医療資源の選択と集中:果たして全ての診療科が必要だろうか?
限られた医療資源
限られた資源と財源のもとでの適切な給付。医療の世界でも求められるテーマ。産婦人科の医師不足そして深刻な病院経営。国内の自治体病院の多くが外科、内科、泌尿器科、婦人科、産科、小児科、眼科そして耳鼻科など網羅的に診療科を提供している。一方で、地方自治体を中心に人口が急速に減少している。人口減少社会を迎える今、果たして全ての診療科の提供を自治体病院は求められているのだろうか?
医療機関の集約化
図1に示す大阪府の泉南地域では効率的な医療サービスの提供として集約化が試みられた。市立貝塚病院の産科を閉鎖し婦人科を存続。市立りんくう総合医療センターでは婦人科を閉鎖し産科を継続。そうすることで市立貝塚病院では高度な婦人科の手術を実施。市立りんくう総合医療センターの産科では当直医師の常勤化と救急設備の充実化、そして両医療機関で経営改善が実現した。だが、集約化は同時に医療機関の診療科の閉鎖を伴う。周辺地域に居住する妊婦の医療アクセスの低下という問題を孕んでいる。
妊婦はそもそも医療アクセスを自治体病院に求めているだろうか。集約化を実施した医療機関に妊婦が受診しなくなるだろうか。助産院、診療所、民間病院、大学付属病院。多種多様な機関で産科医療が提供されるなかで、妊婦は多くの選択肢から何故自治体病院を選択するのだろうか。
妊産婦が求める医療サービスとは
集約化を実施した地域の行政、医療機関そして研究者たちは、そこに住む妊婦のニーズをきめ細やかに把握することを試みた。図2に大阪府泉南地域で実施された集約化を示す。集約化を実施した地域に居住する妊婦を対象に、妊婦が医療機関を選択するうえで、どれほど医療アクセスが重要であるかをアンケート調査からの検証を行った。
医療アクセスといった空間的地理的要因を、集約化後に希望する医療施設の位置、妊婦の居住地域、医療機関までの交通手段、通院距離そして通院時間の変化などから詳細に評価した。このとき、施設要因と比較して、集約化に伴う地理的制約が妊婦の医療機関選択に与える影響を検証する。つぎに、医療機関の選択には社会経済的要因が影響をもたらすかどうかを分析した。
妊婦の選択した医療機関を、集約化後継続して産科を行う病院(以下、「集約化後継続する病院」)と、それ以外の医療機関に分類する。後者については、新生児集中治療室(NICU)をもつ総合病院(以下、「それ以外のNICUをもつ総合病院」)、それ以外の総合病院(以下、「それ以外の総合病院」)さらに産院や診療所(以下、「産院・診療所」)のタイプに分類し、入れ子型ロジットモデル(Nested Logitモデル)を用いて分析を行った。
施設選択の決定要因
そこにはいくつかの政策のヒントが見いだされた。全タイプに共通して、妊婦の医療機関を選択する行動には、医療機関の立地などの地理的空間的要因だけでなく、医療機関がもつ施設要因、つまり総合医療施機能や医師数などの要因が影響していることがわかった。必ずしも医療アクセスが施設選択の要因として働いているとは限らない。また、「集約化後継続する病院」を選択する妊婦は、総合医療施設機能などの客観的要因を重視するのに対し、「それ以外の医療機関」を選択する妊婦は評判が良いなど主観的要因と待ち時間を重視する。
妊婦の施設選択行動には距離減衰効果が働いているわけでもなく、かつ地理的空間的要因以外に施設要因影響が大きな影響を与えていることが明らかとなった。また、客観的要因の改善と待ち時間や通院時間などの時間短縮をはかることで、周辺地域の妊婦が「集約化後継続する病院」を選択することがわかった。
見いだされる方向性
そこから導き出される結論。医療機関へのアクセスが低下しても、自治体病院を選択する妊婦は地理的空間的要因だけで自治体病院を選んでいるわけではない。施設要因や社会経済的要因など。複数の要因を踏まえて、自治体病院を選択している可能性が高い。われわれは今選択を求められている。今までのサービスをこのまま続けるのか?現在のサービスを続けていくには、負担の増加は否めない。資源不足に悩みつつも、厳しい財政状況に陥り、この先人口が減少という課題にも立ち向かわなくてはならない。将来を踏まえると、診療科の集約化も我々の有効な選択肢として考えてもよいのではないだろうか。