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大魔神・佐々木主浩オーナーと共に挑んだジャパンCウィナーのイギリス挑戦

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
英国ニューマーケットでの大魔神こと佐々木主浩オーナーとシュヴァルグラン

イギリスで2レースに挑戦

 イギリスのロンドンから北へ約320キロメートル。スコットランドにほど近いイングランド北部、ノースヨークシャー州にあるのがヨーク競馬場だ。

 ここで行われる夏の開催が“イボアフェスティバル”。1843年に始まったこのミーティングは、例年8月の半ばに4日間連続で行われ、今年は正に今週がその開催となる。開催中にはヨークシャーオークスやナンソープSなどのGⅠが行われるが、初日に開幕を告げるように行われるのがインターナショナルS(GⅠ)だ。芝10ハロン56ヤードのこのレースに、2019年に挑んだのがシュヴァルグラン(牡、栗東・友道康夫厩舎)だ。

17年ジャパンCを制した際のシュヴァルグラン。中央が佐々木オーナー
17年ジャパンCを制した際のシュヴァルグラン。中央が佐々木オーナー

 大魔神こと佐々木主浩氏がオーナーの同馬は2年前のジャパンC(GⅠ)の覇者。英国競馬に挑戦したこの年は7歳になっていた。ジャパンC以来、勝ち星こそなかったが、それでも前年の有馬記念(GⅠ)で3着に好走すると、年明け初戦のドバイシーマクラシック(GⅠ)でも2着。オールドペルシアンにこそ敗れたものの、同じ日本から中東に渡ったスワーヴリチャードやレイデオロには先着してみせた。

 その後、約4か月ぶりの出走となったのがイギリス・アスコット競馬場が舞台のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(GⅠ)。凱旋門賞(GⅠ)と並び称される1マイル半の最強馬決定戦に、日本から勇躍臨んだが、残念ながら11頭立ての6着。クビ差で勝ち負けを争ったエネイブルとクリスタルオーシャンからは大きく離され、返り討ちにあう格好となってしまった。

 「それなりに仕上がりは良かったと感じました。ただ、前日からの雨で馬場が悪くなり過ぎました」

 敗因についてそう語ったのは手綱を取ったO・マーフィーだった。

キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS出走時のシュヴァルグラン。鞍上はO・マーフィー騎手
キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS出走時のシュヴァルグラン。鞍上はO・マーフィー騎手

オーナーが語る中距離戦に挑んだ理由

 イギリス初戦は敗れてしまったシュヴァルグランだが、陣営は当初の予定通り引き続きニューマーケットに残り、ヨークのインターナショナルSに向かった。当時、現地入りした佐々木オーナーは言っていた。

 「ヨーロッパの芝は重いですからね。同じ2400メートルでも日本で走っている以上のスタミナが必要になると思います。同様の意味でヨーロッパの2000メートルなら日本で2400メートルを勝っているシュヴァルグランで好勝負をしてくれるかと思っています」

 また、指揮官である友道は次のように語った。

 「叩かれて確実に状態は良くなっています。前走みたいに悪い馬場にならなければ走ってくれると信じています」

 決戦の地には前日のうちに移動。レース当日の朝には装鞍所やパドック、そしてコースも一部を開放してもらい、スクーリングを行なった。

 「打てる限りの手は打ちました。馬場も良い状態で走れそうですし、何とか好結果が出てくれれば良いのですが……」

 友道はそう言って、スタートの時を待った。

インターナショナルSの行われるヨーク競馬場をスクーリングするシュヴァルグラン
インターナショナルSの行われるヨーク競馬場をスクーリングするシュヴァルグラン

挑戦しなければ始まらない

 午後3時35分発走のレースは9頭立て。ゲートが開くと有力馬のクリスタルオーシャンが2番手でジャパンが4番手という隊列の中、シュヴァルグランは後方からになった。騎乗したマーフィーは、レース直後に次のように語っている。

 「クリスタルオーシャンをマーク出来る位置で競馬をしたかったけど、スタート後、他馬にヨラれて後ろの位置取りになってしまいました」

 結果、これが最後まで響いた。ラストの直線でクリスタルオーシャンが伸びるが、ジャパンがそれ以上の脚を披露して先頭に立ったのとは対照的にシュヴァルグランは早々に手応えが怪しくなった。それでも一瞬、差を詰めるか?!と思えるシーンを作ったが、最終的にはブービーの8着でのフィニッシュとなった。

インターナショナルSのゴール前。右から2頭目がジャパンで向かって左端がシュヴァルグラン
インターナショナルSのゴール前。右から2頭目がジャパンで向かって左端がシュヴァルグラン

 「考えていたより後方の位置取りになった上で、遅いペースになってしまって厳しくなりました。ああいう形だとシュヴァルグランの持ち味が出ません」

 友道は消化不良という表情でそう語った。

 こうしてシュヴァルグランの挑戦は終わったが、ニューマーケットに滞在して2戦にわたって出走した姿勢は素晴らしいチャレンジといえるだろう。釣り糸を垂らさない事には大魚はかからないのだから。現在はコロナ禍という事もあり難しいかもしれないが、収束したあかつきにはヨーロッパを転戦するような日本馬がまた出てくれるよう願いたい。

 また、日本時間18日の夜にスタートが切られる今年のインターナショナルSは、日本馬こそいないものの注目したいレースである事には違いない。フランスダービー(GⅠ)やエクリプスS(GⅠ)などGⅠ連勝中のセントマークスバシリカこそ外傷で回避となったものの、ヨークシャーオークスが予定されていたラヴ(プリンスオブウェールズS他)が入れ替わりにこちらへ矛先を向けて来た。他にもドバイシーマクラシックの覇者で前走のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスSでも2着だったミシュリフや前走でサセックスS(GⅠ)を勝っているアルコールフリーらが出走する見込みだ。クロノジェネシスやディープボンドが出走を予定している凱旋門賞を占う意味でも是非、見ておきたいレースである。

今年のインターナショナルSの有力馬の1頭ミシュリフ。写真は2月のサウジC優勝時
今年のインターナショナルSの有力馬の1頭ミシュリフ。写真は2月のサウジC優勝時

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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