‘若者’と’改革’掲げ、韓国で「新しい保守党」が発足…保守再編なるか
4月に総選挙を控えた韓国で、政界再編の火ぶたが切って落とされた。過去、朴槿恵前大統領を見限った保守派議員たちが新党を結成し、保守の再生を訴えた。核心的な価値は「若者」と「改革」。詳細をまとめた。
●国会で中央党創党大会
「新しい」「保守!」
「大韓民国の」「革新!」
「新しい保守党」「ファイト!ファイト!ファイト!」
5日午後2時過ぎ、韓国・国会議員会館の大会議室に大きな掛け声が鳴り響いた。500人定員の会場は後列までぎっしりと埋まり、20人近いカメラマンがシャッターを切る。
政党の集会には似つかわしくない青年層の姿が会場に目立つ。子連れの母も数人おり、時折り赤児が泣く声も聞こえる。
この日の「ドレスコード」はジーンズと白い服。ベテラン国会議員も例外ではない。司会も30代前半とおぼしき男女が萎縮する様子もなく、冗談も交えながらはつらつと行っていた。
いずれも「新しい保守党」が掲げる「若者の政党」を意識し、強調したものだ。
同党は昨年12月27日の慶尚南道を皮切りに、大邱市、ソウル、京畿道、仁川、大田、忠清南道などで結党大会を実施し政党要件を満たした。そしてこの日、中央党組織の結成を迎えた。
「新しい保守党」。何らひねりの無い政党名であるが、「革新」を掲げ、従来の保守政党とは違う道を目指すという。創党大会からはその片鱗をうかがい知ることができた。いくつか特徴をまとめてみる。
なお、党の来歴を簡単に記しておく。2017年の朴槿恵大統領の弾劾を受け、当時の与党・セヌリ党(現自由韓国党)を脱退した人物たちが中心となっている。3年余り離合集散を繰り返す中で、古巣の自由韓国党に戻った議員も少なくないが、最後までそれを良しとしなかった議員たちだ。
4月の総選挙を控えその間の「決算」を行う政党を結成したと見ればよいだろう。
●特徴1:若者の政党と多様性
同党には8人の現役国会議員が所属している。このうち最多当選(5回)の鄭柄国(チョン・ビョングク)議員はこの日の挨拶の中で、「あくまでも若者が党の主体である」とし、「私達は若者のための柵となる。その中で若者が新しい政治を行えれば」と訴えた。既存の政党からは、なかなか聞かれない言葉だ。
また、党大会では「コンデ」という言葉も連発された。「コンデ」とは、韓国でここ数年よく使われる言葉で、特に50代以上の「説教おじさん」を指す。より直截には、ほぼ「老害」と同意で使われる。
同党の「顔」と言える劉承ミン(ミンは日へんに文、ユ・スンミン、61歳)議員は挨拶の順番を迎えるや否や「コンデの時間が来た」と笑いを取った。
こうした発言の背景には、昨年夏以降、若者の間に決定的に広まった既存世代への不満を受け止める狙いが透けて見える。
特に子どもの学歴のためにあらゆる方法を使った(と見なされている)、チョ・グク氏を象徴とする「富と地位を分配しないリッチな86世代」に対する若者層の怒りは強い。
※86世代とは、60年代生まれで80年代に大学に通った世代。民主化の果実を社会的にも経済的にも独占した世代と解釈される。
また、4月の総選挙の候補者公認過程において、100%青年で構成されたグループが、その公正性を監視するシステムが導入されることが発表されるなど、とにかく「若者づくし」の感すらあった。
「わが党は若者中心党だ」という議員の発言もあった。こうした一連の発言からは、同党はどこを向いているのかが良く分かる。
この日はまた、現役高校生党員が壇上に立ったことも印象的だった。昨年末の選挙法改正により選挙権は18歳にまで拡大された影響だ。
他に、30代の主婦やNGO活動家、さらに北朝鮮出身のいわゆる脱北者(北韓離脱住民)が壇上に上がり、支持を訴えた。
●特徴2:改革する保守、その主張
韓国で「保守」を定義することは意外に難しい。韓国政府樹立(1948年)当初からしばらくの間は「財産権」や「反共」、「自由主義」がそのアイデンティティであったが、時代と共に今は曖昧となっている。
「新しい保守党」が掲げる保守は以下に要約される。会場で提示された「政綱政策」のスライドを引用してみる。
保守とは「国・共同体・価値を守るもの」
憲法を守る政治
経済と安全保障を守る有能な政治
子どもを産みたくなる国家建設が最優先
両極化・不平等の解消と共同体の回復
若い人材、保守再建
さらにその下に、次のような15の綱領を掲げた。
(1)共和と正義 (2)法治と平等 (3)公正で自由な競争 (4)若い政党 (5)市場経済改革 (6)革新成長 (7)公正労働 (8)両極化解消 (9)中負担・中福祉 (10)子どもを育てたい国 (11)未来と機会の教育 (12)健康と安全 (13)きれいな環境 (14)国家安保 (15)政治行政改革
