実例が声になる 院内集会で語られた「私が業界の中で受けたセクハラ」
実態を聞くことが被害抑止の第一歩。改めてそう思わされた集会だった。
4月15日、東京・霞が関で開かれた院内集会。さまざまな職域で働く人たちが、自らの経験を踏まえながらセクハラ被害について語った。参加者は約190人。
■販売業務での顧客からのセクハラ
百貨店やスーパーマーケットなどの接客業務は女性が多い。販売業務全般およびレジなどの接客対応をしている人を対象とした2017年の調査(有効回答数4万9876人)では、男女合わせて13.4%が顧客からのセクハラ行為があったと回答した。
内容は、「ブス」「ババア」といった暴言、「小娘」「女に用はない」などと貶めるような内容や、性的な冗談、身体的接触。業務で顧客の家に上がったところ、後ろでアダルトビデオを流されるような行為や、盗撮やつきまといなどの犯罪行為もあったという。
埼玉大学准教授の金井郁さんは、顧客主権が強調されすぎる現場対応が、販売員らが顧客からのハラスメントを報告しない理由のひとつとなっていることを指摘。「企業がどのように顧客との関係を作っていくかが、顧客からのセクハラ防止対策となる」と語った。
<資料で紹介されたセクハラのケース(一部抜粋)>
・接客中に胸を触られてしまった。いやな思いをしたが、何もできなかった。
・笑顔で接客をしていたら、軽く見られたのか、体を触ってきた。笑顔でさりげなく「セクハラですよ」と言ったらやめてくれたが、「合意の上だから大丈夫」と勘違いされた。
・売り場で作業中、スカートの中を携帯で盗撮された(制服だったとき)。
・セクハラをする客が来店し、110番通報し警察から注意をしたところ、逆ギレされ、インターネット掲示板へ実名を挙げられ、拡散された。
※「消費者からのハラスメント――『悪質クレーム調査』から」(宮島佳子『女性労働研究』63号/2019年)の代理報告
■訪問介護の現場でのセクハラ
続いて登壇した、介護職員の寺田典子さんは、「金井さんの報告を聞いて状況が似ているなと思う」と語った。川崎労働組合総連合は、2015年に訪問介護現場でのセクハラ・パワハラ防止のためのアンケートを実施。
アンケートのきっかけは、訪問介護現場で起こった強制わいせつ事件だったという。訪問介護現場も販売業務と同じく女性が多い。訪問介護労働者を対象に実施したアンケートの回答者(384人)の女性割合は94.3%だった。性的嫌がらせに遭ったと答えたのは全体の3割強。
<アンケートに寄せられたセクハラ事例>
・入浴介助のたびに触れてくれ握ってくれと毎回言われた。
・利用者の弟におしりをさわられた。入浴介助のサービスが入るたび、男性介助か二人介助にしてくれとお願いしてもケアマネが聞き入れてくれない。
寺田さんは、外国人女性の被害についても紹介。
「集団の中での介助なら大丈夫だと思われがちだが、外国の方がわからない卑猥な言葉を男性が集団で口にするケースがある」
入管法の改正により、今後はさらに介護の現場に外国人女性が増えると予測されることから、「今後この問題はかなり大きくなるのでは」と危惧する。
■教育実習でのセクハラ
川村学園女子大教授の内海崎貴子さんは、実際に相談のあった事例として、教育実習生が実習校で校長から性的な誘いを受けたケースを紹介。職員室であったにもかかわらず他の教員は「知らんふり」だったという。その後、その学生は教職採用試験を受けず、教職を諦めた。
2015年に日本教育学会が行った、教育実習終了者594人(女性501人、男性93人)へのセクハラの実態調査によれば、実習セクハラの被害率は3.54%、見聞き率は5.89%。
内容は、「性的なからかいの対象とされたり、卑猥な冗談を言われたりした」(19.5%)、「言動について『女らしくない/男らしくない』『女のくせに/男のくせに』と言われた」(23.81%)など。加害者は、約67%が管理職を含む教員で、そのうち約48%が指導教員。
内海崎さんは、「セクハラを再生産しているのは学校教育現場」と指摘。たとえばセクハラをうまく受け流せなければ教師失格の扱いをするなど、「加害者意識が低い。指導の方法としてセクハラ的なことが行われている」と訴えた。
■映画・映像・演劇産業でのセクハラ
