じつは解明されている「あなたがダメ男にハマる理由」と対処法【恋愛×おちこぼれの哲学】
彼との交際中に彼がダメ男とわかったとなれば、たいていの女性は即座にその彼と別れるでしょう。そして、次こそは騙されないよう慎重に彼氏を選ぶでしょう。しかし、次の彼氏もまたダメ男だった……。
こういった負の連鎖、すなわち、なぜか心と身体がダメな方を何回も選択してしまう現象――これを精神分析の権威であるジャック・ラカンは反復強迫と名づけました。
繰り返される不幸に悩む人たち
ラカンは、おちこぼれの哲学の創始者であるキルケゴールの哲学をヒントに、反復という言葉を用いたと言われています。キルケゴールが生きていた時代にはまだ科学の心理学が発達していなかったので、キルケゴールはどうあがいてもおちこぼれる方をなぜか選択してしまう自分の心と身体のあり方に悩み続けました。
キルケゴールがこの世を去った翌年に生まれたフロイトはそのことを、端的に「死への欲動」と表しました。なぜかわからないけどダメになる方を選んでしまう現象を彼は、第一次世界大戦の帰還兵に見たのでした。
つまり、私の知る限り、200年ほど前からすでに、わが身の不幸の連鎖に悩む人がおり、それを研究する人もいたのです。その研究の成果は、科学の心理学が科学であるゆえに言及できない「こころの不思議」を解き明かすものとして、現代にも受け継がれています。
さて、ダメ男に話を戻しましょう。
性格は隔世遺伝
頭ではダメ男とつきあうべきではないとわかっているにもかかわらず、心と身体がなぜかダメ男を選んでしまう。その彼と別れたのち、友だちにいい男性を紹介してもらったにもかかわらず、その彼ではないダメな方の男性と、あろうことか復縁してしまう。たとえばこういった現象を、先に述べたとおり、ラカンは反復強迫と呼びましたが、より具体的には、世代を超えて繰り返される反復強迫と、世代を超えない反復強迫があります。
世代を超えて繰り返される反復強迫とは、簡単に言えば、性格は隔世遺伝だということです。もちろん、性格は生物学ではないので遺伝という言葉では表しませんが、わかりやすく言うなら隔世遺伝。つまり、祖父母の性格が私たちに引き継がれているということです。
したがって、ダメ男と別れてもまたダメ男とつきあってしまう人というのは、4人いるおじいちゃん、おばあちゃんのうちの誰かがダメ男に惹かれがちな性格だった可能性があります。拡大解釈するなら、たとえば飲み会において、隅っこの席でひとりうつむいている人を放っておけない性格だった可能性があります。
夏目漱石『こころ』と精神分析
他方、世代を超えない不幸の連鎖については、たとえば夏目漱石の『こころ』に見ることができます。子どものころ叔父に騙された「私」は、のちに「Kくん」を結果的に騙すことになるというストーリーです。
「私」は子どものころ騙される側にいました。その「私」が後年、誠実な生きざまを渇望しても、騙す側に立ってしまう。つまり、形を変えて不幸が繰り返されるのです。
話のポイントは「誠実な生きざまを渇望しても」というところにあります。意思ではどうにもならない、そのどうにもならなさを漱石は、明治時代においてすでに洞察していたのでした。つまり、なんらかよくない性格や運命を矯正しようと思ってもそれは不可能だということを、漱石は書いているのです。それは生まれ持った血だから変更不可だ、と――。
おちこぼれの哲学の創始者であるキルケゴールも漱石も「ではどうすればいいのですか?」という問いに(おそらく)答えていません。私たちの性格の中には意思の力が及ばないもの――科学の心理学では解明できないなにか――が存在しているとしか言っていません。
しかし、だからといって「以上、終わり」では、現代の人たち(この項の読者)は不満でしょう。
では、どうすればいいのでしょうか?
無意識は目に見える
答えは、いわゆる無意識の現れ方にあるというのがひとつの解です。すなわち、無意識というのはよくわからない恐ろしいものではなく、目に見えるかたちで現れるということ。
たとえば、復縁のためにダメ男に逢いに行く直前になぜか、急にお腹が痛くなるとか。あるいは、なぜか急な予定が入ってダメ男とのアポイントを変更せざるをえなくなった(その結果、「つきあおう」と言うのが後日になってしまった)とか。
つまり、「虫の知らせ」のように、なんらか第六感があなたに「ダメ男とつきあったらまた不幸になりますよ。それでもつきあいますか?あなたのお腹を痛くしてあげましたので、今日はダメ男と会わないでひとりでよく考えてみてください」と言っているのです。言っているのはあなたの無意識――あなたの心のなんらかよくわからない場所であり、あなたの身体です。
というわけで結論。
話が飛ぶように感じるかもしれませんが、ダイエットの話のときに、「身体の声を聞きましょう。そうすれば食べ過ぎずにすみます」と、よく言われますよね? それと同じで、ダメ男にハマりそうなときに身体の声を聞くこと。
なぜなら、先にも述べたとおり、無意識は心身に顕現するからです。