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宮城県観光PR動画 知事は「男女共同参画の視点から見て問題ない」理由の説明を

小川たまかライター
女性議員と河端副知事との面会の様子(8月22日)

■動画削除は「当初の予定を達成したことによる終了」

――結局、男女共同参画も踏まえながらやってくのが前提だと仰りながら、この動画については、その趣旨に照らしても、問題ないと今もお考えだということなんですか?

――ということでかまいません。

8月22日、宮城県庁で、県内の女性議員らが、仙台・宮城観光キャンペーン推進協議会が制作したPR動画に抗議する特別決議を行い、提出した。村井嘉浩県知事に代わって対応した河端章好副知事は、「ご意見を真摯に受け止める」と繰り返したが、面会の最後になり、男女共同参画の視点から見て問題ないと明言した。

同PR動画の削除方針が伝えられたのは、21日の定例記者会見。タレントの壇蜜さんが登壇する26日のイベントをもってサイト上から削除することが正式発表されている。会見で村井県知事は、記者からの問いかけに「配慮も必要だと判断したということは事実」としながらも、「このキャンペーンをもって一定の役割を果たしたと判断」「秋・冬のキャンペーンの準備に入っていますので、それに向けてもう取りかかろうという気持ちの表れ」と応えた。「配信停止は、批判は関係ないということか」という記者からの質問には「批判があるからやめるのならば、もっと早めにやめておけば良かったわけであります」とも答えている。

また、反対する議員たちの聞き取りによれば、経済商工観光委員会や教育庁では、動画の削除は「抗議による中止」ではなく、「当初の予定を達成したことによる終了」と職員に伝えられたという。

議員からは「(秋・冬に予定されている観光PR動画も)同じような作り方になるのでは」と不安が漏れた。

■「性的・妖艶だからダメ」なのではない

22日の13時過ぎから行われた女性議員による副知事への抗議決議の提出。これに先立ち、午前中には「みやぎ女性議員のつどい」(1999年設立)主催の、公開研修会「仙台・宮城の観光PR動画を男女共同参画の視点でみる」が行われた。

研修会では、佐藤由紀子弁護士が動画の問題点を指摘。動画が、男女共同参画社会基本法、宮城県男女共同参画促進条例の定める基本理念に反しており、「制作・配信は県の責務に反するのではないか」と結論付けた。

たとえば、宮城県男女共同参画促進条例の第3条(基本理念)の2項には、「固定的な性別役割分担意識に基づく制度・慣習等についての配慮」とある。

(参考)動画内に登場する複数の浦島太郎
(参考)動画内に登場する複数の浦島太郎

しかし動画では、一貫して壇蜜さんがホステス役として描かれ、「お蜜の使命は殿方に涼しいおもてなしをすること」とナレーションが入る。実際に壇蜜さんのおもてなしを受けるのは、複数の浦島太郎、伊達政宗(騎馬像)、ゆるキャラのむすび丸(※)。なでられて大きくなるカメの性別は明確にされていないが、カメ以外は全て男性(もしくは男性と思われるキャラクター)だ。もてなす側=若い女性、もてなされる側=男性の構図が明らかであり、老若男女の来県を意図したはずの観光PRとして非常に不思議な構成だ。佐藤弁護士は「固定的性別役割分担意識があまりにも明確に表現されている」と強調した。(※)むすび丸はrice ball boyと表記されたことがある

この動画に関する批判がメディア取り上げられる際、まず「性的な表現が不快」といった声が紹介されることが多い。そしてこういった声に対して、「このぐらいいいじゃないか」「どこが性的なのか」といった反対意見も噴出する。

しかし、女性議員の特別決議の文章を見ると、まず指摘されているのは「固定的な性別役割分担」についてである。

この動画では「家臣の女性が殿方におもてなしをする」という設定で描かれ、宮城県男女共同参画推進条例の基本理念「固定的な性別役割分担意識に基づく制度・監修等についての配慮」や男女共同参画社会基本法ならびに我が国も採択した国連第4回世界女性会議行動綱領にも反しており、大きな問題があります。

