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仮面ライダーの「ライダーキック」は、どれほどの威力があるのだろう? また、科学的な問題点は?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

「とおおおっ!」と叫んでジャンプした仮面ライダーは、空中でくるりと前転すると、斜めに急降下して怪人を蹴る! 怪人は大爆発!

あまりにも有名な必殺技「ライダーキック」である。

この技を生み出すのは、仮面ライダーの驚異的なジャンプ力だ。

ショッカーの改造手術でバッタの能力を組み込まれたライダーは、最初15m30cm、後に再改造を受けると25mもの跳躍力を持つに至った。

このワザで幾多のショッカー怪人を倒してきたが、実際の威力はどれほどなのだろう?

本稿ではライダーキックについて、空想科学的に考察してみたい。

◆仮面ライダーのエネルギー

仮面ライダーのエネルギー源は風だ。ベルトのバックルで風を受けて、エネルギーを溜めることによって変身する。

風力エネルギーは、環境を汚すこともなく、コストもかからない。脱炭素にもピッタリのエネルギーだが、それでショッカーと戦えるのだろうか?

風力エネルギーの最大の問題点は、出力が弱いことだ。

空気は質量が軽いので、運動エネルギーが他の物体に伝わりにくい。

風力エネルギーを電気に変換する場合は、最大59.3%の発電効率しか得られないことが判明している。

しかも、仮面ライダーのベルトに設置されている風車は、せいぜい直径10cm程度だ。

この大きさでは、発電効率が最大の59.3%だとしても、風速10mの風を受けたときの出力は、たったの2.8Wにすぎない。

歴代の仮面ライダーが10人集まって、山の尾根に立ち並び、風速10mの風を受けると、総発電力は28Wとなり、トイレの電球は灯すことができる……という程度なのだ。

これで怪人と戦えるのか、ヒジョ~に心配である。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆ライダーキックの科学

しかし、仮面ライダーが人類の自由のために、元気に戦っているのは事実だ。

『仮面ライダーOFFICIAL DATA FILE』の第1号(デアゴスティーニ・ジャパン)には「腰のタイフーンの中央にあるダイナモが受けた風圧が、胸部のコンバーターラングにおいて、98.5%という高効率でエネルギー化される」とある。

前述のエネルギー効率59.3%をはるかに超えており、これを実現したショッカーの科学力には舌を巻くしかない。

ベルトの風車が小さいことも、ショッカーが革新的な技術を開発したうえに、ライダーは常時風力エネルギーを蓄積するなどしている……と考えることにしよう。

その場合、ライダーキックは期待どおりの威力を発揮できるのか?

劇中の描写などから、ライダーキックとは次のような技である。

①大地を蹴ってまっすぐ跳び上がり、斜めに舞い降りる

②脚を伸ばしたまま、怪人を蹴る

③蹴られた怪人は、吹っ飛んで爆発する

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

このうち、筆者がヒジョ~に気にかかるのは①だ。

垂直にジャンプして、斜めに舞い降りる。子どもの頃は、なんの疑いもなく見ていたが、これは物理的にたいへんアヤシイ運動である。

地球上で物体を垂直に打ち上げると、最高到達点で一瞬静止した後、まっすぐ下へ落ちてくる。

垂直に跳んだものが「斜め下への運動」に移行するには、最高到達点で横向きの力を受けなければならない。

たとえば仮面ライダーの背中にジェット噴射装置がついていて、それを後ろ向きに噴射させれば「自由落下+横向きの動き」で、斜めに舞い降りることもできる。

しかし、彼がそのようなモノを使っている様子はない。

すると、ひとたび真上に跳び上がったら、やがてまっすぐ降りてくるはずで、要するに「垂直跳び」になってしまうはずなのだ。

◆滞空時間が4.5秒!

ではどうするのがよいか?

仮面ライダーの場合、空中で方向転換しようと思ったら、体内から風を吹き出すのが効率的だろう。

これまで見てきたとおり、彼は風力発電でエネルギーを得ている。発電機とモーターは構造が同じだから、彼の風力発電機に電流を流せば、風を起こせるはずだ。

物体が斜め下45度の直線運動をするには、重量と同じ力を横向きに受ければよい。体重70kgの仮面ライダーが、直径10cmの風車で自重と同じ力を出すためには、秒速270m=マッハ0.8に達する猛風を噴き出せばいいのだ。

しかしこれ、ライダーにはかなり大きな負担である。

高度25mまで跳び上がってから、地上1.5mの怪人の頭部にキックを見舞うとしたら、差し引き23.5mの落下時間は2.2秒。

その間、マッハ0.8の猛風を噴出させなければならないわけで、これによる消費エネルギーは20万2千Jだ。

これは、2.8Wで蓄積し続けてきた風力エネルギーの20時間分であり、斜めに降下するためだけに、それを使い切ってしまうことになる。

そもそも、ジャンプして25m上昇するには2.3秒かかるし、降りてくるのにも同じだけかかる(四捨五入して、計4.5秒)。

戦いにおいてはかなり長い時間で、相手の怪人が100mを10秒で走れるなら、その怪人はライダーのジャンプ中に、45mも移動できてしまうのだ! 充分に逃げられる!

などなど、効果的な使い方が意外と難しいライダーキックだが「高度25mから降ってくる重さ70kgの物体」というのは、かなりの脅威である。

無理に斜めに舞い降りたりせず、ただの垂直跳びでも充分ではないだろうか。

戦いのさなか、顔が触れ合うほどの至近距離からいきなり垂直跳び!

急に視界から消えた仮面ライダーの姿を捜して怪人がキョロキョロしているところを、真上から自由落下して踏みつぶす!

それは、直径62cm、重量340kgの岩石が木っ端微塵になる威力であり、ライダーキックはやっぱりすごいのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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