伊藤 蘭 50周年を“粋”に彩る新作&キャンディーズBOXが話題。「今の自分がやるべき音楽」を求めて
デビュー50周年。3rdアルバム、キャンディーズBOX発売、ライヴツアー開催。“特別な”場所・日比谷野音のステージにも立つ
キャンディーズでデビューして今年50周年を迎える伊藤蘭が、約2年振りの3rdアルバム『LEVEL 9.9』(レベル・ナイン・ポイント・ナイン)をリリースした。サウンドプロデューサーに佐藤準を迎え、亀田誠治、森雪之丞、いしわたり淳治、奥田民生、トータス松本、売野雅勇、松井五郎をはじめ多彩な作家陣が集結。伊藤が今歌いたい、届けたい歌をヒットメーカーたちと共に作り上げた。このアルバムについて、そしてキャンディーズのデビュー日でもある9月1日に発売される、伊藤と藤村美樹、初めてメンバーが企画に参加したキャンディーズの5枚組CDボックス『The Platinum Collection~50th Anniversary~』についてインタビューした。
「もうこんなに時間が経ったんだとビックリ」
まずデビュー50周年を迎えるにあたっての率直な思いを聞かせてもらった。
「2年ぐらい前にスタッフから『2023年が50周年だからね』って言われて、私は全然気にも留めていなかったので、こんなにも時間が経ってしまったんだっていうことに改めてびっくりしました。50っていう数字がなんだか重かったですよね(笑)」。
伊藤は2019年に41年ぶりに歌手復帰。「まだエネルギーがあるうちに、歌ともう一度向き合うのもいいのではないかと思いました。間違いなくラストチャンスだと思ったので、最終列車に乗り遅れなくてよかったと思っています」と、再び歌と真摯に向き合う決意をし、ソロ1stアルバム『My Bouquet』をリリースし、音楽活動を本格化させた。そして2021年には2ndアルバム『Beside you』を発表。様々な音楽に触れることでますます歌への興味が高まり、3rdアルバム『LEVEL 9.9』を完成させた。
「1stの時は、自分でもどういうことを歌っていいのか手探り状態で、他の方から見た私を描いたような曲をセレクトして歌いました。その後も今の自分に似合う音楽を探す日々は続きましたが、自分の中でこういうのがいいなという希望も出てきて、スタッフのアドバイスもあって2ndアルバム『Beside you』ができあがりました。今回の『LEVEL 9.9』でやるべき音楽がより明確になってきている感じがします」。
「体が思わず動き出すような、ライヴでも映える、楽しくてずっと聴いていられそうな楽しい楽曲が揃ったと思います」
今回の作品も、作家陣の伊藤へのリスペクトと遊び心が詰まった、今の伊藤をイメージし紡いだ希望に満ちた言葉と、メロディが10曲収録されている。それを伊藤が軽やかにしなやかに歌い、心地いいグルーヴが生まれている。
「体が思わず動き出すような、ライヴでも映える、楽しくてずっと聴いていられそうな楽しい楽曲が揃ったと思います。最初に完成した、いしわたり淳治さんに歌詞を書いていただいた『美しき日々』をはじめ、幸せでいることの大切さを求めたいという歌が多いですよね。今を大切にして、希望に向かいたいという思いは、私も含めて作家さんお一人おひとりがそういう気持ちなんだろうなって感じましたし、それが言葉に反映されていると思います」。
伊藤は、名手是永巧一の歌うようなギターが炸裂しているブルースロックナンバー『愛と同じくらい孤独』(作詞:jam 作曲:AKIRA 編曲:是永巧一)の歌詞が特にお気に入りだという。
「<まるで琥珀 傷も嘘も 胸の中で 宝石になる>という歌詞が深くて、自分の中にある傷とか嘘とか、負の感情みたいなものが胸の中で宝石になるんだよという一節が本当に素敵で、孤独を知ることで人は強くも優しくもなれる、そんな視点が好きです」。
大人の“粋”とは?