映演労連(映画演劇労働組合連合会)が行った、業界ではたらく人に対するアンケート調査では、女性(回答数154件)の38%、男性(回答数164件)の6%がセクハラを受けたことがあると回答。
セクハラを受けた人のうち72%は「誰にも相談しなかった」と回答し、その理由でもっとも多かったのが「相談しても変わらないと思ったから」だったという。
■性的指向・性自認に関するハラスメント「SOGIハラ」
「SOGI」はSexual Orientation and Gender Identityの略。性的指向や性自認に関するハラスメントをSOGIハラと呼ぶ。
LGBT法連合会の共同代表、池田宏さんはSOGIハラとして次のようなケースを挙げた。
「たとえば、『ホモって気持ち悪いよね』という言葉。(LGBTなどの当事者は)普通に考えるよりずっと多い。8%ぐらいの人が、非典型な部分があると言われている。周りで誰も傷ついていないと思ってこういう発言が出ること自体がSOGIハラ」
配布資料では、「オトコオンナって変だよね」といった差別的な言動や嘲笑、「男なのに化粧して出社するなら移動だぞ」といった不当な移動や解雇がSOGIハラの例として紹介された。
セクハラの法整備を進める上で、SOGIハラも含めた包括的な案を求めた。
■議員へのセクハラ
昨年2月に初当選を果たした東京都町田市の東友美市議は、「握手の際に手をなでまわされる、脇まで触られる、夜は酔っ払った人に抱きつかれる」といった有権者からのセクハラ被害を語った。
このほか、支援者を名乗る人から「スケジュール管理をしてやるから1週間分のスケジュールを送れ」と言われたり、夜中に「今すぐ来ないと支援をやめる」と言われたりすることがあったという。
多い時期には、男性からのSNS申請が毎日100件超え。送られてくるメールの内容は自己紹介や日記など、東市議の議員活動とは関係ないものが多かった。中には真摯な訴えがあるかもしれないと思い、すべてをチェックしていた結果か、急性膵炎に見舞われた。
「議員は有権者をむげにできない。そこにつけ込んでくる人が多い。今回の統一戦で女性議員を増やそうとしているが、(議員に対するセクハラが)解決されないといけない」
八王子市議会の陣内やすこ議員は、都議会・市区議会への女性議員に行った調査(2014年・回収数143)で、セクハラ被害に遭った経験のある人が半数を超える52%だったことなどを紹介。
アンケートでは、女性議員1人の自治体での被害率が75%だったのに対し、女性議員比率が10~20%の自治体では57.6%だった。「政治は男社会、自分たちだけの聖域だと思っているのではないか。女性が入ってくると、異物が入ってくる、排除しようという集団心理が働く」と訴えた。
■司法修習生へのセクハラ
大阪弁護士会の橋本智子弁護士は、司法修習生時代に教官と「たまたま2人で飲んでいたら、居酒屋で急に体を触られた」という自身の経験を語った。
「(教官と司法修習生との間には)そんなに力関係もないし、私は気の弱い方でもない。でもいきなり領域を踏み越えてこられるとかたまってしまう。その後、なぜか私がお店の人から『つつしんでください』と注意された」
また、司法修習生に対する教官からのセクハラはほとんどないとしながらも、弁護士から依頼者や事務員へのセクハラは頻繁に報告されている実態を話した。
■「魂の殺人」と呼ぶのは、もうやめて
また橋本弁護士は、20年以上前に性犯罪被害に遭ったことを明かし、「私は性暴力の元被害者。サバイバーというより元被害者のほうがしっくりくる」と語った。
その上で、性暴力被害者の傷つきを表現する「魂の殺人」という言葉に疑問を呈した。
「魂の殺人という言い方、そういう言い方はもうやめましょう。私たちの魂は死んでいません。死の一歩手前までいったけど生き直してきました。生き直してきた私たちで、性暴力のない世界をつくっていきたい」
これについて私の個人的な見解となるが、性暴力を取材してきた中でこれまでも「魂の殺人」という表現を拒否する被害者に出会ってきた。だから私はこの表現をなるべく使わないようにしている。
一方で、この表現を使わざるを得ない場合があることも理解している。たとえば、「減るもんじゃないし」「犬に噛まれたと思って忘れなさい」といった言葉からわかるように、性暴力被害が非常に軽く扱われてきた一面もあるからだ。
