ハリケーン「イアン」、何が壊滅的な被害をもたらしたのか
アメリカ時間28日(水)午後、ハリケーン「イアン」がフロリダ州南西部に上陸しました。一夜明けた29日(木)、地元警察は、死者が“数百人”に上る可能性があると発表しました。
一つのハリケーンで、死者が3桁以上になるのは、1,200人が亡くなった2005年「カトリーナ」以来です。
歴史に残るような大惨事が起きている可能性が出ていますが、一体イアンはどれほど恐ろしいハリケーンだったのでしょうか。そして何が被害を拡大させたと考えられるでしょうか。
【全米史上5番目の強さで上陸】
まず勢力です。イアンはメキシコ湾の中でもとりわけ海水温の高い海域を通過しました。このため一気に発達し、「カテゴリー4」という「猛烈な台風」に相当する強さとなりました。
その勢力のまま、イアンはフロリダ南西部に上陸しました。上陸時の最大風速は、67m/s(1分平均)で、これまでフロリダ州に上陸した台風の中では観測史上4位タイ、そして全米の観測史上でも5位タイの記録となりました。
【記録的な高潮】
次に「高潮」です。イアンは、フロリダの西側から進んできたため、「危険半円」と呼ばれるとりわけ風の強い部分がフロリダを襲いました。強風が海水をフロリダの西岸に叩きつけ、超巨大な高潮を発生させたのです。
フォートマイヤーズでは、その地点の観測史上最大となる2.2メートルの高潮が発生しました。過去の記録を倍も上回ります。
高潮は海水が壁のように押し寄せてくる現象です。ハリケーンに付随する現象としては最大の命取りになります。沿岸部では壊滅的な洪水が発生、多くの家屋を飲み込みました。警察によれば、この高潮の影響で、まだ大勢の住民が家の中に閉じ込められているといいます。
【進路変更、上陸早まる】
ハリケーンは地震と違って、ある程度予想できるので、準備が可能な災害といえます。今回、当局は250万人に避難指示を出しました。「いま逃げないと助けませんよ」と声を荒げて避難を促していましたが、避難できる時間が突然短くなっていました。
というのも、当初の予想では、イアンはフロリダ州のもっと北に上陸すると見込まれていたため、上陸日時も29日(木)か30日(金)だと予想されていたのです。
ところがイアンが近づくにつれ、予想進路が南にずれ、上陸予定日時も前倒しになりました。避難の遅れた住民もいたと推測できます。
どのくらい人が逃げるのか
さらに避難をためらった人も多くいました。日本でもたびたび問題になりますが、一体なぜ逃げないのでしょうか。NPRの記事に興味深いことが書かれてあったので紹介したいと思います。
災害時の避難行動について研究している、米ラトガース大学のキュイテ教授によれば、
「荷物をまとめて逃げるべきだと言うのは簡単ですが、障害のある人、ペットを飼っている人、車を持っていない人、そして十分なお金を持っていない人たちにとって避難することは非常に難しいのです」。
そのうえに、フロリダには英語やスペイン語を母国語としない人が数百万人もいます。呼びかけが理解できなかったり、避難地図があっても正しく読めなかったりする。また一人暮らしの高齢者は、助けがないと逃げることもできない。
こうしたことを踏まえてキュイテ教授は、支援の輪が悲劇の発生を防げるかもしれないといいます。
日本でも同じようなことが起こりうります。自分は何ができるか、日頃から考えておく必要があると思います。