アルバムのタイトルの『LEVEL 9.9』は、オープニングナンバーの『Dandy』(作詞:森雪之丞 作曲:亀田誠治 編曲:佐藤準)の<レベル“九”で“十”の手前>というフレーズから繋がっている。
「(森)雪之丞さんが『今度は大人で粋な、歌を作りたいんだよね』っておっしゃってくれて。私も“粋”っていいなと思って、その時主人(水谷豊)から聞いた「『粋』って漢字は、九でも十でもない、米一粒のさじ加減の事を表しているらしい」という話を思い出して、雪之丞さんにお伝えしたんです。主人は俳優の地井武男さんから教えてもらったようで、これは多分お芝居についてのことだとは思いますが、『やりすぎず、でも足りなくてもだめ、ちょうどいいところを目指すのが大人で、そこをコントロールできる感じがいいよね』って。雪之丞さんが『それを歌詞にしたい』っておっしゃって、でも“粋”という漢字を、ポップスの中にどうやって入れるのかなって思っていたら、この歌詞ができあがってきました」。
森雪之丞はキャンディーズの楽曲も手掛け、伊藤のソロ作品でも歌詞を提供している。現在の伊藤が歌うからこそ伝わる言葉で、作曲の亀田誠治、編曲の佐藤準と共に「Dandy」という世界を作りあげた。
「自分の息子がいたらこんな感じかなって親目線も入れながら」作詞した『FUNK不詳の息子』
「時には200%の力で頑張らなければいけないシーンが誰にもあると思います。でも心がけとしてハンドルに遊びがあるように、それぐらいの気持ちでいたいなって思います」。
70年代ディスコや80's洋楽を彷彿とさせるダンス&ミドルビート・チューンや、ブルース&ロックテイスト、ネオ・シティポップ的な楽曲などバラエティに富んだ一枚に仕上がっている。伊藤自身が作詞した『FUNK不肖の息子』というインパクトのあるタイトルの楽曲にも注目だ。
「(佐藤)準さんの曲が先に出来上がっていて、仮タイトルにFUNKという言葉が使われていました。準さんに『歌詞はぜひ蘭さんにお願いしたい』と言っていただいて。前作『Beside you』に収録されている『愛して恋してManhattan』も準さんの曲に私が歌詞を書かせてもらって、そこに出てくる2人が結婚して生まれた子供をイメージして書いてくださいというリクエストがありました(笑)。それでニューヨークのやんちゃな男の子をイメージしつつ、自分の息子がいたらこんな感じかなって親の目線も入れながら書きました。でも書いているうちになんだかおかしくなって笑っちゃって(笑)。だって、夢はでっかく持っていこうぜなんて思ってるような子が、『あれ、仕事なかったんだ?』みたいなね(笑)。やれやれって感じですが楽しみながら書けました」。
奥田民生×トータス松本=「春になったら」は「多幸感溢れる歌」
「春になったら」は奥田民生とトータス松本が共作したことでも注目を集めている。トータス松本はアルバム『My Bouquet』に収録されている「ああ私ったら!」、『Beside you』に収録の「あなたのみかた」も提供しており、今回は奥田と共に、キャンディーズの「微笑がえし」へのオマージュを感じさせてくれる作品を書き上げた。
「最初に歌詞をいただいた時は、タイトルからして『春一番』のイメージで作ってくださったのかなと思っていました。でも、えっ<ランランラン>?と思っていたら<Ha Ha>とか<アン・ドゥ・トロワ>とか、聴き覚えのあるフレーズがでてきてあれっ?って。そしたら<ガッツ出してみましょうか><さすらってみましょうか>ってお二人の曲のタイトルも入っていて(笑)。<春になったら何をしよう 夏の終わりから もう考えています>って、そんな早くから待ってるの!? まだ半年以上あるわよって(笑)、すごく楽しい、多幸感溢れる歌なんです。奥田さんとトータスさんの声がコーラスで入ったことで曲がさらにパワーアップしたと思います」。