さらに、PR動画は性的な内容を連想させる表現が多く、両性の尊厳も貶めるものです。

出典:「仙台・宮城【伊達な旅】夏キャンペーン2017」PR動画に抗議し、配信の即時中止と男女共同参画の視点に立った広報を行うことを求める特別決議

まず、「固定的な性別役割分担」が指摘されていること、また、性的な内容を連想させる表現については、「女性」ではなく「両性」の尊厳を貶めるものと指摘されていることに注目したい。

佐藤弁護士は研修会で、「性的メタファーとも取れる表現の繰り返し」は女性に対する差別の典型事例であるとともに、「男性といってもいろいろ、こういうものを不快な男性もいる」「男性は『こういうものが好きだ』という固定観念であり、男性に対する侮辱・差別の面もある」と指摘した。

まず問題なのは、公的資金(報道によれば、復興の寄付金などが原資の基金から2300万円)で制作された動画が、「固定的な性別役割分担」を表現しているように見えること。また、この動画が性的要素を含むことで、両性を侮辱していること、成人男性のみをターゲットにしているように見えることが問題と指摘している。「性的だからダメ」という単純な主張ではない。

東京新聞(7月28日)で、清水晶子東京大准教授(フェミニズム論)が、次のように指摘していることも合わせて考えたい。

「企業がセクシーな商品の宣伝に性的表現を使うことは何ら問題ない。今回の問題の中心は、そんな事情とは無関係の宮城県のPR動画が、女性を性的対象として描くことで、性別に基づく固定観念を助長しかねない点にある。そんなPRを公的な存在の県が作り、県知事が配信を容認した事実は、重く受け止めるべきだ」

出典:「こちら特報部 壇蜜さんの宮城県観光PR動画物議(下) 県民「逆効果だ」 効果を優先、公共性置き去り「女性差別に甘い日本」

繰り返しになるが、今回の面会で副知事は、この動画について「男女共同参画の視点から見て問題ない」と明言した。また、村井知事は、7月24日の定例会見で、「男女の役割を求めているような動画だという批判がある」という指摘に、「そういう意見はやはりしっかり受け止めたい」としながら、「でも、そういう意図をもって作ったものではないということですので、その点はご理解いただきたいと思います」と発言している。

この動画が、「男女共同参画の視点から見て問題ない」というのであれば、知事らは「女性=もてなす側、男性=もてなされる側」の構図について、意図を説明する必要があるのではないか。反対する議員たちが指摘する点を「問題ない」としながらも、「ご意見を真摯に受け止める」とは、あまりにも空虚だ。少なくとも、この動画を男女共同参画の視点から問題があると感じる議員と、そうではない議員とで、なぜ認識が食い違うのか突き詰めて議論を行うことが、必要ではないか。

たとえばこれが性差別ではなく、障害者差別や外国人差別の指摘だったとして、7月10日の定例記者会見で村井知事が発言したように「賛否両論あったことは逆に成功につながっているんじゃないかなと思っています」と言ったり、今回のように「問題ない」で議論を終わらせたりすることができただろうか。

もっとも、日本のジェンダー格差指数が111位(2016年/世界経済フォーラム)であることを考えれば、こういった動画を行政が制作し、問題ないとするのも、ある意味「当たり前」なのかもしれない。

補足すると、県には21日までに480件の意見が寄せられ、うち8割は批判的な内容だったという。また、この動画については、女性議員だけではなく、野党4会派を代表する男性県議らも7月に配信停止要求を行っている。

■「広報物を検証できる人を必ず入れて」→「引き続き検討してまいります」

下記は、8月22日に行われた女性議員と副知事の面会の一部要約。面会は約30分。坂下康子県議会議員(民進)が特別決議文を読み上げた後で、議員らが意見表明を行った。

22日に行われた公開研修会と面会の様子を取材した
22日に行われた公開研修会と面会の様子を取材した

遠藤いく子県議会議員(共産):宮城県の場合、県が作る広報活動についてのガイドラインがない。(ガイドラインがないことで)歯止めになっていない。ぜひ男女共同参画の問題を、あらゆる県の広報活動に位置付けることを求めたいと思います。

