすり合わせながら呼び込みをする女性たちに、使い捨てカイロやひとくちチョコの詰め合わせを渡します。中には、まちかど保健室の場所や活動内容を書いたビラをさりげなく忍ばせています。
急に声をかけられ、けげんそうに断る女性も多い一方、何人かにひとりは、照れくさそうに笑顔で受け取ってくれます。
こうした女性の中には、いま生活や心の悩みを抱えていても、打ち明ける相手がいなかったり、ガマンして他人に助けを求められなかったりするケースが少なくないのだそうです。
そこでまちなか保健室では、ネット広告やSNSに頼るのではなく、直接、声をかけて顔を見て話す機会をもつことを大事にしています。
スタッフも寒さに震えながらの活動ですが、渡したビラをちらっとでも見たことがきっかけになって、もし急に仕事を失ってしまったり、心に悩みを抱えたりしたときに、保健室にきてみようかなと思ってほしい。そう願って、地道な声掛けを続けています。
「(谷口さん)緊急事態宣言の影響ですかね。今日は女の子もいつもより少ない気がします。でも、いまけっこう厳しい状況にある子のなかには話をしてくれて、こういうのがあるって友達にも広めてみるって言ってくれた子もいました。ちょっとでも気軽にね、顔を出してもらえると嬉しいですね。」
公的な支援からこぼれ落ちる人のところへ 安心できる場を作る
もともと、児童への虐待や孤独などへのケアは、公的な社会福祉が不十分と指摘されています。もちろん支援制度はありますが、例えば虐待の場合、0~2歳の小さい頃に起きると「命を救えるか」否かの勝負になるので、どうしてもその年代の対策に行政の力は集中せざるをえません。
逆に言えば、そこを生き延びて成長し、ストレスを感じながらも何とか暮らせている人へは、公的な支援の手が届きにくくなります。
まちなか保健室のスタッフは、そうした状況にあっても頑張って耐えている人や、虐待とはいえるかどうか微妙な環境にいる人に目を向け、気軽に相談できる場を作ろうとしています。
現場を取材して、こうした民間の活動が拡がっていくことが、コロナ収束の見通しがわからないなかで、とても重要になると感じました。
一方でいま、こうした草の根の活動を行っているNPOなど民間団体の多くが、資金面でのひっ迫を訴えています。
コロナによる社会不安により求められる活動の量が多くなる一方で、寄付などの支援が集まりにくい状況が起きています。支援をする人への支援が足りていない現状がある、といえるのかもしれません。
こうした資金難を訴える団体に向けて、寄付を集め支援を届けようとする取り組みも始まっています。もし記事を読んで、「支援をする人への支援」にご興味を持たれた方がいらしたら、次のページを見てみてください。
※筆者は、この基金を募集しているREADYFOR(株)の社員として運営に主体的に関わっています。
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