関東地方で「春一番」の発表 ただ今年の関東地方は難しく、2月28日に吹いていたと考えることもできる
関東地方で「春一番」
気象庁は3月2日(木)午前、「きのう1日(水)、関東地方で春一番が吹いた」と発表しました。
発達中の低気圧が日本海を東北東へ進み、1日(水)夜の関東は南部を中心に南寄りの風が強まり、気温が高くなったからです(図1)。
東京地方では、最大風速が羽田臨海で13.1メートル、羽田で9.1メートル、東京都心でも8.3メートルを観測しましたが、強い風の範囲は東京湾沿いの狭い範囲でした(図2)。
3月1日(水)24時までの最大瞬間風速は、東京で15.5メートル(南南西の風)、横浜で16.4メートル(南西の風)、千葉で16.5メートル(南西の風)でした。
また、関東地方で春一番の定義のうち、「立春(今年は2月4日)から春分(今年は3月21日)までの間」と「東京で東南東から西南西の風で8メートル以上」という条件は満たしています(表)。
低気圧はあまり発達していませんが、理想的という条件ですので、「日本海に低気圧(理想的には発達)」という条件についても、ほぼ満たしています。
また、前日の2月28日の最高気温は19.4度、3月1日の最高気温19.4度と同じ温度ですので、「前日より気温が高い」という条件は、厳密にいえば満たしていません。
令和5年(2023年)の関東の春一番の発表は難しく、前日の2月28日でも良かったかもしれません。
東京では、2月28日13時35分に南の風8.1メートル(最大瞬間は13時31分に南の風14.6メートル)を観測しています。
最高気温は19.4度で、前日27日の15.0度より高くなっています。
ただ、低気圧が沿海州から間宮海峡に進んでおり、「日本海に低気圧(理想的には発達)」という条件を満たすかどうか判断が分かれるところと思います(図3)。
とはいえ、平成31年(2019年)3月9日には低気圧が沿海州にあり、日本海に入っていないのに関東地方に春一番を発表した例もありますので、2月28日に北陸地方と関東地方が同時に春一番が吹いたと発表する可能性があったと思います。
それだけ、今年の関東地方の春一番は、発表が難しかったのです。
なお、「梅雨入り・明け」と違って「春一番」は後日再検討して確定値を発表するということは行われていません。
関東地方だけ東京都心の一点観測で決定
春一番の発表基準は、春一番が吹かない北日本と甲信地方、沖縄県を除く全国で作られています(前記の表)。
このうち、低気圧が日本海にあるという条件がついていないのは九州南部だけです。
今年、2月10日に九州南部で春一番が発表となりましたが、この時は、低気圧が日本海ではなく、九州を横断しています(図4)。
また、春一番を発表する時の観測値は、関東地方を除いて複数の気象台等の観測値です。
関東地方だけは、東京都心(現在は北の丸公園)の観測値だけで決めています。
つまり、一点観測だけで決めており、関東地方で強い風が吹いても、東京都心で強い風が吹かなければ春一番の発表はありません。
例えば、今年、九州北部と四国で春一番が吹いた2月19日には、最大風速が羽田空港15.5メートル(南西の風)、横浜市で13.9メートル(西南西)、千葉市で11.4メートル(南西)を観測しました。
しかし、東京都心の最大風速は5.3メートル(北西)と、強い南よりの風が吹かなかったため、関東地方に春一番の発表はありませんでした(図5)。
「春一番」の語源と定義
「春一番」の語源については諸説ありますが、「長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)で安政6年(1859年)2月13日に五島近海での海難で53名が死亡したときに言われた」というのが定説になっています。
気象関係者の間で使われた出したのは、昭和31年(1956)2月7日の日本気象協会の天図日記からと言われています。
そして、マスコミに取り上げられたのは、昭和37年(1962年)の「春一番」からです。
昭和37年2月11日の朝日新聞夕刊では「…地方の漁師達は春一番という…」、同日の毎日新聞夕刊では「…俗に春一番と呼び…」と、各紙で取り上げられていますので、このとき、気象庁天気相談所が新聞記者に説明をしていたのかもしれません。
しかし、「春一番」を一躍有名になったのは、昭和51年(1976年)のヒット曲からです。
昭和51年(1976年)3月にリリースされたアイドルグループ・キャンディーズの9枚目のシングル「春一番」は大ヒットしています。
「雪がとけて川になって流れ、風が吹いて暖かさを運んできた」とういう歌のイメージは、当初の海難を引き起こす危険なイメージの「春一番」とは別の側面ですが、「春一番」という言葉を浸透させました。
そして、気象庁には「春一番」の問い合わせが殺到するようになり、気象庁は春一番の定義を決め、昭和26年(1951年)まで遡って春一番が吹いた日を特定し、平年値を作り、「春一番の情報」を発表せざるをえなくなっています。
というより、春一番という言葉が浸透したことを利用し、防災情報の充実をはかっています。
ヒット曲が気象庁の業務を変えたのです。
このような経緯から始まった「春一番の情報」ですが、しばらくは関東地方だけの発表でした。
そして、手間をかけないで素早く発表できるように、気象庁のある東京都心だけの観測値のみを使った基準でした。
「春一番の情報」が世の中に定着するにつれ、他の地方でも発表して欲しいとの要望がでてきたことから、気象庁では体制を整え、関東地方以外でもその地方に適した定義を決めて発表するようになりました。
しかし、関東地方だけは定義を変えると利用者が混乱するのではなどの理由から、昔からの定義をそのまま使っています。
これが、関東地方だけ東京都心の一点観測で「春一番の情報」を発表している経緯です。
「春一番」が吹いたその後
春一番が吹いた後は寒気が南下して寒くなるのですが、今年は寒気の南下が弱く、気温は下がって平年並みの見込みですので、日差しの温もりを感じ穏やかな陽気となりそうです(図6)。
気象庁は「高温に関する早期天候情報」を発表し、農作物の管理に注意するよう呼びかけていますが、これによると、北海道から九州南部にかけては向こう2週間、暖かい空気に覆われやすく、平年より気温の高い地方が多い見込みです。
特に、8日(水)ごろからの5日間ほどは、かなり高くなる可能性がありますので、積雪が多い地域は、落雪やなだれ、急な雪解けにも注意してください。
今年の季節変化も、例年とは違うようですので、安全で快適な生活をするため、最新の気象情報の入手に努めてください。
図1、図3、図4、図5の出典:気象庁ホームページ。
図2の出典:ウェザーマップ提供。
図6の出典:気象庁ホームページとウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。
表の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。