屋代美香仙台市議会議員(自民):普段、寛容、鈍感な環境の中におりますけれども、私から見ても、心地よいものではなかったというのが率直な感想です。昨日から配信が終了するという報道が流れているが、私共の求めている配信中止と終了とは全く意味が違うということをもう一度ご確認いただいて、より一層ご配慮をお願いします。

樋口典子仙台市議会議員(社民):自治体がこういうPR動画を作るということで、本来であればどこをターゲットするか、どういうところを調査するか、そういう仕事としての基本のキ、そこが見えなかったというところがございます。また、(知事は)動画の再生回数をプラスに捉えているのではないか。これが成功事例として他の自治体に広まることを危惧しています。

鎌田さゆり県議会議員(みやぎ県民の声):周囲の高校生に聞いてすぐ返ってきたのは「なぜ羽生君を使わなかったのか」と。「インターネットを見て宮城に来るのは女性が多いのに、なぜ壇蜜さんなんですか? 初めからお色気ありって誰だってわかるじゃないですか」。いろんな声があると思いますが、これも一部なので紹介させていただきました。削除の方針ということですが、自信があるならなぜ9月まで配信を続けないのかと、逆に思ってしまいます。一定の成果があるから削除というのではなく、県民の声に真摯に向き合う中で、反省をしながら削除を決めますという発表がほしかった。そこの部分が非常に残念です。

福島一恵県議会議員(共産):1つは手続きの問題。県庁内での手続きと、推進協議会での手続き。委員の方たちの合意があったのかという問題を指摘したい。もう1つは、これがジェンダーイコーリティーの進んだ海外だったら致命的ということ。(以前の面会で)問題ないというご認識だったので、振り返って検証していただきたいと思います。

河端章好副知事:以前にもお運びいただいて、何回か話を聞いています。繰り返しになりますが、今回のキャンペーンの主旨というのは、7月から9月まで涼しさを(アピールし)、お越しいただくこと。ターゲットは、そういうことを、見ていただけるような方を誘引するということ。ただ、皆さんからいただいたように、いろんな方から批判的な意見、好意的な意見もあるが、そういった意見については真摯に受け止めたいと思っております。

配信終了については知事が記者会見で申し上げている通り。動画を見た人たちは多いが、それはメインではなくて、宮城にお客さんで来ていただく方がメイン。インターハイや全国高等学校総合文化祭(での来県)を除いたかたちで、数社の旅行会社に聞いたところ、7~9月通して(前年比)100%を超えている。一番多いところでは50%アップしたという話も。そういった意味で、キャンペーン全体としては意味があった。そういうことで、26日をもって配信をやめるということでお話させていただいております。

Yahoo!の意識調査では10万人くらい(が投票し)、80%が問題ないと。本県に(問い合わせが)来ている480人の方は逆に8割が批判的な意見。批判も大事ですので、今後真摯に受け止めて、より多くの方に受け入れてもらえるようやっていきたい。秋冬バージョンで同じようなことしますけど今度は温泉がテーマ。皆さんのご懸念のないかたちで進めていくつもり。

坂下議員:県では問題があると認識されたのでしょうか。

河端副知事:変わらないです。ただやはりいろんな意見があるということ。意見を咀嚼しながら対応していく。

鎌田議員:2点あります。宮城県は当初9月までだったけれど、26日のパーティーをもって削除するということについて、教育庁内でどのように共有されたか、会議のプロセスはと質問したところ、「成果が見られたので削除することになったという報告がありました」というご答弁でした。重ねて、今まで県民の皆さんから、税金でこれはいかがなものなのか、親子で笑顔で見られるものにしてほしい、壇蜜さんも気の毒だと、そういう声もあって、「これは反省もしつつ、という説明はなかったのですか?」と重ねて質問したら、「それはありません、とにかく成果が出たので、一つの区切りとします」と終始しました。今の副知事のお話だと、それと同じ。今ここで副知事には、県民のこれまでの声、選ばれている議員のさまざまな動き、これを受けて、いったん顧みる、反省の気持ちが必要だ、そういうところに鈍感になってはいけないと、副知事が今日仰るべきだと思う。