「直接皆さんの熱気を感じることができるライヴは、とても幸せな時間」
“多幸感”――アルバム全体を通して伝わってくる感覚を表す言葉として、この言葉がピッタリだ。2019年から精力的にライヴ活動を行ない、ファンと感情を交感する幸せな場所として大切にしている。そんな思いからライヴで楽しめる曲、盛り上がる曲をアルバムに、という気持ちが強くなっている。
「みなさんとまたあの場所で、こんな感じで共有できるかなって考えていると、自然にそっちに向かっているのかなって感じています。ライヴを味わって、直接皆さんの熱気みたいなものをもらって、それがとても幸せな時間なので」。
「ソロでキャンディーズの曲を歌う時、最初はどんな顔をして歌えばいいのか、迷いがあった」
8月からはこのアルバムを引っ提げての全国ツアー「伊藤 蘭 50th Anniversary Tour ~Started from Candies~』を敢行する。アルバムのレコーディングメンバーで回る贅沢なツアーだ。50周年記念公演を9月2日に東京国際フォーラム ホールAで行ない、ファイナル(追加公演)の10月21日には、キャンディーズ時代から思い入れのある、ファンにとっても“特別”な場所・日比谷野外大音楽堂(日比谷野音)のステージに立つ。
伊藤は2019年にソロデビューし、ライヴでキャンディーズの楽曲を歌うことについて最初は葛藤があったという。
「キャンディーズでデビューして50年で、私が今こうやって活動できているのもキャンディーズでデビューして、皆さんに愛してもらったからこそなんです。ここまで来たという意味ではやっぱりキャンディーズの部分も、私の一部として大事にしたいですし、皆さんも望んでいらっしゃることだと思います。確かにソロでデビューした当初はキャンディーズの曲を、どういう顔をして歌えばいいのかなという迷いがありました。とにかく今の私ができる事を精一杯やればいいかなと思ったのですが、やはり皆さんが思いのほか喜んで下さっているのが伝わってきたので、これはできる限り当時のまま再現してより楽しんでいただけたら、と思い振りつけなどもなるべく丁寧に見直してみました。やっぱり日比谷野音は特別な場所っていう思いがあるし、野音が100周年で私が50周年のアニバーサリーなので、開放された野外のステージでみなさんと思い切り楽しみたいです」。
「(藤村)美樹さんとの対談は、すぐ二人ともあの頃に戻って『こんな子供っぽい対談になってるけどいいの?』って心配になりました(笑)」
さらに9月1日には50周年記念CD5枚組ボックス「The Platinum Collection~50th Anniversary~」がリリースされる。伊藤と藤村美樹が企画に参加し、選曲していることで話題を集めているベスト盤だ。Disc1はシングルA面コレクション、Disc2はシングルB面コレクション、そしてキャンディーズのオリジナル曲の中から、二人がそれぞれお気に入りの、思い出深い曲を選び、Disc3は伊藤 蘭マイ・フェイバリット・コレクション、Disc4は、藤村美樹マイ・フェイバリット・コレクション、Disc5は、伊藤 蘭&藤村美樹 アワ・フェイバリット・コレクションという内容だ。さらにブックレットには二人のスペシャル対談が3万字という大ボリュームで掲載されている。
「私達が企画に参加したベスト盤は初めてで、50周年で最初で最後になると思うので、美樹さんも参加してくれました。対談ではすぐに二人ともあの頃に戻って『こんな子どもっぽい対談になってるけどいいの?』ってなりました(笑)。それぞれがお気に入りの曲をセレクトして、もちろん被る曲もあったのでそこは譲りあって(笑)。私が一番好きなキャンディーズのアルバムは『夏が来た!』なんですけど、美樹さんも同じで新たな発見でした。当時自分達たちのアルバムをじっくり聴く時間もないし、語り合うこともなかったので、とても新鮮な時間でした」。