アマゾン、書籍販売事業を強化か、電子書籍端末のソフトを改良、実店舗展開拡大も
米アマゾン・ドットコムがこのほど自社のウェブサイトに掲載した案内によると、同社は今月、電子書籍端末「Kindle」シリーズのソフトウエアを無償アップデートし、ユーザーインタフェースなどに改良を施すという。
電子書籍事業をテコ入れ
このソフトウエアアップデートは「OTA(Over The Air)」という方式で自動的に行われるため、ユーザーは特に何もする必要がない。
アップデートが完了すると、現在読んでいる本や最近読んだ本が大きく表示され、操作が楽になるほか、アマゾンの「欲しいものリスト」に入れた本も見やすい位置に表示される。
また、ユーザーがあらかじめ設定した好みのジャンルや本の評価が、お薦め本の一覧に反映される。このほか、新たに設定用のツールバーが設けられる。
これにより、機内モードのオン/オフや端末間のデータ同期が容易になる。こうして好きな本を見つけやすくしたり、操作を簡便にしたりすることで、Kindleの使い勝手を向上させるという。
このソフトウエアアップデートの対象になるのは、2013年以降に発売されたKindleシリーズで、本体背面の上部に大きな「Amazon」のロゴが付いている4モデルとなる。
このアップデートは対象製品を持っているユーザーにとっては朗報かもしれない。ただ米シーネットは、これには近年、電子書籍端末の販売が落ち込んでいるという背景があると伝えている。
電子書籍端末は安価で、手軽に書庫を持ち歩ける便利な機器。アマゾンにとっては顧客が持ち歩く書店でもあり、重要な販売ツールとなっている。
だが、人々は小説やニュースをスマートフォンやタブレットで読むようになり、顧客のデジタルライフの中心はこれらモバイル端末に移りつつあると、シーネットの記事は指摘している。
全米に実店舗の書店、最大400店オープンとの報道
一方でこのソフトウエアアップデートの話題が伝えられた前日、アマゾンが書籍の実店舗販売を拡大するというニュースが駆け巡った。
ことの発端は、ショッピングモールを運営する米ジェネラル・グロース・プロパティーズのサンディープ・マスラニ最高経営責任者(CEO)の発言。
このニュースを最初に伝えた米ウォールストリート・ジャーナルの記事によると、同氏は決算発表後の会見で、アマゾンが300〜400店の実店舗展開を目指していると述べた。
アマゾンは昨年11月に、お膝元である米ワシントン州シアトルに対面販売の書店「Amazon Books」をオープンしたが、現在のところ書籍を扱う同社の実店舗はこの1店のみ。
電子商取引の巨人であるアマゾンが、大規模事業展開を計画しているというマスラニCEOの発言は、小売業界にパニックをもたらしたと米Re/codeなどの米メディアは伝えている。
ただし、ジェネラル・グロース・プロパティーズはその翌日に出した声明で、「当社のCEOの発言はアマゾンの計画を代弁するものではない」とし、マスラニCEOの発言を撤回している。
CEO発言による波紋の大きさに驚いたのか、アマゾンへの配慮なのか、はたしてそもそもアマゾンにそのような計画はなかったのか、この同社の声明の意図は、今のところまったく分からないという状況だ。
アマゾンの計画伝えるもう1つの報道
その一方で、前述のRe/codeは事情に詳しい関係者の話として、アマゾンには確かに対面販売の書店を増やしたり、それ以外の新タイプの店舗をオープンする計画があると伝えている。
それによると、アマゾンは顧客が棚から商品を取り出すと、自分のアマゾンアカウントで自動決済され、レジに並ぶことなく店から出られるようにするシステムを実験しているという。
アマゾンはこのシステムの技術に関する特許を出願しており、その発明者の欄にはスティーブ・ケッセル氏という人物の名がある。
ケッセル氏は、Kindleの初代機を立ち上げた経歴を持ち、現在は対面販売書店プロジェクトを統括している。また同氏はアマゾンのジェフ・ベゾスCEOと近しい関係にあるなどと、Re/codeの記事は詳細に伝えている。
(JBpress:2016年2月5日号に掲載)