組体操の「全廃」から教育委員会の対応を問う 「二人三脚」も組体操に含まれる?
■組体操の全面廃止が進む
組体操のあり方をめぐって、教育委員会が揺れている。
大阪市教育委員会は、昨年9月の「ピラミッド5段、タワー3段まで」という規制をさらに強化し、「ピラミッドとタワーの禁止」を決定した。さらには先日、千葉県の柏市教育委員会が組体操の全面廃止を検討していることが明らかにされ(2/18組み体操全面廃止へ 千葉・柏)、さらには昨日、同県の流山市教育委員会が全面廃止を決定したことが報じられた(2/22組み体操全般廃止 千葉・流山)。
■「組体操」とは何だったか? 「組体操」と「組立体操」
まるで組体操は、「百害あって一利なし」のような雰囲気が漂い始めている。
しかしながら、そもそも「組体操」とはいったい何だったのか。「組体操=巨大ピラミッド」という印象が強すぎて、組体操そのもののあり方をめぐる議論が、誤った方向に進んでいるように思えてしまう。
「組体操」に類する語として、「組立体操」という語がある。1940年代から組体操関連の著書を数多く執筆してきた濱田靖一氏[注1]は、「組体操」を「二人以上の人たちが組んで行う体操」と規定し、「組立体操」を「表現性の強い体操」であり「空間に互いの意図する造形を構築し、美の共同感ともいうべき雰囲気を味わうもの」と説明する[注2]。
■「二人三脚」も組体操?!
単に組むだけのものは「組体操」と呼ばれ、何らかの形を模したものは「組立体操」と呼ばれる。したがって、ピラミッドやタワーは、後者の「組立体操」に属することになる。
そうだとすれば、「組体操」とはいったい何なのか。複数名の身体に接点があれば「組んでいる」ようなものであるから、指導書には多種多様な「組体操」の例が記載されている。そして、「二人三脚」や「(足を固定されての)上体起こし」もまた、「組体操」の一例として紹介されている。
今日では「組立体操」という言葉を耳にすることはほとんどなく、すべての技が「組体操」と一括されている。ここで大事なのは、その両者を精確に区別することではなく、「組体操」というのは二人以上が組み合うなかでおこなわれる、じつに多様な運動を含んでいるということである。
■「全廃」はどこにたどり着くのか
組体操の全廃という決定は、いったいどこまでの活動を廃止しようとしているのか。先述の二人三脚や上体起こしまでを禁止しようとしているのか。いや、そうではないだろう。
二人三脚や上体起こしは、「あまりにも組体操らしくない」とするならば、「扇」や「倒立」はどうだろうか。さらに「サボテン」や「(2~3段の立体型)ピラミッド」はどうだろうか。これらは今日の「組体操」(あるいは「組立体操」)の指導書にもしっかりと紹介されている技である。
組体操の全廃とは、けっして巨大組体操の縮小化ではない。それは、危険性の大小にかかわらず、際限なくあらゆる組み技をなくすことにたどり着く。リスク研究者の意見を聴取するまでもなく、ゼロリスクは神話である。組体操の問題は、高すぎるリスクを低減することであり、ゼロリスクを目指すものではない。
そして結局のところ、「全廃」の議論では、組体操のどの技がどの点で危険なのかという具体的な検証は置き去りにされてしまう。
■「ピラミッドは5段まで、タワーは3段まで」という謎の基準
組体操の具体的な危険性の検証は、じつは「全廃」以外の場面でも置き去りにされている。
このところ、いくつかの教育委員会が、一見すると妥当に思える規制を敷いている。「ピラミッド5段、タワー3段」という基準である。なるほど、「10段」に比べれば、はるかに段数は少ない。
しかしながら、私がこれまで強調してきたように、とくにタワーは3段であっても十分に危険性が高い(「ピラミッドよりタワーが危険」、「組体操 文部科学省が突然の方針転換」)。「3段」という数字の少なさが、危険性を見えなくさせているだけであり、具体的にその危険性が検証されているとは言い難い。
■文部科学省は具体的な検討材料を提供すべき
今日、教育委員会の対応は、1) 全廃という極端な方針、2) 「ピラミッド5段、タワー3段」等の安全には程遠い方針、3) 学校現場任せの方針、の3つにわけられる。
これらいずれの対応にも共通するのは、具体的な危険性の検討が不十分であるということだ。少なくとも、これまで組体操の危険性について調べてきた私にとっては、そう思えてならない(私自身が考える安全性の高い組体操の技については別稿にゆずる)。
組体操は、じつに多様な技を含んでいる。そのすべてに言及することは不可能に近いが、それでも代表的な技について具体的に目に見えるかたちで、その危険性と安全な組み方(のプロセス)が周知される必要がある。国が一括して、具体的で詳細な組体操指導の検討材料を示すことで、各教育委員会における組体操指導の見直しが、確かな歩みとして進んでいくことを切に願う。
[注]
注1:今日流行している巨大組体操推進の系譜とは異なる。
注2:ただし濱田氏自身も他の著書では、厳密に区別せずに一括して「組体操」と記している場合もある。