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「日本に行きたい選手は私が知る限り5人はいる」女子ゴルフQT1位の韓国選手が教えてくれた“内部事情”

金明昱スポーツライター
日本女子ツアーのQTファイナルを1位で通過したソン・ガウン(筆者撮影)

 初めて話した印象は少し控えめ。強さのイメージからはかけ離れた幼顔なのに、ゴルフはめっぽううまい――。今月5日に23歳になる韓国のソン・ガウン(宋佳銀)が日本女子ゴルフツアーのQT(予選会)ファイナルステージでトップ通過を果たした。

 しかも、最終日にノーボギーの67をたたき出して通算9アンダーで逆転。2位に2打差をつけてその実力をまざまざと見せつけた。今年、日本のプロテストには8位で一発合格を果たしたいわば日本では“ルーキー”ではあるが、彼女はすでに韓国ツアーで2勝している実力者だ。

 2019年に韓国2部のドリームツアーでプロデビューし、21年から韓国レギュラー(KLPGA)ツアーに初参戦し、「ハナファイナンシャルグループチャンピオンシップ」で初優勝した。同年は新人賞も受賞し、22年は2勝目もマーク。今季は勝てていないが、賞金ランキング43位で来季のシードも確定した。

 これで来季は、日本ツアーは前半戦出場権と韓国ツアーフル出場権を手にいれたわけだが、「メインは韓国ツアーになりますが、日本は出られる試合はなるべく出たい。スポンサーとスケジュールを話しあったうえで、決めていきたい。少しでも日本ツアーの環境に慣れていきたいというのが本音です」と笑顔を見せる。

韓国スポンサーの関係で「来季メインは韓国ツアーに」

 日韓を行き来しながら、両ツアーのシードを維持するのはかなり難しい作業になるが、イ・ボミも来日1年目はそうだった。やはり韓国企業のスポンサーとの契約上、来季は韓国の試合をメインに戦わなければならない事情がある。

 ただ、ソンは「いろんなツアーを経験したい気持ちが常にあった」という。その中の一つが、米国ではなく日本。その理由については「飛距離が出ないので米ツアーは考えていません。日本は高麗芝のゴルフ場があります。私は高麗グリーンが得意なので、試合をするのが楽しみ」と話す。

 来年3月の開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」には「120%出ます(笑)」と前のめりに話していたが、ここは韓国ツアーの開幕が例年4月というのも関係している。つまり3月の1カ月は日本ツアーに出場の可能性が濃厚だ。

 ソン・ガウンが来季日本ツアーの前半戦で第1回リランキング突破するのは、3月の1カ月が勝負になりそうだ。

「1度は日本でプレーしたい韓国選手は多い」

 それにしても、今回驚いたのは、韓国で賞金ランキング40位程度の選手が、日本のQTでなんなく1位になってしまったこと。もちろんプロとして2勝もした実績のある選手とはいえ、そう簡単に日本の予選会で1位になれるものでもない。

 ひさしぶりに“強い”韓国の若手の力を見た気がしたが、そんな彼女に聞いてみたいことがあった。「あなたのように日本に来てみたい若い韓国の選手はどれくらいいるのか?」と。するとこんなことを教えてくれた。

「私も正確には分からないのですが、一度は日本でプレーしてみたいという選手がいるのは知っています。しかし、日本のプロテストを受けるには、韓国ツアーを何試合が欠場しないといけません。それが一番のネックになっているのは間違いありません」

 現在はプロテストに合格して日本ツアーの“正会員”にならなければQTが受けられない。そのため、韓国ツアーを主戦場にする選手が気軽に日本ツアーに挑戦できなくなっている。

「それでも私が知っているだけでも5人ほど、日本ツアーでやってみたいという選手がいます。もちろんその他にもいると思うので、その数はかなり多いと思います」

なぜ日本ツアーに憧れるのか?

 なぜ日本ツアーに憧れるのか。「日本ツアーはギャラリーのマナーやゴルフファンの熱心な姿など、伝統の文化がものすごくいいと聞いています。コースコンディションもものすごくいいという認識があります。これはKLPGAツアーのなかで日本ツアーに対する共通した認識がそのような印象なのです。私もそんな話をたくさん聞いてきましたから」。

 ただ、韓国ツアーに魅力がないのかといえばそうではない。

「実際に韓国も試合数も賞金額も増えていて、とてもいい環境になってきてます。なので、米国や日本に出なくていいと考える選手も当然います。ただ、私は一度は日本で戦ってみたいと思って今回、こうしてチャレンジしました」

 韓国メディアは「ソン・ガウン“首席合格”!」との見出しでQT1位通過のニュースを大きく報じていた。ソンのように日本進出をもくろむ韓国選手が来年以降、ジワリと増えていく可能性はありそうだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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