「投げたがり」の根尾、150キロの二刀流デビュー。ロウキ世代には負けられない!
思えば根尾昂は、高校時代から「投げたがり」だった。
21日の広島戦。1対10と点差が開いた8回、根尾はプロ初登板のマウンドに立つと、坂倉将吾への初球に自己最速タイの150キロを投じるなど、同期の小園海斗を含め打者4人を15球で無失点に抑えた。
「抑えられて素直にうれしいです。どんどんストライクを取っていこうと思いました」
という根尾は、9回には先頭打者として打席にも立った。ケムナ誠との対戦は一塁ゴロだったが、これが一軍での“二刀流デビュー“となったわけだ。
外野をやったかと思えばショート、さらにはピッチャーも……というどっちつかずの起用法には疑問の声が上がるが、さほど本格的にピッチャーの練習をしなくても150キロというのは、観客にとっては夢を感じさせてなかなかいい。根尾自身も、おそらく楽しかったのではないか。
守り、打ったあとに「投げていいですか?」
思い出したのが、大阪桐蔭高時代の話。大阪桐蔭の練習は、ケース打撃が多いのが特徴だ。投手、打者、走塁、守備……すべてに役に立つ実戦形式。在学中の根尾は、野手として守り、打ったあとでも、自分が投球したいと思えば「投げていいですか」と西谷浩一監督に申し出ていた。西谷監督によると、
「コンディションによっては、"オマエ、今日はやめとけや"という日もあるんですが、それでも投げたがる。ブレーキをかけないと、いつまでも練習しているタイプです」
そして、こうも付け加える。
「(根尾は)野手のときは優等生。ただピッチャーになると、人が変わって我が強く、性格もふてぶてしくなります。たとえば試合中、タイムをかけてスパイクのヒモを直しますが、本当にほどけているのかどうか(笑)。単に間を取りたいだけかもしれません」
根尾の高校時代といえば、史上唯一の2年連続胴上げ投手として知られる。2017、18年と大阪桐蔭が史上3校目のセンバツを連覇したとき、いずれもその瞬間のマウンドにいたのだ。それを含め、高校時代は4回甲子園に出場し、投手として5勝0敗。42回を投げて41個の三振を奪い、防御率は1.93である。
僕が見たなかでピカイチの投球は、17年秋の近畿大会、近江(滋賀)との準決勝だ。先発した根尾は初回、2死一、三塁のピンチをスライダーの空振り三振で切り抜けると、以後は三振の山。5回で早くも先発全員から毎回の10三振を奪い、終わってみれば、毎回の16三振で7安打完封だ。最速145キロ、スライダーのキレも抜群で、近江打線は「見たことのない球、体験したことのない球威」とお手上げだった。
吉田輝星からバックスクリーン弾
史上初の春夏連覇を果たしたその夏は、どちらかというと野手としてのアピールだ。沖学園(南福岡)との2回戦で初ホームランを放つと、金足農(秋田)との決勝では吉田輝星(現日本ハム)からバックスクリーンに自身この大会3本目のアーチを架ける。
センターを守った大友朝陽が「センターライナーかな」と一瞬前に出たが「ぐんぐん伸びて、頭の上を越えていった。あんな打球、見たことありません」という破格の一撃だった。この大会の根尾は、21打数9安打の打率・429で3本塁打の5打点。甲子園19試合の通算でも・371という打率を残している。
守備でも、高校時代から光っていた。たとえば、一塁走者が走る。ショートの根尾は一瞬、ベースカバーのために左足に重心を乗せる。だが実はエンドランで、打球は三遊間へ……。そのときバネ仕掛けのように反転する体の切り返しが絶妙だ。しかも、目の覚めるような一塁送球。
「スキーは一見、足腰でバランスを取っているように見えますけど、上半身なんです。野球でも、全身を連動させるには、上半身のバランスや柔軟な動きがすごく大切だと思います」
とは、中学までのスキー経験をもとにした根尾の解説だった。
さてさて、今後の根尾はどんな活躍を見せてくれるのか。ミレニアム世代といわれてプロ入りした18年ドラフト指名組には吉田、小園のほかにも藤原恭大(ロッテ)らがいる。藤原なら佐々木朗希、根尾なら石川昂弥と、同じチームで輝く1学年下の世代に負けてはいられない。