内容のうち目立つのは「中負担・中福祉」という点だ。これは過去2015年に、劉スンミン議員が朴槿恵大統領と袂を分かつ決定的なきっかけとなった「増税のない福祉は虚構だ」という発言に由来する。
税負担を拡大し、同時に福祉を増大させるこの構想は劉議員の古くからの信念でもある。これを支えるものとして自由競争があるという認識だ。
この日、別の所属議員が語った「貧しい人は裕福な人に、裕福な人はより裕福に。そして裕福な人が貧しい人を助ける」という発言も、党のアイデンティティを端的に表している。
また、南北関係については「強い安保」をまず掲げ、「南北すべての人々が自由で正義が実現する大韓民国に住む」というビジョンを掲げた。これは旧来の保守派の立場を踏襲したものと言える。
この枠組の中で南北協力をどう行っていくのかを含め、他の分野においても細かい政策についての発表はこの日は無かった。
●特徴3:自由韓国党や進歩派との差別化
最後に他の政党との差別化された部分を抜き出してみる。
まず、同じ保守派の自由韓国党については、その問題点を正面から取り上げた。その頻度は、文在寅政権についての言及よりも遥かに多かった。
特に昨今、自由韓国党の黄教安(ファン・ギョアン)代表が国会を離れ、路上でのデモを盛んに行っていることについて痛烈に批判した。
ベテラン女性議員の李恵薫(イ・ヘフン)議員は「闘争だけの政治はしない。(与党と)交渉し、意見を折衷して得るものは得る、新たな保守政治を行う」と語った。
李議員はさらに「代表が独走する党体制ではなく、政党内の民主主義を回復させる。初当選と二選議員が中心となって運営する」とも述べた。これも黄教安代表が4月の総選挙における公認権を盾に、権威的な党運営を続ける自由韓国党を意識してのものだ。
その上で李議員は「左右の翼が健康で無ければならないのに、大韓民国は墜落している」とし、「故障した右の翼(右派を指す)は私達だけが修理できる」と述べた。
こうした発言は、同党が現在の保守の代名詞的存在である自由韓国党に取って代わろうとする意思の現れだろう。李議員は「新しい保守党が大韓民国を生き返らせる」と啖呵を切った。
またこの日、「若者」と並びとみに強調されたのが「公正」や「正義」という言葉だった。党の綱領を発表する際には「左派に奪われた正義と公正を取り返す」と言及され、「既得権を譲る」という言葉をも使った。
これは昨夏、韓国全土を巻き込んだ議論になったチョ・グク氏の法務部長官任命をめぐるスキャンダルを念頭に置いての発言だろう。高い道徳性を掲げたものの、期待に応えることができない文在寅政権に失望した層へのアピールとなる。
●保守派再編なるか
筆者が先日の記事でも書いたように、韓国では旧与党・自由韓国党の失態により、保守派への支持が目に見えて失われているのが現実だ。だが、今なお韓国の多くの市民は「進歩」vs「保守」という枠組みで物事を捉える傾向が根強い。
「韓国政治の主流は進歩派に」…2019年に起きた大変化とは
https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20191229-00156952/
そんな保守派市民の需要の受け皿になれる場合、存在感が増す可能性が十分にある。劉スンミン議員はこの日、総選挙の目標は現在の10倍となる「80議席」と宣言した。この実現は難しいだろうが、4月の総選挙では今よりも多くの議席を獲得すると見られる。長期的にはさらなる伸びしろがあるだろう。
自由韓国党との統合には、過去、劉議員が掲げた保守統合のための三原則、つまり▲朴槿恵前大統領の弾劾を直視し(自省し)、▲改革する保守を目指し、▲古い家(自由韓国党)を壊し新たな家を建てる、という部分での合意が必要となる。
だが、現在の自由韓国党は「親朴槿恵派」が実権を握っており、統合は厳しい。同党の河泰慶(ハ・テギョン)責任代表はこの日、韓国メディアとのインタビューで「わが党と自由韓国党ならば、先に無くなるのは自由韓国党」と言明したほどだ。
また、今月初頭に政界復帰を宣言した劉議員の過去の盟友・安哲秀(アン・チョルス)氏も劉議員の呼びかけを黙殺するなど、煮え切らない態度を続ける。
とはいえ、見てきたように結党間も無い「新しい保守党」としては、扉を開けておいたまま、まずは打ち出した独自のカラー、バラ色の公約を現実に移すことが先決だ。それをせずに票読みを始めると、またしても保守再編は遠のくことになるだろう。