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【F1】世界中が寝耳に水の衝撃。王者ニコ・ロズベルグが突然の引退。F1が失うものはあまりに大きい。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
F1日本グランプリで優勝したロズベルグだったが、鈴鹿での優勝が気持ちの転機に。(写真:田村翔/アフロスポーツ)

一瞬、「デマか?」と疑うような衝撃的なニュースだった。2016年のワールドチャンピオンに輝いたニコ・ロズベルグ(メルセデス)が日本時間の12月2日夜、今季限りでF1から引退することを表明。FIA(国際自動車連盟)の表彰式を前にしたプレスカンファレンスが開催される中で、信じがたい引退発表を行ったロズベルグ。世界中のレース関係者にとって、まさに寝耳に水の前代未聞の引退劇となった。

チャンピオン獲得後の引退はプロスト以来

1985年6月27日生まれの31歳。あまりに唐突で、あまりに早い引退だ。ファンへのメッセージでは「鈴鹿で優勝した時、王座を獲得できる道筋が見えて以来、大きなプレッシャーが始まり、僕はもしチャンピオンが獲れたなら自分のレースキャリアを終わらせようと考え始めた」とシーズン中から引退を意識していたことを告白したニコ・ロズベルグ。最終戦アブダビGPで王座を手中にしてからはSNSでもしきりにこれまでのレース人生について書き、夫人のヴィヴィアンさんや家族、そしてチームへの感謝をエモーショナルに綴ってきた。

人生最大の目標だったF1ワールドチャンピオンの座に就き、彼の中で次のチャンピオンに向けて邁進するモチベーションが無くなってしまった現状を「メルセデス」も受け入れた。父であるケケ・ロズベルグと共に親子2代続けてのチャンピオン獲得という偉業を達成した、まだこれからのストーリーが待っているはずのドライバーが引退する。

ロズベルグが王座を決めたアブダビGP表彰台【写真:PIRELLI】
ロズベルグが王座を決めたアブダビGP表彰台【写真:PIRELLI】

実はこれまでにもワールドチャンピオン獲得後にF1から引退した例はあった。1992年のナイジェル・マンセル、そして1993年のアラン・プロストが直近の例だ。2人共に当時の最強チームだった「ウィリアムズ・ルノー」に所属し、マンセルは16戦中9勝、プロストは16戦中7勝を挙げる圧倒的な強さを示してのチャンピオン獲得だった。マンセル、プロスト共にシーズン途中に引退宣言を行っており、共に次のシーズンのシートが確約されていない状態だった。しかも、2人共にベテラン中のベテランといえる円熟味を増していた時期。最強チームで王座を獲ることをF1最後のテーマにして戦っていた彼らの引退が近いことは誰もが分かっていたことだった。

それに比べると、ニコ・ロズベルグの引退はあまりに唐突。年齢も31歳とまだ若い。ただ、来季以降のF1はタイヤのサイズ変更や空力パーツの大型化によって、約5秒のタイムアップを図るアグレッシブなマシンに変貌する。ドライビングスタイルを変えることが求められ、フィジカル面での負荷も大きくなる。「メルセデス」はF1最強のワークスチームであるが、空力面の変更が大きく施される2017年シーズンで同チームが最速マシンである保証はどこにもない。そういう意味ではニコ・ロズベルグは引き際として最高のタイミングを選んだのかもしれない。

3人の複数回ウイナーが一度に引退する

プロスト以来23年ぶりとなるその年のチャンピオンの引退。すでに先日の最終戦アブダビGPがラストレースになることを表明していたフェリペ・マッサ(ウィリアムズ)、ジェンソン・バトン(マクラーレン)と共に、現役チャンピオンのニコ・ロズベルグまでもがF1を去る。スター選手3人の引退はF1にとってあまりに大きな損失だ。

今季で引退したジェンソン・バトン【写真:McLAREN】
今季で引退したジェンソン・バトン【写真:McLAREN】

まだ2017年のドライバーラインナップは確定してはいないが、2016年を戦ったドライバーのうちチャンピオン経験者は5人、それが来季は新チャンピオンのロズベルグ誕生で6人になるはずが、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)、キミ・ライコネン(フェラーリ)、フェルナンド・アロンソ(マクラーレン)、ルイス・ハミルトン(メルセデス)の4人に減る。

そして、全ドライバーの通算優勝回数を合わせると(2016年を終えて)201勝だったのが、ロズベルグ(23勝)、マッサ(11勝)、バトン(15勝)が引退することで一気に49勝減(約24%減)の152勝となる。しかも2000年代のF1をチャンピオン争いで大いに沸かせてきた3人がF1を去るとあって、観客動員にも大きな影響が出るだろう。日本でも、まだ地上波テレビ中継が行われていた時代にイケメンドライバーとして女性ファンの人気を獲得してきたロズベルグ、バトン、そして1ポイント差でチャンピオンになれず、思いがけないアクシデントから復帰して250戦を走るベテランとなったマッサの引退はあまりに影響が大きいと言えよう。

今回のニコ・ロズベルグ引退で、シーズンオフの興味は誰が最強チーム「メルセデス」のシートを獲得するかに集まっている。同チームとの不協和音も囁かれるルイス・ハミルトンの意思次第では、トップチームはほぼ決まりだったシート争いが思いがけず加熱する可能性も出てきた。ワールドチャンピオンの中で唯一の20代だったセバスチャン・ベッテルが30代になる2017年、F1は新たなスターが求められる、世代交代の時期を迎えることになる。

日本のファンも期待を寄せる新世代、ストフェル・バンドーンはマクラーレンに乗る。
日本のファンも期待を寄せる新世代、ストフェル・バンドーンはマクラーレンに乗る。
モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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