ネイサン・チェンが夢を追う人にアドバイス「失敗から学ぶ『探求』と、完璧を求める『強化』を繰り返して」
北京五輪金メダリストのネイサン・チェン(24)が7月31日、自身著作の絵本「ウェイと金のスケートぐつ」の出版を記念して、都内でトークショーを開いた。夢を追いかける人たちへのメッセージを問われると、こう語った。
「目標への道のりに付き添ってくれる人がいることで、幸せを感じることができるし、成功も出来ます。僕自身、以前は試合で失敗すると落ち込んだこともありました。でも応援してくれる人がいて自分がやりたいことが出来るというのは、どれほど幸運なことかに気づくと、人生が変わります。感謝をすることで、不安をひっくり返すことが出来るようになりました」
約100人のファンが参加し、チェンがさまざまなエピソードを披露するたびに大きな拍手がおきた。
「家族が、幸せになるための思考へと導いてきてくれた」
絵本は、アジア系の少年であるウェイが、フィギュアスケートと出会い、大好きなスケートとともに成長していく物語。初めての試合が近づくにつれて、楽しさよりも緊張や不安が高まるなか、母からのアドバイスで、結果よりも楽しむことの大切さを見出していく。今年2月に米国で発売された絵本『Wei Skates On』を翻訳し、8月1日に日本語版の発売に至った。
「自分が少年だったときに、こんな絵本があったら良かったなという思いから、絵本を書きました。完全に自分自身というわけではないのですが、アジア系の少年がこの絵本を見た時に、インスピレーションを感じて、頑張ってくれたら嬉しいなと思います」
絵本の中で大きなメンターとなるのは、母の存在。実際にチェン自身も、北京五輪で金メダルを獲得後、母の首に金メダルをかけて「母の存在なくして、ここまで到達することは出来なかった」と感謝を伝えた。母や家族の存在は、何よりも大きな支えだったという。
「幸運なことに、僕には兄2人姉2人がいて、本当にたくさんのことを教えてくれました。一生懸命に取り組むことの大切さ、謙虚でいくことの重要さ、自分のやるべきことに集中すること、他の邪魔なことは考えなくてよいということ。幸せになるための思考へと導いてきてくれたんです。楽しいときは一緒に楽しみ、苦しいときは励ましてくれる、そんな家族に恵まれてきたと思います」
チェンはたびたび自身のSNSに兄弟や家族と仲睦まじい写真を掲載。この絵本の制作にも、家族の協力が大きかった。
「僕の姉は、英文学を専攻しているのですが、この絵本を書くにあたって、メッセージが明確に読者に伝わるかなど、ソーシャルメディアの視点から手伝ってくれました。絵本の主人公ウェイと同じで、家族の支援を受けることで、この絵本が完成したんです」
「スケートと氷上以外での学びを合わせることで、将来なにができるのか」
絵本の中でテーマとなっているのは、夢を追いかけるなかで、困難をどうやって乗り越えていくか、という思考法。チェン自身はどうやって困難を乗り越え、成長を続けてきたのか聞かれると、こう答えた。
「これは僕のトレーナーさんからのアドバイスなのですが、『何か上達するためには、2段階のステージがある』と言われました。ファーストステージは『探求』。失敗してもいいので、どんどん頑張って、失敗から学びを蓄えていく時期です。するとセカンドステージの『強化』の段階になります。今度は、少しシンプル化してでも完璧を目指すというもの。それが心地よく出来るようになったら、また探求のステージに戻り繰り返していくことで、成長し続けることができます」
五輪メダリストからの重みのある言葉に、参加者が何度もうなずきながら聞く姿があった。また今後の活動について問われると、こう答えた。
「今は人生を探っている時期。すでにスケートを通じて人生1回分を生きてきた感覚なのです。でもスケートは常に自分と一緒にあり、常に戻って来たい場所。今でも、新しいプログラムが浮かんだり、次はこれをやりたいなという気持ちがあるので、スケートは続けていきます。それと同時に、氷上以外のことでの学びもあります。その2つを合わせることで、将来何ができるのかを考えていきたいと思っています。最後に、日本の皆さんは、いつも温かく迎えてくださり本当たくさんの愛を感じています。ありがとうございます」
絵本「ウェイと金のスケートぐつ」(新書館)は8月1日に全国発売。チェンはアイスショー『ザ・アイス』の公演のため来日中で、8月2~4日には盛岡公演に出演する。