平昌五輪の「その後」。明かされた「熱狂の裏側」と「負の遺産」を韓国は解決できるか
キム・ヨナ、メガネ先輩らの「その後」
2018年が幕を閉じようとしている。テレビや新聞、雑誌などでは今年1年を振り返る特集が多く組まれているが、スポーツ界の2018年を振り返ったとき、かならず登場するのが2月9日から25日まで行われた平昌(ピョンチャン)冬季五輪だろう。
韓国は開催国でもあっただけに「2018年スポーツ界10大ニュース」にかならず登場する。多くのメディアが「平昌五輪の成功的な開催」をトップに挙げている。
確かに平昌五輪は成功的だった。大会前は2億6600万ドルの赤字になるという憂慮もあったが、10月10日に五輪組織委員会がIOC総会で行った最終報告書によると、少なくとも614億ウォン(約62億円)の黒字になるという。
招致段階から“平昌の顔”として活躍し、開会式では聖火の最終点火者を務めた“フィギュア女王”キム・ヨナも、平昌五輪以降は各種メディアや企業広告、雑誌モデルなどにも引っ張りダコである。
(参考記事:本当にキム・ヨナ!? “フィギュア女王”の色香漂う優雅な姿【PHOTO】)
5月には4年ぶりにアイスショーに復帰し、12月には6年ぶりに海外でのアイスショーに出演し、その出演料を全額寄付するど、相変わらずのセレブリティを発揮中だ。
結果の面でも韓国は大成功を収めた。
「小平との抱擁」イ・サンファは……
金4、銀8、銅4のメダルを獲得して総合7位。これまで韓国の冬季五輪メダルと言えば、ショートトラック・スケート、スピードスケート、フィギュアなどの氷上競技だけだったが、平昌五輪ではボブスレー、スノーボードなどでもメダルを獲得し、さまざまなヒーローとヒロインを生んだ。
代表的なのが、女子カーリングのキム・ウンジョンだろう。日本でも“メガネ先輩”の愛称で有名になった彼女は国民的人気者となった。
また、女子スピードスケート500mで小平奈緒と金メダルを争った“氷上の女帝”イ・サンファも日本で有名になった。小平とイ・サンファがレース後に見せた抱擁は、日韓の人々の心を打った。
イ・サンファは平昌五輪以降も各メディアに引っ張りだこで、バラエティ番組にも多数出演。小平との“友情秘話”など五輪裏話も明かしたり、セーラー服姿を披露したりして話題になった。
(参考記事:イ・サンファはタレント化、“土下座スケーター”は…あの韓国スピードスケート代表選手はいま?)
ただ、今季はまだ選手としてリンクに立っておらず、ワールドカップはもちろん、韓国国内での大会にも姿を見せていないのがちょっぴり残念だが、それでも彼女はまだマシなほうかもしれない。
内部分裂、パワハラ、暴力行為が次々と明らかに
というのも、平昌五輪が終わってまだ1年にも立たない状態で、当時の熱狂が興ざめしてしまうような舞台裏が次々と明らかになったからだ。
例えば南北合同チームが結成された女子アイスホッケーでは、チームを指揮したセラ・マリー監督に選手たちが反発し、“内部分裂”が起きていたという。“青い瞳の若き美女指揮官”として人気があったマリー監督は結局、韓国代表監督の座を退くことになった。
韓国のお家芸でもあるショートトラック・スピードスケートでは、指導者が選手たちに罵詈雑言を浴びせ暴力を振るうことが日常茶飯事だったことが、シム・ソッキらの衝撃告白で次々と明らかになっている。
極めつけは前出の“メガネ先輩”キム・ウンジョンら女子カーリング選手たちのパワハラ告発だ。選手全員で記者会見を開き、コーチ陣や連盟首脳部から受けた不当な扱いを告白。勇気を振り絞ってその実態を暴露した彼女たちの告白と、その衝撃過ぎる内容に怒りで震えた人々も少なかった。
(参考記事:「賞金総額は1億ウォン」“メガネ先輩”ら韓国カーリング女子が暴露した指導者らの悪行)
平昌五輪の感動が、音を立てて崩れていく。そんな幻滅感で気が重くなるような出来事が多すぎたというのが正直なところだ。
撤去、改修、赤字だけが残った“負の遺産”
付け加えれば、興奮と熱狂の現場だった平昌五輪の会場にも、冷たく厳しい現実の風が吹いている。
平昌五輪では、開・閉会式が開かれたオリンピック・プラザをはじめ、12の会場で行われ、そのうち6つは新設、6つは補修されて使用されたが、オリンピック・プラザはスタンドが撤去されて見る影はなく、フィギュアとショートトラック・スケートが行われた江陵アイススケートアリーナは室内複合文化スポーツ施設になってしまう。
それどころか、建設費1300億ウォンがかかった江陵スピードスケート競技場は年間22億5400万ウォン(約2億2540万円)の赤字、1100億ウォン(約110億円)を投じて作られた江陵ホッケーセンターは年間21億4300万ウォンの赤字、1114億ウォン(約111億円)をかけたアルペンスライディングセンター(ボブスレー、スケルトン会場)は年間9億900万ウォンの赤字が予想されるという。
2034億ウォン(約203億円)を投じた旌善(チョンソン)のアルペンスキー場に至っては活用どころか、存続そのものが危ぶまれている。“五輪レガシー(遺産)”を残すどころか、大きな負担となって“厄介者”扱いされている状況なのだ。
まさに“祭りのあと”の虚しさが漂う平昌五輪。ただ、個人的には、政治主導で現場を無視した女子アイスホッケー南北合同チームの単発で終わらず、平昌五輪後も南北がスポーツ交流を継続的に続けていることや、小平奈緒とイ・サンファが示した健全なライバル関係と友情など、「スポーツのチカラ」も実感できる大会でもあったと思う。
だからこそ、熱狂と引き換えに苦味も味わった韓国スポーツ界が今後、“負の遺産”とどう付き合い解決していくかという点には、引き続き注目していきたい。