もう1つ、これから先ぜひ、男女共同参画の視点からも、こういう広報物を検証できる人を必ず入れてほしい。今回のように観光課長さんが1人見て、あとはご担当の人が見ていなかった。ましてや仙台市も見ていなかった。そういう組織体制では、パブリックの組織として、税金を使って何かを行っていくということの根本を問われます。そういうところの構造を改めていくという2点を、この機会を通してご明言いただきたいのですが。

河端副知事:ご指摘のところ、確かにわかりますので、そういった意見を参考にしながら引き続き検討してまいります。ということで。

(議員らから苦笑が漏れる)

福島議員:知事に伝えていただくということで。

河端副知事:伝えます、伝えます。

樋口議員:成果が出たという風に仰いました。当初キャンペーンは9月までということでしたが、今の時点でなぜ成果が出たと評価するのか。キャンペーンが始まる前の数値的な目標や根拠は。

河端副知事:数値的な成果は…(後ろの職員を振り返る)。

職員:キャンペーンでは具体的な数値目標は定めておりません。数値目標は定めずに、これまでもやってきました。ただ、夏のキャンペーンはこれで3年目。とにかく震災前の、宮城県の最大(観光客数)6129万人。これを通年で頑張ろうと。7月から9月まで、なんとか前年度を上回っていきましょうと。(まだ8月なので発表されているデータがないが)各旅行会社等に調査をしたところ、各社とも110~150%、とくに8月の伸びがかなり大きかったということもあって、それは庁内で情報共有させていただきました。

福島議員:まだ実数ではないですよね?

河端副知事:そうです、そうです。いずれ。

白内恵美子柴田町議会議員:「女性議員のつどい」で問題にしているのは男女共同参画の視点。村井知事はそこが欠落している。欠落している知事に対して、職員はどのような働きかけをしているのか。

河端副知事:欠落というか、ひとつの評価で、個人的にもお伺いして…そのへんは知事にお伝えします。我々は男女共同参画の主旨も踏まえながら当然やっていくと。その中で皆さんのように思われるような方もいるということを真摯に受け止めて、今後に生かしていく。

菅野直子仙台市議会議員(共産):結局、男女共同参画も踏まえながらやってくのが前提だと仰りながら、この動画については、その趣旨に照らしても、問題ないと今もお考えだということなんですか?

河端副知事:ということでかまいません。

菅野議員:驚きです。

白内議員:だったら、次の温泉(の動画)なんかも、同じような作り方になるんじゃないですか。

河端副知事:皆さんのご意見をきちっと、そういった趣旨を踏まえて。

白内議員:意見をしっかり聞けば、こういう作り方はできませんよね?

河端副知事:総合的にいろんな意見を。

職員:お時間でございます。申し訳ございません。

河端副知事:皆さんの意見は、しっかり知事に伝えたいと思います。

福島議員:それぞれ市町村も推進議会に入っておりますし、9月は市町村議会、県議会もありますので、その場でもまた、男女共同参画の視点というのは、どういうものかということを含めて、我々も普段から訴えていかなければならないんだなということがわかりました。今日は本当にありがとうございました。

ライター

ライター/主に性暴力の取材・執筆をしているフェミニストです/1980年東京都品川区生まれ/Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット大賞をいただきました⭐︎ 著書『たまたま生まれてフィメール』(平凡社)、『告発と呼ばれるものの周辺で』(亜紀書房)『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を』(タバブックス)/共著『災害と性暴力』(日本看護協会出版会)『わたしは黙らない 性暴力をなくす30の視点』(合同出版)/2024年5月発売の『エトセトラ VOL.11 特集:ジェンダーと刑法のささやかな七年』(エトセトラブックス)で特集編集を務める

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これまで、性犯罪の無罪判決、伊藤詩織さんの民事裁判、その他の性暴力事件、ジェンダー問題での炎上案件などを取材してきました。性暴力の被害者視点での問題提起や、最新の裁判傍聴情報など、無料公開では発信しづらい内容も更新していきます。

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