仏司法当局、未成年者の拉致・傷害容疑で日本人妻に逮捕状。フランスのメディアはどう報道しているか?
「日本国内における子どもの連れ去り事件でフランス司法当局が逮捕状を発行」とタイトルされた記事が出された。フランスの中道右派日刊新聞、フィガロ紙電子版が30日の朝8時に伝えた。サブタイトルは「日本人妻と離婚手続き中のヴァンサン・フィショ氏(Vincent Fichot)は3年以上、6歳と4歳の実子の消息を絶たれている」だった。
容疑は「尊属者による子どもの誘拐」と「子どもに対する傷害」の2点
これは、日本で暮らすヴァンサン・フィショ氏39歳が、日本人妻に子どもたちを連れ去られたとして、2019年にフランス司法裁判所に告訴していた事件である。容疑とされているのは未成年の子どもを自宅から誘拐したこと、つまり「尊属者による子どもの誘拐」(フランス刑法227-7)、「子どもに対する傷害」(刑法227-15)の2点だ。
共同親権が認められているフランスでは、夫婦の関係が破綻しても、両親双方とも子どもと会う権利を持ち、通常は均等に子どもを養育することができる。片方の親が、他方の親に無断で子どもを連れて引っ越し、旅行などすることは禁止されている。
20年以上前のことだが、筆者自身、幼少の子どもを連れて一人で日本に帰国するためにパリの飛行場に出向いたところ、「お父さんの承諾書はありますか?」と航空会社のチェックインカウンターで聞かれ、「ない」と返事をしたところ、職員数人が立ち上がり騒然となったことを覚えている。駐車場に車を停めるのに戸惑っていた夫が後からやって来たから良いものの、そうでなかったら、間違いなく私は警察に訊問されていたことだろう。
フランス司法当局にも捜査権限あり
しかし、なぜ日本で起きた事件にフランスが介入するのか?日本は単独親権なのだから連れ去って何が悪い?という読者もいるかもしれない。
しかし、フランス刑法は、被害者がフランス国籍保持者である場合は、加害者の国籍にかかわらず、また、事件が起きた場所が国内外にかかわらず適用される(仏刑法113-7)。また、フィショ氏とその日本人妻の子どもたちは日仏二重国籍保持者。つまり、フランス司法当局にも捜査権限はあるのだ。
そこで以下、このフィガロ新聞の記事の抜粋を翻訳してみよう。
「日本に暮らすヴァンサン・フィショ氏が、当時の妻であり子供達の母である日本人女性に、東京で二人の子どもを2018年に誘拐された件で、フランス司法当局は日本人妻に逮捕状を発行した。フランス通信社(Agence France-Presse AFP)が30日に報じた。この国際逮捕状は、子どもの誘拐、及び、子どもを危険な目に遭わせたことに対するものであると、フィショ氏とその近親者は発表した。(中略)現在6歳と4歳になる子どもたちと再会を願うフィショ氏が、今年夏、東京オリンピック開催時に3週間にわたって行ったハンガーストライキはメディアで大きく取り上げられ、他の同じような境遇にある多くの日本人、外国人、父親、母親たちが、子どもと会う権利を求めて声を挙げ始めた。日本では両親が別れた場合、共同養育は法律上認められていないため(原文ママ 筆者注:日本でも離婚後の共同養育は可能なので共同親権のことか?)、片方の親による子どもの誘拐が起きることが多く、また、日本の司法当局もこうした事件を黙認している。
東京オリンピックの開会式に日本を訪れたマクロン大統領は、フィショ氏の望みに反して同氏と面会しなかったが、日本政府とこの問題について協議した。フィショ氏は、日本司法当局から妻が訊問を受けることはないだろうと考えているが、この国際逮捕状発行は、数ヶ月後に成立するであろう同夫婦間の離婚調停でどちらに親権を与えるかについての裁判所の決定に影響を与えることを期待している。『日本の裁判所が国際手配されている母親に単独親権を与えるとすれば、ずいぶん異常なことではないか?』と、フィショ氏は考えている。彼自身は、離婚成立後、3年以上消息がない二人の子どもを妻と共同養育することを望んでいる。フィショ氏の妻の弁護士であるHatsuo Tsuyuki氏はAFPの問いかけに対して『離婚調停中です。私たちは裁判所以外の場で戦うつもりはありません』と答え、国際逮捕状についてはコメントを拒否した。」
また、フィショ氏のハンガーストライキを報道する7月30日のル ・モンド紙は、「フィショ氏によれば、当初、日本人妻はDVを受けたと訴えていたがその後、撤回した」と、また、「公的な数字は発表されていないが、被害者団体によれば約15万人の子たちが片方の親によって誘拐されている」と報道している。
もちろん、フランスでも、カップルの諍いに子どもが巻き込まれることは多々ある。私の知人女性は、新しい恋人と生活するために家庭を離れた夫に対し怒り、彼が子どもに会う機会をなるべく減らすべく裁判をした。しかし、裁判は10年近く続き、その間に子どもたちは成人になり、自ずと自分が好きな時に、母親と父親の間を行き来するようになってしまった。
彼女の思惑は完全に外れたのである。後に、「結局、親である私たちは二人とも時間とお金を失い、弁護士だけが得をした」とこぼしていたが、カップル間の諍いはおとなだけで解決すべき、いちばん大切なのは、子どもの意思と権利の擁護ではないだろうか?2023年度発足予定の日本の子ども庁では、ぜひ、子どもを中心して考えて欲しいと願うばかりだ。
※12月2日、日本時間6時30分に訂正しました。