ソニー決算の「鬼滅の刃」効果報道は「本当?」 数字は語る
ソニーの2020年度第2四半期連結決算が28日に発表され、通期予想を上方修正しました。好調の理由に「鬼滅の刃」効果を挙げる記事が目につきましたが、「本当?」と思えたので数字を見て振り返ります。
◇ソニーの好調はゲームが理由なのに…
ゲームなど一部の業界を除き、ほとんどの企業は、新型コロナウイルスのために厳しい決算になっています。ソニーの決算が好調だったのはもちろん、通期予想も上方修正されました。売上高が8兆5000億円、営業利益は7000億円で、当初の予想から売上高は2000億円増、営業利益は800億円増となりました。前年度(2019年度)と同水準の売上高を見込んでいますから驚異的です。
原動力は、新型ゲーム機「PS5」を発売するゲーム事業(ゲーム&ネットワークサービス)です。ゲーム事業の通期予想は、部門別の売上高が2兆6000億円(当初予想から1000億円増)、営業利益が3000億円(600億円増)。グループ全体の売上高予想のうち約3割で、もちろん部門別トップです。
一言で言えば、第2四半期決算も通期予想のいずれも、映画事業などの不振を、ゲーム事業がカバーしている構図です。ソニーの資料からも明確に読み取れます。念のため広報に問い合わせると「その理解で間違いない」という回答でした。
【参考】ソニーの21年3月期、一転最終増益 巣ごもりでゲーム好調(日経新聞)
◇「鬼滅の刃」の見出しありき?
ところがソニーの決算記事では、ゲーム事業をきちんと見出しに取った記事もある一方で、「鬼滅の刃」が貢献した(貢献する)と取れる記事、見出しも散見されます。
まず「鬼滅の刃」の劇場版アニメの業績は、第3四半期(10~12月)に織り込むので、第2四半期(7~9月)には関与しません。
そして「鬼滅の刃」のアニメ、劇場版の数字はソニー・ミュージックグループなので「音楽事業」となります。音楽事業の今期のプラス要因に「ストリーミング配信売上の増加」、通期のプラス効果に「アニメ事業売上の増加」とありました。アニメ事業で「鬼滅の刃」が大きな要素を占めるのは事実ですが、これだけでは「鬼滅の刃」の効果があったというのは早計です。
なぜなら、音楽事業の第2四半期部門別売上高は約2309億円、営業利益が529億円で、他事業に比べて抜けているわけではありません。アニメ事業(アニプレックス)はその一部に過ぎず、人気のスマートフォン用ゲーム「Fate/Grand Order」の収益も音楽事業になり、かつアニメ以外で稼いだビジネスも多いわけです。要するに音楽事業における「鬼滅の刃」の稼ぎは、「そこまでを占めるの?」となるわけです。
一方で、ゲーム事業(第2四半期の売上高5066億円、営業利益1049億円)の存在感は圧倒的です。営業利益では苦戦したものの、部門別売上高で見ればエレクトロニクス事業(第2四半期の売上高5047億円)も無視できないでしょう。それなのにソニー全体の決算の見出しで、「鬼滅の刃」を強調するのは不自然です。
繰り返しますが「鬼滅の刃」を目立たせたいなら、音楽事業のみに絞るとか、記事の仕立てを変えれば済む話です。劇場版が通期で収益に貢献することは事実ですが、ソニー全体の業績を大きく押し上げるかと言えば現段階では「NO」です。
劇場版の興行収入が史上最高クラスの300億円を突破しても、ソニーに入るのは一部に過ぎませんし、ソニーという企業規模の大きさを考えると、存在感が薄くなるのは仕方ありません。ゲームと違い、アニメ事業はカネの稼げるビジネスではないので不利な面もあります。そもそも本当に「鬼滅の刃」の効果があるなら、決算資料に「鬼滅の刃」の文字が入るし、裏付ける数字や理由が開示されるのですが、そうではありません。変な誤解を生まないための決算発表なのです。
ただ市場のイメージが先行し、メーカーが事実を発表すると市場が勝手にガッカリするパターンはあります。スマホゲームの「ポケモンGO」が大ブレークしたときに「任天堂の業績がアップする」と市場が騒ぎましたが、当の任天堂が「限定的」と事実を淡々と発表し、市場が失望したことがあります。「鬼滅の刃」の利益配分を考慮すると、作品のためにも誤解のないように書くべきだと思うのです。
もちろん「知名度」という数字で測れない貢献もありますが、決算は数字がすべてを語ります。にもかかわらず、ソニーグループの業績を後押ししたかのように見せる記事は、「やりすぎでは?」と感じるこの頃です。読者の注目を集めるため「鬼滅の刃」を見出しに入れて、記事の整合性は気にしなかった……と言われても仕方ありません。