性被害を軽く見積もる人に対して見えない傷つきを端的に表現するために「魂の殺人」は使われてきた。しかし、性被害の重さが徐々に浸透する中で、今度は「私は殺されたわけではない」「勝手に殺さないで」という訴えにも耳が傾けられなければいけないと感じている。
■就活生へのセクハラ
ネットメディアBUSINESS INSIDER JAPANの記者、竹下郁子さんは、今年2月から「就活セクハラ」について緊急アンケートを行っていることを報告。きっかけは、カフェでOB訪問の現場を目にした際に、恋人の有無や性交経験など、就活とは関係のない質問を就活生が受けていたことと話した。
アンケートはこれまでに616人(女性481人、男性125人、その他10人)が回答。約半数にあたる306人がセクハラ被害に遭ったと回答したという。
「(アンケートに寄せられた事例は)思ったよりも深刻だった。OB訪問時の被害が多いが、インターンシップ中や面接中の被害もある」
<アンケートに寄せられた事例>
「インターンシップで愛人関係にならないかと言われた」
「就活のときのノートを見せるという口実で家に誘われてそのまま大量に酒を飲まされた。意識がはっきりしない状態で体を触られ、体に点数をつけられ、人格を否定するような言葉もたくさん言われ……。このセクハラが原因でまともに就活できなかった。ここまで死にたいと思ったことはない。彼のせいで私はその志望業界にもう関わりたくないと思った。夢がひとつ潰された思い」(一部要約)
アンケートでは、被害に遭った人の7割以上が誰にも相談していないことも報告されている。
BUSINESS INSIDER JAPANの「就活セクハラ」記事一覧
■メディア業界でのセクハラ
この院内集会のきっかけは、昨年、当時の財務事務次官から女性記者へのセクハラ問題。被害の訴えから4月で1年となる。
財務事務次官のセクハラ問題をきっかけに「メディアで働く女性ネットワーク」を起ち上げた林美子さんは、「当時、記者もセクハラに遭うの?とよく聞かれた」と話した。
「(セクハラ被害に遭ったら)自分で記事を書けばいいんじゃないのと言われるけど、書けません。権力構造の中に記者もいるから」
どの職場にもあることだが、「セクハラぐらいうまくかわせなければ一人前ではない」風潮はメディアにもある。被害に遭った人が安心して思いを共有できる場としてネットワークを運営している。
ネットメディアBuzzFeed Japanの編集長、古田大輔さんは、「ジェンダー平等への意識の低さを特に感じる業界は政界とメディア業界。どちらの業界も女性の数が少なく、議論もジェンダー視点に欠ける」と話した。
また、男性記者よりも女性記者の方がネット上などで嫌がらせを受ける割合が多いことを指摘。
「女性の場合、セクシャルな内容を含んだ嫌がらせを受けている。でもそのことに業界として取り組もうとしていない。会見場での発言を元に『女のくせに』と言われても、社内ではそんなもんだとすまされる」
「メディアが自社内での人間ですら守れない。社会へメッセージを発信していくメディア自身が変わっていくことが重要では」
■日本はハラスメント規制のない国
日本労働弁護団の長谷川悠美弁護士は、2008年から行っているホットラインにおいて、2018年はセクハラの相談が前年の約2倍と目に見えて多かったことを報告した。
マタハラが報じられた2014年以降にマタハラ相談が増えたことを例に挙げ「財務省のセクハラを発端に顕在化したのではないか」と分析した。被害内容は「性行為の強要」が8%など深刻という。
院内集会のタイトルは、「いま、つながろう セクハラのない社会へ~財務次官問題から1年 ILO条約批准を目指す院内集会」。
国際労働機関(ILO)の調査では、日本は仕事に関する暴力やハラスメントの「規制がない国」に分類されている(※)。対象の80カ国中60カ国に規制がある中で、だ。
院内集会を開催した日本マスコミ文化情報労組会議では、6月のILO総会に向け、セクハラに関する国内法整備に向けた要請を行っていく予定。これにあわせ、ネット上でセクハラに関するアンケートを行っている。
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※参考 「セクハラ罪」が今の法律で問いにくい訳――内藤忍さん(JILPT)に聞く(千田有紀/2018年5月10日)
※記事内の写真は筆者撮影